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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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214/307

アーシュ14歳10の月開店

これはかなり売れるだろうということで、大きめの店舗を用意してくれることになった。まずは魔物肉の工場、すぐに店舗の稼働となる。料理人は、独立したい若者がたくさんいるので集められると言うことだ。コノートさんは続けた。


「さっきのスープだが」

「あれは干し肉や干し魚、そして干しきのこがないとちょっと難しいです」

「ふうむ」


「メリダでは、あれは朝食として売り出してたがな」


グレッグさんが言った。私は懐かしくなった。


「そうですね、材料さえあれば簡単だし、ギルドであれにパンをつけて売りましたねえ」


結局ほぼ全部のギルドに広げたのだった。


「おかげでケガが減ってな」

「よかったです」

「その話、聞かせてもらおうか」


ん?


「いや、朝食を食べずにダンジョンに潜る奴らが多くてな、朝食を出したら途端にケガが減ってな」

「建築の労働者にもケガが多い。もともと危険な仕事ではあるのだが、家庭を持たない奴らは食をおろそかにしていてな」

「えっと、外食するだけの収入は……」

「あるぞ。体が資本だから、結構稼ぐ。材料を揃えられたら、朝食も出せるか」

「何食くらいでしょうか」

「とりあえず30、しかし現場が結構あるからな」

「ふむ」


私は考えた。


「現場はその時によって違いますよね、店舗ではなく、屋台にして現場ごとに派遣、朝食なら学校に行く前に2時間ほど働くことができるし、1人大人を責任者にして、近くの孤児院から派遣してもらえれば、学生でも手伝えるか……料理はまとめて作って鍋ごと配達するか、そうすると配達の仕事もできるかな……」

「アーシュ、声に出てるよ」

「あ、ごめんね」


考え込んでいる間に、コノートさんとグレッグさんは何かを話している。


「なんだこの子は……」

「メリダで既に事業をいくつか立ち上げてんだよ」

「は、いくつの時だ、それは」

「宿屋を始めたのが8つか、9つだったか」

「宿屋?」

「さっきの料理は宿屋で出してたものだ」

「信じられない……」


コノートさんはなぜか私をしげしげと見ている。


「それにしても、愛らしいな……」

「何言ってんだお前、30男が」

「は、私はまだ29歳だ」

「なに?俺より年上かと……」

「失敬な!」


コノートさんは私に話しかけてきた。


「なあ、アーシュ君だったか、朝食の件についても話したいし、今度は食事をしながらでもどうだろう」

「え、マル、どうする?」

「な、コノート、ダメだ。どうしてもと言うなら俺が同席する」

「無粋な」


私はグレッグさんを見た。首を横に振っている。


「せっかくですが、食事はちょっと……」

「甘味がおいしい店があるのだがなあ」

「え、ホントですか」

「アーシュ!」

「コノート、年を考えろ」

「まだ29ですよ」

「あ、父ちゃんと同じ歳だ」

「「……」」


沈黙が落ちる。


「コノートさん?」

「い、いや、大丈夫、随分若いお父さんだな」

「はい、生きていれば」

「……では私をお父さんだと思って」

「俺が父親代わりだ!」

「私もだ」


グレッグさんとマッケニーさんが言った。


「朝食の話なら、俺もできますから」


ダンが言った。


「学生の身なんで、とりあえず商談はこの3人の誰かも一緒でないと無理です」

「そ、そうか」


元締めのコノートさんとの会談は、意外とうまくいったのだった。帰り際マッケニーさんに、


「アーシュ、セロ、君たちも私の子どものようなものだ。頼ってかまわないのだよ。ダンは商売仲間だな」


と言ってもらった。グレッグさんもうなずいている。


「ありがとうございます」


ハーマンさんも、


「息子がいつも世話になっている。ありがとう。本当の娘になってくれても構わないからね、むしろなってくれたほうが」

「父さんやめて!魔王が降臨するから!」

「ん?うちにも遊びにおいで。ダンくんも、まじめに商売の話がしたいから」

「ありがとうございます」


帝都にお父さんができた。


それからは忙しかった。子どもたちが育つのを待ってもいられないので、ギルドでの解体講座も何度も開かれ、魔物肉の買い取りの簡易出張所もできた。収納袋については、大量の販売が必要なので、8の月にマッケニー商会を通して注文している。届くのは来年の4の月だろう。多めに持ってきた手持ちのものを、解体屋のおじさんにいくつか貸し出し、肉を持っていき次の日骨などを持って帰ってダンジョンに戻すという形にしてもらう。


少しずつ供給が始まるとともに、店舗での料理の修行も始まり、試作したものはお試し価格で販売した。そんなつもりはなかったのだが、においにつられた労働者たちが、食べさせろとうるさかったのだ。魔物肉の店は昼と夜のみなので、朝は女性を雇い、スープとパンの朝食も出すようにしてみた。これも受けた。


私たちは、しばらくクラブはお休みして、料理の監修をしたり、店員の訓練をしたりした。そうして10の月の終わりには、お店がオープンすることになったのだった。


結果を言うと、めちゃくちゃ繁盛した。魔物肉がそれほど供給されないので、一定数以上は出せないのだが、1度食べに来たら必ず次も来る。意外と儲かっているのは朝食だ。仕事前にふらりときて食べていく人でいつも込んでいる。大きめの店舗が朝から晩までフル稼働だ。


「ダン、フーゴ」

「アーシュ、やるしかないな」

「え、何のこと?」

「マル?」

「もちろん」

「「「2号店だ」」」

「え?え?」


フーゴがあたふたしている。ダンがフーゴに話して聞かせている。グレッグさんの所には、他の孤児院からも問い合わせが来ているらしい。


「そろそろ孤児院の子どもたちが、冒険者と荷物持ちとして働けるようになってきたし、この勢いのある時に、一気に2号店を作るんだ」

「もう?」

「今度は厨房と持ち帰り用の場所を広くとって、最初から朝食にも対応していく。コノートさんに相談だ。アーシュは来なくていい。フーゴ、マル、行くぞ」

「行ってらっしゃい」


今日は私はセロとウィルと、アロイスとテオドールとエーベルとダンジョンに行くのだ。店で忙しい私とマルはあまりダンジョンに行けないが、セロとウィルは積極的に通っていた。私は久しぶりだ。


メリダでは順調に石けんが売れているようで、何もしないでも商業ギルドの口座にはお金は入ってくる。今でも魔石の補充は続けているし、マッケニー商会でそれを請け負ってくれるようになった。それでも、きちんとダンジョンで働いておきたいのだ。


ギルドに行くと、


「セロさん、ウィルさん!」

「兄貴!」


とあちこちから声がかかる。強くて面倒見のいいセロとウィルは、湧きの英雄ということを差し引いても人気がある。と、


「セロ!、ウィル!」


ん?女の子の声だ。あれは騎士科の……


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