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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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201/307

アーシュ14歳まだまだ8の月

売るほうか!串焼きか……


「材料はね」


お、まだあるのか。


「魔物肉を使うの。お兄ちゃんが取ってくるやつ」

「オレか。オレが取ってくるのか」

「そう」


魔物肉か。帝都では新しいかも。


「高級品だぞ。屋台で出せる金額じゃないぞ」


テオドールが言う。


「ううん、自分たちで取ってくれば、そこまで高くはならないよ」


私はそう返事をした。料理はマルができる。売る場所を考えれば、あるいは屋台じゃなくてもいいか、うーん。


「アーシュ、声出てる」

「あ、ごめん。でも、やれないこともないと思う」


マルがにっこり笑った。


「オレはやっぱりダンジョンに行きたい」


ウィルが言った。


「高校入ったって、剣は追い続けたいんだ。まだまだ強くなりたい。訓練だけでなく、実戦が大事だからな」


なるほど。


「オレはさ」


セロだ。


「遠くに行きたい」

「遠く?」


アロイスが聞き返す。


「遠く。北部も南部も行ってない。帝国は広いだろ。少しずつ見てみたいんだ、あちこちを」


帝国に来ても遠くに行きたいんだね、セロ。


「みんなやりたいことバラバラだね。どうしようか」


それぞれでやればいいのかな。


「ダンジョン組と、販売組と別れる?」

「そうするか?」


私が言うとウィルがそう答えた。


「ダメだ」


え?セロ?


「別れちゃダメだよ、みんな」


だってやりたいことバラバラだよ?


「全部やろうよ」

「全部って、セロ、お前」


ダンがセロを見た。私もセロを見た。修行に出るって、別々になるのってケンカしたことあったよね。


「もういいの?」

「いいんだ。オレはもう十分強い」

「言うねえ」


ウィルがちゃかす。


「個人としての力はもっと伸びるだろう。ウィルの言うように実戦も必要だ。けど、こないだの涌きで、戦うって個人だけじゃないってわかったんだ。だから高校でそれを学ぶ。でもそれとこれとは別なんだ」


セロは続けた。


「オレはもうアーシュと一緒に帝国に来たんだ。約束したろ。働かない。食べて、遊んで、食べて。みんなと色々なことをして、遠くにだってみんなと行くんだ」

「ダンジョンも、屋台も、子羊亭も仕事だろ」

「仕事だけど、楽しいことだろ。一生懸命遊ぶってことじゃないのか」

「さんざん人に流されてきて、それじゃダメだからやろうと決めたことが、結局仕事だ、俺たちは」


ダンがまた天を仰ぐ。


「だがそれでいい。アーシュ、俺たちは」

「「走り出したから、止まれない」」

「全部やるか!」

「「「「やろう!」」」」


セロが言う。


「アロイス、テオドール、エーベル、何ぼんやりしてるんだ。お前たちもだぞ」

「俺たちもか?」

「一緒だ」

「一緒か」

「やるか?」

「「「やろう!」」」


そうして、週末の2日は、学校とは別に、やりたいことをやる日になったのだった。


9の月、いよいよ入学式だ。退屈な時間や校長のあいさつなどがおわり、私たちは2年のクラスに編入することになった。


「では、ダン君、アーシュさん、マルさんは、ゼッフル先生お願いします」


担任はゼッフル先生でした。ははは。


ゼッフル先生は、私たち3人を何の感情も込めずに眺め、


「ついてこい」


と言ってさっさと教室に連れていった。学校では学ぶのに身分の差はないことになっている。ゼッフル先生など、先生の多くは平民だ。私たちは、一番下とはいえ貴族になった。何かをしてはいけないのはゼッフル先生ではなく、私たちなのだ。アロイスにそう教わった。


教室に入ると、そこには30人弱の生徒たちが着席して待っていた。席は自由、学年が一年終わり、既に知り合いが多いはずなのだが、語り合うでもなく、静かな雰囲気であった。


「メリダからの留学生だ。2年からの編入になるので、わからないことも多いだろう。面倒を見てやってくれ。男子はイザーク、女子はフローレンス」

「「はい」」

「メリダは辺境の島国。何か質問のある人はいるか」


特に何もない。先生の言い方も気にならないではないが、何にも興味がありませんというこの雰囲気は、アロイスやテオドールが留学してきた時によく似ている。


「席につけ。今日は2年は入学式に参加し2年の履修科目の確認だ。選択科目が増えるからしっかりと選ぶこと。それを自分たちで確認したら今日は解散だ。イザークとフローレンスは慣れるまでは付いてやれ」


ということで、先生はいなくなり、ざわめいていた生徒たちも、さっさといなくなったのだった。教室には、私たちとフローレンスとイザーク、そして男子2人と女子1人が残るのみとなった。


と、女子が話しかけてきた。


「あの、私、ナズと言います。フィンダリアから来ました。メリダ、知りたいと、思います」


わあ、フィンダリアの人、初めて会った。


「チッ、田舎者の礼儀知らずが」


え?イザーク?ナズは少しつらい顔をしたが、そのままこちらを見た。


「アーシュと言います。こちらがマル、ダン、あと2人騎士科にいます。私もフィンダリアのこと知りたい!よろしくお願いします」

「はい!」


顔が輝いた。


「田舎者同士気が合うと見える。先生に頼まれたから案内するが、さっさとしてくれ」

「イザーク、そんな言い方」

「フローレンス、アレクセイ様が戻られたからといって婚約者のお前が偉そうにするな。行くぞ」


おおう。いろいろありそうだ。私はとっさにナズの手を握り、一緒に連れていった。ナズの反対の手はマルが握る。それでもイザークは真面目なようで、教室から運動場やら、何もかも案内してくれた。ナズとフローレンスは急ぎ足でつらそうだったが。教室に戻ると、


「君たちは叙爵されたそうだが、ここでは身分は関係ない。わきまえることだな」


と冷たく言った。


「ダン、これから寮に戻るが、案内は必要か」

「お願いしたいな」

「わかった。ハルク、フーゴ、なんでついてきてる」

「ナズがいるから」

「おもしろそうだから」

「めんどうはかけるな」


そうしてため息をついて出て行った。ダンが後ろでやれやれと肩をすくめている。こちらでもフローレンスがため息をつき、


「ごめんね、イザークはちょっと……」


と言おうとしてくれたが、私とマルがクスクス笑いだしたので止まってしまった。だってね、


「厳しいこともちょっと意地悪なことも言うけど、すごく親切で面倒見がいい人だよね。ゼッフル先生にいろいろ押し付けられてるんじゃない?」


フローレンスとナズはあっけに取られ、それからこう言った。


「確かにやってることはただの親切だわ」

「確かに、押し付けられて、いました」


ね?ナズはこうも言った。


「意地悪、思ってたけど、かわいく思えてきました」


みんなでクスクス笑った。


「ねえ、いつもこんなに静かなの?教室」

「そう、高校はね、貴族や、平民でも箔をつけるために来ているようなものだから、あんまりやる気がないの。先生もあんな調子だし」

「でも、人脈を作ったり、結婚相手を探したりとか」

「難しい言葉知ってるのね。でも貴族同士はもうだいたい関係は定まっているし、結婚相手もそう。私はアレクが婚約者だけど、こないだまでふせっていたから肩身が狭かったわ」


「私も、なかなか友達できません。フィンダリアの人と、友達になっても意味がないから」


ナズが言った。


「メリダの人なら友達になれるかと思って」

「こちらこそ。よろしくね!フローレンスもね」

「よろしく」


マルも声をかけて、高校初日、早速友達ができました。



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