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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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199/307

アーシュ14歳8の月決意

お城では、控え室で待つ。その後、謁見の間に案内され、大勢の貴族が並んだ端の方に控えた。


皇族が入ってくる。皇帝、皇后、続いて小さい皇太子と皇女だ。そしてその後ろを護るようにアレクが登場する。謁見の間に、ざわめきが走る。


「皇弟が復帰なされたぞ」

「もう回復しないと言う噂だったが」


貴族のささやきと共に、騎士たちからは抑えきれない喜びの気配がする。


「ダンジョンが溢れるというこたびの災いは、我らが誇る騎士隊と、メリダからの客人によって防がれた」


皇帝の声が響く。


「ここにその功績を讃え、報奨を与える」


そこからまずは騎士たちに勲章が手渡された。緊張し勲章を受け取る騎士たちは、それでも喜びを隠さずアレクに目をやってから下がって行く。


「次にメリダからの客人、前へ」


まずはテッドさん、ノアさん、クーパーさん、イーサンさん、そしてニコにブランだ。涌きの後始末をたたえられ、勲章を与えられた。


次が私たちだ。


「涌きの最初から参加し、ギルドの職員を命を顧みず助け、ダンジョンの1階を制圧。メリダの戦術を惜しみなく提供し、騎士の命を救った。短期間で収束したのもそなたたちの力があったからこそ。礼を言う。そなたたちには、騎士爵を授ける」


どよめきが起こる。外国人、しかも女子を含めた若者だ。異例の事だが、いかに活躍したかは周知してあったらしい。文句をいう人もなく、すぐにおさまった。


「弟を助けてくれて、礼を言う」


こっそりと言ってくれた。皇帝をよく見たらアレクの部屋にお話を聞きに来ていた1人だった。まじめな顔をしている皇太子も皇女も、だるまさんがころんだをした仲だ。ちょっと口の端がほころんでいるよ。


ふう、これで済んだ。


「もう皆わかっていると思うが、我が弟アレクセイが長患いから回復した」


喜びのどよめきが起こる。


「それに伴い、中央騎士隊隊長に復帰する」


歓声が沸く。


「なお、中央騎士隊隊長代理は、北部騎士隊隊長となる。現在の隊長は涌きに対応し切れなかったとして辞任の意を示している」


栄転じゃない?


「ただし、就任は1年後。それまでは今後の涌きに備えて、ギルドでの研修を課す」


ざわめきが起こる。ギルドだって?1年後?しかし本人は既に知っていたらしく、静かに辞令を受けている。一見栄転だが、軽視していたギルドでの研修は、かなりつらいはずだ。


「最後に、涌きの原因の一つである、弱体化したギルドの立て直しをするために、新たにギルド総長の位を設け、すべてのギルドとダンジョンの管理をしてもらう」


ギルド総長?まさか。


「初代はダンジョンの国、メリダから来た客人にお願いする。これからの活躍と永住を願い、男爵位を授ける。グレッグ・フォン・アードラー」


男爵だ!グレッグさんだ。待てよ、厄介って、隊長代理を押しつけられたからか!ご愁傷様です。でも、これでカレンさんと堂々と結婚できるね。



叙爵の後は舞踏会だそうだ。いよいよカレンさんに教わったダンスが役立つのか。あれ、どんなだったか。


しばらくはアレクがついて紹介に回ってくれた。


「体調大丈夫?」

「明日は倒れてるかもしれん」


少し無理をしているようだが、ここは無理をしてでも回復アピールだそうだ。そこに若いお嬢さんと、父親の組み合わせで貴族がやってきた。


「アレクセイ様」

「おお、クラウス、久しいな、心配をかけたな。フローレンス、美しくなって」


おお、仲がよさそうだね。もしかして?こちらを向いた。


「こちらがクラウス・フォン・タクシス、中央の侯爵の1人だ。そしてこちらが婚約者のフローレンス」


フローレンスさん、うれしそう。クラウスさんは、


「今回、被害が出るはずだったのはうちの農地でしてな。あなた方には感謝してもしきれん」


と言ってくれた。小麦と、牧畜をしているそうだ。帝都にクリームとバターを提供しているという。新鮮さが大切だから、帝都の近くで牧畜をしているのだそうだ。フローレンスさんとは、2年に編入するということで、よろしくお願いしておいた。


それから何となくバラバラになり、いつの間にかマルとさえはぐれてしまった。人がたくさんいるのに、私は1人だ。急に孤独感がこみ上げた。


目の前に優しげな若い人が来る。何かを話しかけているが、上の空でよく聞こえない。人の波の合間に、セロが見えた。少し困った顔をして若いお嬢さんたちに囲まれている。私にもまた、別の人が話しかけてくる。笑顔を張りつけて、カレンさんに教わったように、礼儀正しく、おしとやかに話をする。あ、セロ、また見失ってしまった。


また見えた、でも人の波に流されてすれ違う。


ふと思った。華やかなドレスとスーツが行きかい、にぎやかな中で、また人に流されて今日が終わるのだろうか。


思えば留学が決まってから、私は何をしただろうか。大使に言われるまま、アロイスに言われるままに勉強し、力をつけて、まるで自分だけの力で帝国に来たような顔をしてここにいる。また一人、誰かが話しかけてきた。にこやかには答えながら考える。学校が8月に来いと言うから、抗議もせずにふらふらとし、グレッグさんの言うがままにダンジョンについて歩いた。


そのダンジョンで強い魔物がいれば倒し、病で困った人がいると言われれば、助けに行ってしまう。少し嫌なことを言われれば傷つき、みんなに守ってもらうだけ。


これから学校に行っても、誰かに行かされたような顔をして、ゼッフル先生のような意地悪な人は受け流して、しぶしぶと過ごすのだろうか。来たくて来たんじゃないと言い訳しながら。


人が動く。いつの間にか私も、若い人に囲まれている。踊ろう?踊りたくないの。舞踏会だよ。楽しまなきゃ。踊るのは楽しくないの。だって……だってセロじゃないから。


それなのに、ここでも人に流されて、お嬢さんたちにセロを取られても、踊りたくない人と踊ることになっても、アレクが来いって言ったからしかたないって言うの?


目がセロを追う。セロの目が誰かを探している。誰を?私を。目が合った。考えていることは同じ。今度は流される前に、私から手を伸ばそう。その手に向かって、セロが人をかき分けて歩いてくる。セロも手を伸ばす。届いた!手が重なる。


「踊ろう?」

「喜んで」


音楽に合わせ、人の波にのる。たくさんの人はもう風景ではない。私も風景の一部になる。


向き合おう。帝国に。ここできちんと生きよう。2年間、何をすればいいかまだわからないけれど、人のせいにせずに、自分の翼で飛ぼう。1人ではない。いつだって手を取る人がいるのだから。


8の月の終わりの夜はふけていく。静かな決意を受けとめて。






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