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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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197/307

アーシュ14歳8の月やっと

「いただこうかな」


副校長が席についた。若い先生も、アロイスも座った。ゼッフル先生が答案を持っていこうとした。


「では採点を」

「ゼッフル、待った」

「何でしょうか」

「ここで採点しろ」

「……わかりました」


薄笑いを浮かべている。しかし、採点を進めるとどんどん真剣な顔になっていく。みんなでお茶を飲んでいる間に、採点は終わった。副校長が聞いた。


「どうだった」

「……まあ、間違いもありましたが、合格ですな」

「やった!」


ほっとした。


「ゼッフル、答案を見せてみろ」

「合格ですよ」

「見せてみろ」


ゼッフル先生はしぶしぶ答案を手渡した。


「これは……」


副校長は次々と答案をめくっていく。


「全部か!ゼッフル!」


ゼッフルは持っていた紙束から別の紙を取り出した。


「こちらの試験と間違えたようです」

「そんなわけがあるか!」

「ついうっかり」


ゼッフル先生はそのまま流れるように部屋を出た。そして、


「留学生は合格。寮には話を通してある。そこの若いのに案内してもらうがいい」

「ゼッフル先生、私は担当ではないと言ったのはあなたですよ!」


そうしてさらりといなくなってしまった。


「なんだあれ……」


ウィルがあっけに取られてつぶやいた。アロイスはふーっと息を吐いた。


「すまなかったね、君たち」


年上の他人の方が声をかけてきた。だれだろう?首を傾げると、


「私は副校長のシメオンだ」

「私は平教員のシュテフだよ」


と自己紹介してくれた。


「メリダから来ました。セフィロスです。セロと呼んでください」

「アーシュマリアです。アーシュと」

「ウィリアムです。ウィルと。マーガレットとは兄妹です」

「マーガレットです。マルと」

「ダニエル・グリッターです。ダンと」


副校長は感心したように言った。


「美しい帝国語を話す。まったく問題ないな。そもそも、一年生の年度末試験にほぼ満点合格だ」

「え!ほんとですか」


シュテフ先生は答案をガサガサ見た。


「本当だ……ゼッフル先生……何をやっているんだ……」

「しかし、君たちはなんで解答できたのだね」


シメオン先生が聞くと、セロが答えた。


「アロイスのいとこのお姉さんに家庭教師をしてもらっていました」

「なるほど。それにしても優秀な……この実力では飛び級もありだが、そうすると3年の留学が2年になってしまうしな、もったいないか」

「いえ、2年から入れるのなら2年からお願いします。ただ、アーシュとマルの年齢が14ですが、大丈夫でしょうか」

「入った時点で14なら問題ない」

「みんなはどうしたい?」


みんなうなずいた。正直、この学校で2年もやって行けるか心配なのに、3年なんてうんざりだ。


「私たちと同じ学年だ。よかった」


アロイスがほっとしたように言った。副校長のシメオンさんがこうまとめた。


「では2年生に編入ということで、私が校長に話を通しておく。今日はすまなかったね。校長とゼッフルときちんと話をしておく。中央高等学校はあなたたちを歓迎する。楽しく過ごし、時々メリダの話を聞かせておくれ。おいしいお茶をごちそうさま」


少しはいい先生もいるのかな。


「さあ、もう夕方だ。寮に案内するよ」


シュテフ先生が言った。寮は学校の敷地内にあるそうだ。男女別なのだが、最初なので一緒に見に行くことにした。


「ボロボロの部屋だったりしてね」


ウィルがおどけて言った。


「そんな部屋はないよ、安心し……」


ボロボロの部屋だった。シュテフ先生は驚き、焦っていたが、私たちはお腹が痛くなるまで笑った。笑うしかないではないか。ここまで徹底されたら。寮の管理の人はこう言っていた。


