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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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210/307

アーシュ14歳9の月イベントの後で

「なあ、セロ、俺納得できないよ。なんだか楽しいイベントみたいになってるけど、あいつらのしたことは犯罪だぞ。まして騎士科だ。アロイスも言ってた。守るべきものを履き違えるとはって」


フーゴがそう言った。ホントだよ。ビックリしたんだよ、私は。ちょっと告白かと思っちゃったよ。途中からセロへの愛に変わってたけど。


「アーシュ、茶化すなよ、お前だろ、おおごとにしたくないって言ったのは」


セロがやれやれと言いたげだ。フーゴが続ける。


「アーシュ、いいのか、被害者なんだぞ」

「うん、無罪にはしないつもり。これからライナーと、三年生の首謀者とをつれて、騎士科の先生の所に行ってくるよ。本人たちも罰を受ける気でいるから」

「退学ものだもんな」

「それはさせたくないの」

「なんで、俺そんなヤツらに騎士になってほしくない」


フーゴ、ありがとう。


「今退学になったら、彼らの将来の道は絶たれてしまう。留学生が帝国に来たせいで、自分の国の若者たちが不遇になってしまったら。私ならメリダを憎むし、もう帝国に来ないでほしいって思ってしまうと思う」

「アーシュ……」

「涌きに飛び込むことで、救った命もある。けど、イザークの兄さんのように、そのせいで評判を落とした人もいる。足し算、引き算で計れることではないけれど、私たちが来たことで足し算になったらいい」


私はフーゴに言った。


「間違いに気づいてやり直す機会がある。それが学校だと思うの。騎士としての自覚が育ってなかったことに気づいて、やり直してくれればそれでいい」

「オレも先生方に提案してくるつもりだ。要はみんな授業が物足りないんだと思う。模擬戦や団体戦を取り入れた実戦をふやし、放課後のクラブ活動もやってもいいと思うんだ。あとは、弱いものを守る経験がないというか……そういうことをすればオレに集中していた対戦も減るだろうし」

「セームみたいだったね」


私はクスクス笑った。


「まったくだ」


私たちは騎士科の生徒たちとライナーと共に、経緯を説明しに行った。単なる団体戦としか思っていなかった騎士科の先生たちは激怒し、ともかくも関わった生徒たちは寮で謹慎し、処罰を待つことになる。


私たちは被害者だが、フーゴにした話を繰り返し、更生の機会を与えてほしいこと、そのための罰として、最低でも1ヶ月の市井での奉仕活動を提案しておいた。下町の掃除など、本来貴族や騎士などがやるはずもないことだ。それで我慢できないようならそこまでは面倒をみきれない。


「君たちはそんなことまで考えたのか」

「騎士は皇族への忠誠が大事なのでしょう。同時に、帝都の民を守り、女性を大事にすることももっと学ばないと、強さだけを追い求めてしまう。自分が守るべきものを知ることは大事です」


私はちょっとにやりとした。


「奉仕活動が終わったら、またメリダ組と戦えるかもしれないと、ご褒美をぶらさげておいてもいいですよ」

「アーシュ!」

「団体戦、いいと思うんだ」


セロはふうっ、と息をはいた。


「……わかった。先生、提案なんですが」

「なんだ」

「戦術の授業の応用に、団体戦を取り入れてはどうでしょう」

「団体戦?」

「今回みたいに、大将を決めて二つに分けてもいいし、校舎を使って陣取り合戦でもいいと思うんです。今回は大将がダンとイザークだったけど、大将が女子ならさらにやる気も出るだろうし。学年対抗もいい」

