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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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195/307

アーシュ14歳8の月涌きの後で

その後すぐにグレッグさんたちが第5ダンジョンから帰ってきて、第4ダンジョンで合流した。アレクの事は気になったが、帝都に戻っている余裕はなかった。1階の涌きを抑えただけではその場しのぎだからだ。ノアさんのパーティも、ニコとブランも来てくれたので、北部騎士隊、中央騎士隊と共に第4ダンジョンを徹底的に叩き、魔石を回収した。


やっと通常のダンジョンに戻る頃には、8の月の2週目が終わろうとしていた。疲れて帝都の兵舎に戻ってきた私たちを、大きな歓声が迎えた。参加した騎士は間近で私たちの活躍を見ていたのだ。今回の功労者が誰かはみんな知っていた。お茶のお嬢ちゃんたちだと。


とはいえ、目立ちたかったわけでもないし、功績が欲しかったわけではない。隊長代理の権限を侵したのは事実だし、ギルドの真実に関わるのはさらに面倒だ。アレクのようすをみたら、さっさと学校に行ってしまおうと私たちは話し合っていた。もともと学校に行くまでの兵舎預かりだ。倒したスライムの魔石はしっかり手に入れていたので、換金すればまあ、十分な稼ぎといえた。


グレッグさんたちがつかまらず、なかなか会えないので、ヨナスさんとクンツさんに「兵舎を出て、アレクのところに寄って学校に行きます」と伝言を頼んだ後、付き添いの3人に惜しまれつつ荷物をまとめてアレクのところに遊びに行った。なんとアレクはかなり歩けるようになっていた。頑張って食べて訓練をしていたらしい。


「そろそろ学校に行こうかと思います。8の月の3週目に来るように言われていたので」


というと、非常に残念がっていた。フリッツさんが、


「兵舎ではなく、この離宮にお泊めしますので、どうかもう少し。学校に1度顔を出したら、寮に入るのは9の月ギリギリでよいではありませんか。まだまだ聞きたいお話もございます」


と引き止めてくる。私たちは困って顔を見合わせた。残りたいのはやまやまだ。せっかくできた縁だもの。でも……


「まずは学校に行ってみないと。友だちも待っていますし。抜け出せるようであれば、必ず戻ってきます」


セロがそう言ってくれた。さて、学校に行こうかと腰を上げたら、おや、お客様が来たようだ。って、グレッグさん!みんなも!どうしたのかな。ヨナスさんが少し焦って連れてきていた。


「フリッツ、アレク、すまないが、少し客を預かって話を聞いてくれないか」

「ヨナス、俺カレンちに行くからいいぜ」


グレッグさんはのんきに答えている。


「私たちも、これから北領のダンジョンに行くつもりですし」

「俺たちはアーシュたちが学校に落ち着くまで帝都だな」


ノアさんとニコも言う。


「あんたたちは!ギルドの仕事が済んだからって、ダンジョンの功績を評価されもせずポイだろ!怒れよ!」


ヨナスさんは怒っていた。


「セロもアーシュも、ウィルもマルもだ。ダンだって補給部隊で大活躍だった。そもそも涌きを収めたのは子羊だろ!礼の一つも、報酬すらないではないか!」

「俺たちに怒ってもしょうがないだろ、ヨナス。壊れたギルドは直した。原因や管理の仕方は報告書にまとめて提出した。それで依頼は終わりだ」

「しかし!」

「それで何とかするようなやつなら、そもそもこんな問題は起きていない、そうだよな、ヨナス」

「……」

「あいつにとって帝国の民以外がどう功績を挙げても関係ないんだよ。帝国に貢献させてやったくらいに思ってるんじゃないか」

「……」

「うんざりするくらい問題はある。けど、それをどうにかしてやる義理はねえ。困るのは帝国だろ。メリダは2度と動かねえと思え。来年からは冒険者の派遣もなくなるだろうな」

