アーシュ14歳9の月友だち
「アーシュは、帝国語上手ですね」
「結構勉強したのと、友だちとしゃべってたからかな」
「私、なかなかうまくならない」
ナズが言った。
「ちゃんと伝わるけど……」
「もっとちゃんと!」
「いっぱい話そう。そうすればうまくなるよ。そういえば授業に外国語がないよね。メリダには帝国語あったよ」
「フィンダリア語、学びたければ、私塾に行きます。大使、仕事の人、帝国語使います。フィンダリア語いらない」
「騎馬民族のキリクは」
「交流がそもそもないの。マッケニー商会くらいよ」
「じゃあ教科書もないの?」
ナズとフローレンスは顔を見合わせた。
「ないわ」
あらら。
「せっかくだからフィンダリア語もキリク語も学びたかったんだけどな」
「フィンダリア語はナズから学べばいい」
「マル、いいこと言うね、そうしようか。ナズ、お願いできる?」
「よろこんで!」
「私も参加してもいい?」
「いいけど、クラブとかないの」
「あんまり」
「じゃあ、異文化クラブとか作ったらいいね。勉強しながらお茶を飲むとか」
「すてきね」
そんな話をしながら寮に戻ってきた。一旦部屋に帰って談話室集合だ。
談話室をのぞくと、なんだか不思議なことになっていた。子羊の面々はいいとして、アロイスたちもいる。それもいい。でもなんでイザークとハルクとフーゴがいるんだろう。更に体格のいい、おそらく騎士科の生徒2人。もっとも、こちらもフローレンスとナズがいる。合わせて15人だ。
「なんで私がいないといけないんだ」
イザークがイライラしている。そりゃそうだろう。
「じゃあ部屋に戻って何するんだよ」
「……予習」
「初日だろ、履修決まってからでいいだろ」
「お前だって。なんでさっきからずっといるんだ」
「おもしろそうだから。なあ、ダン、いいだろ」
「別にかまわないが」
じゃあお茶でもいれましょうかね。談話室には生徒が自分でできるようにお茶のセットがある。マルと2人、手早くいれる。
「冷たくて甘いお茶だよ、飲んでみて」
「お茶は温かいものだろう」
「まあ、飲んでみて」
「これは、冷たい。うまいな……」
「お代わりある?」
騎士クラスの男子が言った。
「どうぞ」
「ありがとう」
さて、落ち着いたところで、ダンが言う。
「俺たちこれから履修と日程の相談なんだけど、君たちはどうする?」
「アドバイスできることがあるかもしれないから、いてもいいか」
さっきの騎士科の人だ。残りの面々もそうらしい。
「私は」
「イザーク、面倒見ろと言われてたよな」
フーゴに言われている。
アロイスが改めて言った。
「知らない同士もいるだろうから、自己紹介でもしようか」
「じゃあ俺たちから。ベルノルト。騎士科。南領。家は伯爵。ここに来ればテオドールがいると思った」
「ライナー。騎士科。中央。父が騎士隊にいる。涌きをおさめた若者が高校に来ると父から聞いて。噂のお茶が飲めて嬉しかった」
ベルノルトとは薄い色の茶髪と瞳で、セロくらいの大きさ。ライナーは、くすんだ金髪と薄い緑の瞳で、ウィルくらいの大きさ。
「私はイザーク。中央。侯爵家三男」
隊長代理のところかな。砂色の髪。青のひとみ。ダンくらいの大きさ。
「俺はフーゴ。普通科。中央。家は商人。だから新しいこと、おもしろいことにはいつでも興味がある。メリダ。留学生。涌きをおさめた。なんだかわからないけど、絶対おもしろそうだ。よろしくな」
「私は、ハルク。普通科。フィンダリア、からきました。ナズとは幼なじみ。家は、騎士、にあたるのかな」
フーゴは茶髪茶目、男子としては少し小柄。生き生きとしたようすが印象的だ。ハルクはナズと同じく、明るい茶色の髪に、明るい茶目だが、2人とも色白の帝国人と比べると、クリームやはちみつのような肌色が特徴だ。
「私はフローレンス。普通科。中央、イザークとは別の侯爵家よ」
「私はナズ。普通科。フィンダリアから、きました。家は商会です。ハルクとは、幼なじみ、です」
なるほど。フローレンスはツヤツヤと輝く茶色の髪と瞳だ。さすがに美しい。ナズはもっと薄く柔らかい色合いだ。2人とも私とマルの間くらいの身長だ。
次はこちらの番ですね。
「アロイス、騎士科。北領、侯爵家三男。メリダには留学経験がある。こいつらとはその時からの友だちだ」
「テオドール、普通科。南領。伯爵家次男。アロイスと同じく」
「エーベル、普通科。南領。テオドール様の従者をしています」
「テオドール、やっとちゃんと捕まえた。なんで普通科なんだ!騎士科だろ、お前なら。楽しみにしてたんだぞ、高校で会うのを。南領の暴れん坊にさ。一年間のらりくらりとかわしやがって」
「やめろ」
テオドールは心底嫌そうな顔をした。暴れん坊って……。
「いいぞ別に、アーシュ、笑えよ」
死んだような目をしている。うっ、いや。大丈夫です。封印しておきたい何かだよね。
「だからお前のそばに寄りたくなかったんだって……」
「なんでだ!剣を合わせようぜ!」
「騎士科のオトモダチとやってろ。で、」
「ダン。普通科。メリダから来た。実家は商会。フーゴ、ナズ、後で実家の取り扱い商品、教えてくれよ」
「ダンは商人か!話が合いそうだな!」
フーゴが喜んだ。
「セロ。騎士科。メリダから来た。冒険者だ」
しんとした。
「え、俺の情報によると、騎士爵をさずけられた流星のような騎士と」
フーゴが言った。しんとした。
「だれ、それ」
セロ、声が震えてるよ。
「君。ちなみに、爆炎の魔術師。金の姫騎士。琥珀の癒し姫。戦場の錬金術師」
「俺も聞いたぞ」
「「「「だれ、それ」」」」
全員、声が震えた。
「かっこいいじゃないか!」
ベルノルト君だね、そういうこと言うのは。
「「すてき」」
「暴れん坊よりマシだろ」
「くっ」
いやいや、ないわー。これは封印だっ!
「その話はいい。オレたち4人は冒険者なんだ。だからダンジョンは慣れてる。それから、実家のことだが、基本的にはダン以外、オレたちは孤児だ。実家の判明した者もいるが、深く追求しないでくれると助かる。で」
「ウィル、騎士科。マルとは兄妹」
「マル、普通科。ウィルとは兄妹」
「アーシュ、普通科です」
ナズが、
「アーシュの黒髪珍しい。でも、フィンダリアには少しいます、南西諸島に多いらしいの。先祖はフィンダリアかしら」
と言った。南西諸島!セロと目が合う。いつか行く?行こう!
そこがルーツか。旅好きな御先祖が、フラフラとメリダまで来たのかな。
「仲良くしてくれると助かる。俺たち、基本談話室にいると思うんだ。何かあったら自由に来てくれよ」
「お前らの方が学校を使いこなしてるよな……」
ライナーが遠い目をして言った。どこにいても子羊は子羊だからね。さて、これからの予定を立てようか。