「団体戦か……面白いことを考える」

「遊びでいいなら、オレたちが子どもの頃やっていた、ドロケイ、つまり警備隊と盗賊に別れて戦うというのもあります」

「ほう、それはおもしろそうだ」


今日の許可をあっさり出してくれた先生たちだ。物わかりはよかった。


「一週間の謹慎、そして1ヶ月の奉仕活動だな。しかし、ライナーはそれではすまん。少なくとも、一週間の懲罰房。退学もありうる」


騎士科は軍の予備のような意味もあり、刃傷沙汰になることもあるので、懲罰房があるのだと言う。


「何より親が許すまい。親御さんは清廉な騎士だ」


だからか。尊敬する親がほめるから、気になって気になって暴走したのか。セロは放っておけと言うだろうが……


「親への話も、ライナーへの罰も、私に任せてくれませんか」

「君は不愉快な思いをしたんだぞ」

「罰が終わればそれで終わりでいいです」

「親への話も、ライナーへの話も、私が一緒だ。それでいいならいい」


先生、ありがとう。


ライナーの親は静かに怒ると、ライナーを殴り飛ばし、自分も騎士を辞めると言い出した。そして私にそれでライナーを許してやってほしいと頭を下げた。ライナーはその姿を見て真っ青になった。そうなるまで、まだ自分のやったことがわかっていなかったのだ。


「お父さん、頭を上げてください」


私は言った。


「私はお父さんに騎士をやめてほしくないし、ライナーにも学校をやめてほしくない」

「しかし息子は騎士としてあるまじきことを!」

「まだ騎士ではないから」

「あ……」

「ライナーは悪人ですか」

「そんなことは!小さい頃から素直でよい子で」

「たった1回の過ちですべてを終わらせるのですか」

「……」

「アレクからあなたという優秀な騎士を奪うのですか」

「私は……」


ライナーの父親はうつむいた。


「被害者は私だから、納得できるまで連れ回します。私がもういいと思ったら、そこで罪を償ったことにしましょう。お父さんは騎士を辞めない。ライナーは私の元で、しばらく下働きということでどうですか」


「学校としても、しばらく厳しく監督しますから」


先生も援護してくれた。


「……お願いします」


ということで、ライナーは懲罰房一週間の後、やつれた姿のまま、セロにいやな顔をされながら、そしてフーゴに


「むしろごほうびじゃないの」


とイヤミを言われながら、私たちと行動を共にする事になったのだった。とはいえ、学生に下働きすることなどない。私は、グレッグさんに誘われていた孤児院の視察に、ライナーを連れていくつもりだった。フーゴもイザークもだ。


10の月に入ってすぐ、カレンさん、グレッグさん、隊長代理と共に、私たちもゾロゾロとついて行った。予想外の人数に孤児院側があわてていたが、特にグレッグさんの希望で、食事の時間に訪問する事になっていた。普段と変わらぬ物を、という条件をつけて。


カレンさんとアロイスの家が寄付しているところなので、その2人に子どもたちがお礼を言った後、食事が始まった。野菜スープとパンだけの簡素な食事だ。フーゴがわずかに顔をしかめている。と、緊張したのか、小さい女の子がパンを落とした。どうしていいかわからないでいる。


私はそっと近づくと、パンのホコリを払って、落ちたところをちょっとだけちぎって食べてみせた。女の子はにっこり笑うと、安心して食べ始めた。やせてはいない。しかし、スープにお肉はほとんど入っていない。


「アーシュ、落ちたパンを食べるなんて」


フーゴは、ブツブツ言った。


「カレンさんが構わなければ、俺が少し寄付をするよ」


私は苦笑した。その後、厨房を見たり、部屋を見せてもらったりして、最低限に近いけれど衣食住は与えられている事がわかった。部屋はどこもかしこも不必要なくらいきれいだった。落ちたパンにだってホントはホコリなんかついていなかった。


いつも通り過ごしてもらい、せっせと掃除する女の子に話を聞いてみた。


「外で働くわけにもいかないし、ぼんやりしてると怒られるしで、掃除するくらいしかないのよ」

「働きたいの?」

「ちゃんと食べさせてもらって、勉強もさせてもらっているけど、いずれ出ていかなければならないんだもん。少しでもお金がほしいし、経験もほしい」

「どんな所で働きたいの」

「お屋敷の下働きが良いけど、食堂の店員とかでもいいんだ。女の子の働けるところは少ないから。でも、今から目をつけておくんだ!」


「アーシュ」

「はーい」

「ね、いい仕事あったら紹介してね!」

「うん」


グレッグさんに呼ばれて行こうとした私は、女の子の言葉にうなずいた。


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