「この部屋を用意するように言われて、まさかと思ったんだけどね、使わないよね、まったく」


「明日までに別の部屋を用意できるかい。留学生用の広いところがあっただろ」

「ちょっと使ってないのでね、何日かかかりますよ、シュテフ先生」

「普通のとこですぐ入れる部屋は?」

「ありますよ。でも広い部屋は居間付きですよ。少し待てるんならそっちをおすすめします」

「どうする、君たち」


「広い方にしようよ。今日はアレクのところに戻ろう」

「そうするか」


私たちはシュテフ先生にあいさつした。


「ギリギリまでは別のところに滞在します」

「新学期の二日前には戻っててね、部屋も新しくしとくから」

「ありがとうございます」


学校を出て、アロイスと庶民街で食事を済ませ、結局アレクのところに戻ってきた。


「皆さん、お待ちしておりましたよ」


フリッツさんがうれしそうだ。


「よう、戻ってきたか、さては学校でやられたな」


グレッグさんもいた。部屋を割り当てられた後、今日もお話をしてくださいということになった。アレクの部屋に集まると、グレッグさんやらニコやら、いつも話を聞きにくる客人やらがすし詰めになっていた。


そんな中、フリッツさんはアレクの枕を膨らませて、


「さ、ここに」


などとやっている。


「うむ」


うむ、じゃないよ、治ってみると、子どもみたいだ。子どもか……マルと目が合った。やる?やろうか。


「じゃ、マルも」

「え?」

「じゃ、私も」

「アーシュ?」


2人で堂々とベッドに上がった。


「「「じゃ、オレも」」」


セロたちも広いベッドに登った。アレクはびっくりしている。その顔がおかしくて、私たちは大笑いし、笑い疲れて倒れ込んだ。アレクもつられて寝転んだ。アレクと6人転がっても、まだ余裕がある。


「絹のお布団で雑魚寝だね」

「これが雑魚寝か!」


違うような気もする。あーあ。行儀が悪いけど、寝転んで天井を見上げる。


いやな1日だった。誰が留学させてくれと頼んだのだ。確かに帝国には来たかった。お膳立てされなくてもいつかきっと来た。そしてお金はあっても、きっと安い宿屋に泊まってしまうに違いない。観光をしても、ついダンジョンに行って働いてしまうだろう。それでものびのびしたかった。何でこうなった。つかれたんだよ……


人の悪意は受け流しても疲れてしまう。ブツブツいう私の話を、みんな静かに聞いてくれた。


「昔話だけでなく、帝国に来てからの話をしてくれないか」


静かにアレクが言った。


「いろいろあったよ」

「1晩で語りきれなくてもよいではないか。まだ寮に入らなくてもいいのだろう」

「うん。でも、いい話ばかりじゃないよ」

「それでもよい、自分の国の話だって面白いさ」

「アレクも何か話してよ」

「私か、みんなが興味ありそうなことは……私は高等学校にいる婚約者の話を……フリッツ、まだ婚約者のままか」

「はい、解消されてはおりませんよ」

「ということで婚約者の話をしよう。学校つながりでな」

「学校……いくつ下なの?」

「15だから、8つ?小さい頃から面倒を見たぞ」

「……」


「8つは許容範囲だ。10はちょっと」


グレッグさんが言った。


「なんだ、今度2年だぞ、確か」

「おんなじ学年だ……」

「お前たち、1年ではないのか」

「飛び級で2年からでいいって」

「さすがでございます」


フリッツさんがニコニコして言った。


「では今晩は今日のうっぷんを存分にお話しなさいませ。明日からは順番にお話をいたしましょう。私もアレク様のお小さい頃のお話でも……」

「それはやめろ」


アレクが言い、部屋にはおだやかな笑いが広がった。


「今日の最初は、まず守衛で引っかかって」


ダンが話し始めた。聞きながら思い出す。


大使のアールさんだっていい人ぶってもくせ者だったし、ヨナスさんもクンツさんも、医者のトーマスさんも、助手君も、カレンさんのお兄さんも、出会いはいいものじゃなかった。でも今は違う。カレンさんや、フリッツさんや、アレクのように最初から仲のいい人もいる。マクシム、ミーシャ、ミラナ、もう仲間だと思う。お茶を買いに来る騎士のお兄さんたちも優しい。ダンの声が遠くなる。お布団がやわらかい。


「なんだ、眠っているのか」

「このままで。アーシュは体力がないんだ。夜は弱くて」

「そうか……がんばったな」


今は羽を休めよう。優しい人たちの中で。またきっと飛び立てるから。





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