アーシュ14歳10の月3
「甘やかしすぎだっての!」
フーゴが次の日怒っていた。
「雇用を増やすために力を貸してほしいって言ったら、ハーマン商会の全力をもってなんて、そんなんじゃ事業を乗っ取る勢いだろ!」
「まあ、オレたちの父さんも助けてくれって言ったらそうなる気がする」
ウィルがうなずいてる。ダンが口をはさむ。
「でも、フーゴ、親に口出すすきを与えてるのもお前なんだぞ」
「だってさ」
「まずは事業計画をしっかり立てないと。助けてもらう部分をハッキリさせるんだ」
「そうだな」
「お前が参加してくれたら心強いし」
「合格か!」
「調子に乗んな」
こうして私たちが串焼きの計画を立てている間、アロイスとテオドールも動いていた。
「私はメリダに行って、そこでの暮らしがあまりに印象深かったから、帝国に戻ってきてがっかりしたんだよ」
アロイスはそう言った。
「年も1年ずれてるし、メリダでがんばって生活していた頃と比べると、充実感もなくてさ」
「アロイスと相談して、ここでもできるだけ力をつけようと思った。けど、正直、同級生には興味が持てなくて」
テオドールも続けた。
「でも、私たちの国で、私たちの学校なんだ。ここでできることをしないとな」
「と言うわけで、俺はイザークとハルクと一緒に、異文化クラブを作ることにした」
「どんなことするの?」
「帝国以外の国を知ってみよう、ってことかな。とりあえず、ナズやハルク、お前たちを通して異文化に触れてみようかと。協力してくれよ」
「もちろんだよ。ナズの国のお菓子とか知りたいね」
「そこか」
アロイスは、
「私は騎士科をまとめて、放課後に訓練するクラブを作ろうと思う。授業では実践にも限りがあるし、対抗戦を多めにして楽しくやるんだ」
と言った。
「それなら他の学校と、対抗戦をすればいいのに」
「騎士科はここだけなんだよ」
「そうか」
騎士科は、例の騒動をきっかけに、もっと活動したいという熱気に包まれていたので、アロイスの作ったクラブは3学年すべてが入部する勢いだった。
「授業じゃないんだから、強制はしないこと、部内で争いを起こさないこととか、規則も作んなきゃだ」
「うーん、いっそのことあれも入れてみる?罰でやってた奉仕活動」
「いずれはな。どっちにしろ、自分たちで考えさせた方がいいだろうし」
「それもそうだね」
ということで学校は学校で楽しくも忙しくもあった。
フーゴが元締めに会うのは難しいと言っていたが、労働者街に店を開く、雇用もそこで、しかも新しく叙爵されたギルド長からの提案ということで興味を持ったらしく、すぐに会えることになった。
私たちはとにかく出す品物をそろえ、その場で試食も出すことになった。余った肉を使うので、串焼きの他に、細切れ肉の炒め物、それからクズ肉で作るハンバーグ、魔物の獣脂で揚げた唐揚げをその場で作ることになった。これらは子羊館の夕食に出していて、宿泊客にも好評だったものだ。特に唐揚げとハンバーグは、子羊館の手伝いを通してメリルの奥さんがたにも広まっていたので、メリルでは馴染みのものだ。
レシピの基本を考えたのは私だが、料理はマルの方がうまい。下準備だけして、元締めの元に向かった。グレッグさんとカレンさんと、隊長代理、私たちは子羊5人とフーゴだ。みんな来たがったが多すぎても困る。と、何やらもめている。
「あれ、父さんだ」
「うちのもいるぞ」
フーゴのお父さんとマッケニーさんだ。
「フーゴ、父さん応援に来たぞ!」
「ウィル、マル、ここは父さんがつきそうからな」
「「「帰れ!」」」
「「そんな……」」
グレッグさんがため息をついた。
「どっから聞いてきたんですか」
「まあ、そこはいろいろ」
「これは労働者街の話です。ハーマンさんが入るとこじれる可能性があるんで。あと魔石は関係ないでしょう」
「いやいや、魔物肉の店主とは知り合いでね」
「厨房で魔石を使うはずだが」
グレッグさんは頭をかいた。
「子どもらの努力を無駄にする気ですか。ついて行っていいか聞いてみますから、とにかく口を出してはダメですよ」
「恩にきる」
2人とも大商人なので、むげにするわけにもいかず、見学ということで許可された。案内された先には、グレッグさんよりやや年上かと思われる男性がいた。さすが元締めだけあってたくましい感じだ。マッケニーさんとハーマンさんを見て厳しい顔をした。
「コノートという。建築が仕事だが、労働者街に店を出すかどうかの判定もしている。マッケニー、ハーマン、お前たちの商売すべき場所ではない。何の用だ」
知り合いのようだ。
「彼らは見学です。置物だと思ってください」
グレッグさんが言った。コノートさんは目をすがめたが、放置することにしたようだ。
「で、魔物肉の料理屋という事だったが……」
グレッグさんは概要を説明した。
「もちろん、子どもたちは学校で店を回すことはできないから、料理人、店員などを雇う必要があります」
「それを労働者街と孤児院から出すと」
「そうです」
「おい、お前らの案なんだろう。何か言ったらどうだ」
コノートさんの視線が、大人しくしていた私たちに向いた。私たちは顔を見合わせ、うなずいた。
「では、さっそく出す料理を作ります」
「ここでか」
「魔石コンロを使っても?」
「構わんが……」
私たちがテキパキと料理を作り始めると、その間にダンとフーゴが利益率の話を始めた。
「魔物肉も余りを使うのでかなり安くすみます。昼と夜の定食屋と、持ち帰り用の串焼きと、両方をできる店を考えています」
「ふうむ。計画は丁寧、数字も矛盾はないが……いいにおいだな」
スープは作ったものを持ってきた。コンロを2つ使って、唐揚げを作りながらまずは炒め物。どんどん出していく。
「これは……」
「うまい……」
見学のはずのマッケニーさんもハーマンさんも試食しているし、職員の人もどこからかわいてきて試食に加わっている。細切れ肉がなくなったところでハンバーグだ。
「なんと!」
「ジューシーな……」
最後に串焼きだ。と言っても串焼きは設備がないので、フライパンで焼くことになる。
「これはまた」
「ハーブがなんとも……」
大好評だ。
「魔物肉は初めて食べたが、これほどうまいとは思わなかった。これがあの単価でできるのか」
「できます。ハンバーグが野菜とパンが入るので、一番利益率がいいです。唐揚げと串焼きは店頭で持ち帰りもするようにすればいい」
マルが答えた。マルの仕事だからね。
「料理は自分でしなくてもいいのか」
「できれば全部したいけど、無理だから。メリダの串焼きの味を帝都の人にも知ってほしい」
「そうか……この唐揚げのやり方は特許を取ってはどうか」
マルは私を見た。料理以外担当だね。
「唐揚げが家庭にも広まれば獣脂が売れるようになるので、メリルでは特許は取らないようにしていたんです」
「ふうむ、欲のない」
コノートさんは考えている。
「なあ、アーシュ君、これ、牛の肉とかはどうだろう」
「牛は固くなるので、コッカがおすすめですよ」
「ハーマン、口を開かない約束だぞ」
「つ、つい」
そして口を開いた。
「料理人、開く場所はこちらで考えていいか。オーナーはマル。売上の何割かを支払うということで、実質運営は料理人に任せると。条件は孤児院からの雇用」
「はい。ただし、店舗の作りやメニューなど、開店までは口を出します」
「……許可をだそう」
やった!