「グレッグさん……」

「俺はこれからカレンとどう暮らすかで頭がいっぱい。楽しい新婚さんの予定だ」

「私たちだってもともと冒険者で来たのですから、それに戻るだけです」

「俺たちもだ。問題ない」


「私たちも学校でーす」


みんなに合わせて、私たちも一言言っておいた。


「お、アーシュ、カレンとどこ行くにしても必ず連絡するからな。今は学校行っとけ」

「はい。じゃあ行ってきます!」

「おう、気をつけてな」





「行ったな」

「行ってしまいました」


グレッグにフリッツが答えた。グレッグはフリッツとアレクをちらりと見、こう言った。


「で、ヨナス、思惑はなんだ」

「おそらく報告書は隊長代理止まり。ダンジョンの涌きは、北部と中央騎士隊の手柄。それで終わりです」

「それで問題ないって言ったろ」

「帝国としては、問題ありです。フリッツ」

「まあ、皆さん、まずはおかけになってください」


みんなしぶしぶ腰かけた。アレクが話し始めた。


「私が病がちになり、隊長職を休んでから何があった」


グレッグは驚いた。


「知らせてないのか……皇弟だろ……」

「ここ1年ほどは。生きるか死ぬかでした。お心をわずらわせるほどの話でもないと思っていたのです」


フリッツが答えた。アレクは続けた。


「代理がギルドに手を出していたのは知っている。しかし、個人の利益としてではなく、騎士隊の利益として計上していたはずだ」

「誰の利益がどうかは関係ない。そもそもギルドに手を出してはならないんだ」

「なぜだ」

「報告書を読めよ、面倒だし」

「グレッグ様、アレク様は病み上がりで」

「わかったわかった、やれやれ」


グレッグは話し始めた。


「ギルドはダンジョンの管理をする。適切に魔物を間引き、ダンジョンを安定させる。そのために冒険者を呼び込み、魔物を狩らせる。魔物が再吸収されないように、魔石や魔物は買い取る。ここまでいいか」

「ああ」

「魔石は小さいのは赤字だ。しかし中魔石以上は利益が出るので、冒険者も儲かり、ギルドの収支もプラスになる」

「そうだな」

「しかし、ギルドは、そのプラスを効率よく魔石をとる以外の用途に使ってはならない」

「え……」

「あれだけの魔石を扱ってるんだぞ、マッケニー商会がどんだけ儲けてると思ってる。ギルドがその気になったら、どれだけ儲かるか」

「確かにな」

「しかしやらないんだ。だからいつでも魔石の価格は一定。メリダでは利益は冒険者育成やギルドの充実に使われる」

「なるほど」

「それを帝国では、騎士隊が取り上げた」

「……」

「小さい魔石は利益にならないから買い取らない、駆け出しの冒険者には利益がでないから冒険者のなり手が減る、魔物が狩られない、狩られないからダンジョンが溢れた」

「……」

「ギルドは騎士隊の身内で固められ、昔からいた職員は去った。結果、ギルドの維持の手入れを怠って、ギルドの機能が働かなくなった」

「……」

「それにより魔物が……まだ説明がいるか」

「よくわかった。これを代理には説明したな?」

「した。維持の方法さえわかればいいとさ」

「……なんということだ」

「言っとくが、このままではまた涌きは起こるぞ」


アレクはふう、と大きく息をついた。


「グレッグとやら、貴殿ならどうする」


グレッグは、口の端だけを上げてニヤリとした。


「自分で考えろよ、といいたいが」

「言いたいが?」

「俺のかわいいアーシュならこういうだろうなあ」

「かわいいアーシュ?」

「父親代わりだからな。いいかよく聞け」


「まずは若い冒険者を育てましょう。同時に、帝都のスラムからやる気のある子を集めてきて、荷物持ちの訓練をするの。ダンジョンの側に、簡易の宿舎と、解体所を創りましょう。帝都に魔物の串焼きを広めて、高いだけの魔物肉の需要を増やすのよ」


あっけにとられる帝国側をそのままに、グレッグは続けた。


「冒険者になれば生きて行けるってわかれば、若い人はきっと集まる。ダンジョンで死なないよう、しっかり訓練をさせるの」


「グレッグ、貴殿は……」

「俺じゃねえ、アーシュの言いそうなことを言ってるだけだ。アーシュが小さい頃から見てきたんだ」

「そうでしたねえ、何でも宿屋でずいぶん無茶をさせられたとか」

「フリッツよ、余計なことは忘れとけ」


グレッグはちょっと焦ったように言った。


「つまり、どう効率よく、みんなのためになるか考えれば、おのずと答えは出るってことだよ、ソレがアーシュの考え方だ」

「なるほどな」

「じゃ、俺たちはこれで!」

「待て!いや、待ってくれ」

「なんだよ……」

「2週間、2週間ほど、ここに滞在してくれ」

「やだよ、カレンに会えないもん」

「カレンは呼んでいいから」

「じゃあいてもいい」


「「グレッグさん……」」


ノアとニコがあきれて言った。


「だってさ、疲れたし」


確かに1か月働きづめだった。仕方ないか、ということになり、

アーシュたちが学校にたどりついた頃、グレッグたちのアレク邸の滞在が決まったのだった。

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