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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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192/307

アーシュ14歳7の月その人は

私たちは別室に通された。私たち5人に、お付きの人、セロに抑えられた護衛の人、ヨナスさん、マクシムさんの4人だ。


お付きの人が言った。


「突然連れてきてしまい、本当に申し訳ありません。アレク様は身分の高い方としかお教えできないのです。事情は先ほど言った通りで、せめてお心を慰めできるようにとお連れしたわけで」

「アーシュ、俺はお前たちとずっと一緒に旅をしてて、もしかしてアレクはあの病かと思ってた。しかし医療院にも正直、ここまで重い患者はいなかっただろう、自信がなくてな」

「身分や、素性はどうでもいいです」


私が言うと、護衛の人が身じろぎした。ご主人思いなことだ。私たちは2人の侯爵に気安く接してもらっている。それ以上の身分で素性を隠す人は、当然限られてくる。


「医者はどう言っているのですか」

「確かに、あの病だと。気休めの薬を出すくらいしか。もう、あと一月も持たないだろうと」


確かにだいぶ衰弱していたけど、ちゃんと話はできた。水分も取れた。


「ヨナスさんから、治る可能性を聞いていますか」

「はい、しかし正直なところ、先程までは信じておりませんでした」

「それはそうですよね」

「いつも苦しくてゆっくり睡眠を取ることもできないのです。食事も少ししか食べず、最近では飲むことさえ嫌がられて。それなのに楽しくお話されて、お茶も口にし、そして今ぐっすりと眠っておられます」


フリッツさんは涙をこらえている。


「兵舎に滞在している間だけでも良いのです。ぜひこちらに顔を出していただけませんか」

「フリッツ!」


ついに護衛の人が口を出した。


「ヨナスの知り合いとはいえ、どこのものかもわからぬやからに、安易に面会を許すな!」

「マリク、落ち着け」

「しかし!」

「落ち着け!」


「マリクさん」


セロが言った。


「不利なのは私たちのほうなんですよ」

「なんだと!」

「あなたにとってのお偉い人は、私たちメリダの民にとって何の利益もない人なのはわかりますか」

「すべからく帝国の民は皇族の恩恵に浴し!」


ヨナスさんとお付きの人が目に手を当てた。ああ、言っちゃった。


「だから、帝国の民ではないんです」

「しかし、留学生ではないのか」

「まだ学校に行ってませんよ」

「あ、しかし……」

「私たちはメリダで育ち、学び楽しむために帝国に来たのです。ここで、あなたのご主人に関わることで、貴族の派閥に巻き込まれ、いらぬいさかいをうむことになるかもしれないのです。へたをすると、亡くなった責任すら取らされかねない」

「そんなことは……」

「私たちにとってはそれだけの危険があるということです」


セロは静かに続けた。


「アーシュはこの話を受けるでしょう。人を助けるのをためらわないから。しかし、助けてもらう側が一枚岩でなくては困ります。手助けを求めるなら、そちらが覚悟を決めてください」

「……」


黙り込んだ護衛の代わりに、フリッツさんが言った。


「アレク様ご本人の希望でこちらに静かに引きこもってはおりますが、ご家族に見捨てられたわけではありません。そちらにも手を回し、全面的に支え、守ります。こちらが何も言わないうちから、病と見抜き、お話と称してすぐさま治療に入ったこと、お茶をこちらで用意させたのも毒などの不安を解消するためとわかっております」


ひと息ついて、こう続けた。


「まだ年若い異国の方々にお願いするのは気も引けますが、何とぞよろしくお願いします」


深く頭を下げた。私は、みんなを見た。うん、やろう。


「明日、明後日は朝から1日ようすを見たいです」

「じゃあ、オレとマルとセロの3人は、いつも通りにダンジョンに行こう」

「俺はお茶販売まではみんなと一緒で。その後こちらに向かいます。アーシュ、2日ようすを見て調子がいいようなら、昼は俺1人でいい。夜は交代で来よう。たくさんいてもしかたないし」

「そうだね」


ウィルとダンがさっさと計画を立てる。セロが言った。


「監視もついてるし、大がかりに動きたくないんです。それでいいでしょうか」

「もちろんです。よろしくお願いします」


フリッツさんが言った。ヨナスさんが宿舎まで送ってくれた。


「ヨナスさん」


マクシムさんが話しかけた。先輩らしい。


「これからこいつらはちょくちょくお茶に招かれることになるが、余計な詮索はするな」

「しかし」

「巻き込まれただけで、こいつらは何もしていない。冷たいお茶に興味を持ったさる高貴な方に招かれたと、名前も身分も知らないらしいと報告しておけ。この数日でわかってるだろ、こいつらに裏なんか何もないって」

「はい」

「余計な思いを抱かずに、監視してそのまま報告しろ。どうせたいして興味があるわけじゃねえ」

「何を……」

「メリダの優男に言われたことだ。お前が反発して職を失うことになれば、悲しむのはこいつらだ」

「はい」

「マクシム、ミーシャ、ミラナ、希望はある。それがこいつらだ」


3人の顔が明るくなった。部屋に帰ってから、ミーシャさんに言われた。


「あなたたち賢いから、わかってたと思うけど、私がわざと優しくして、ミラナがわざと意地悪してたの」

「……ホントに意地悪なんだと思ってました」


思ってたより賢くないようだ、私。


「じゃ、意地悪はきいてたのね」

「それは別に」

「自信がなくなっちゃうわ」


ミラナさんはガッカリしていた。おもしろい人だった。



2日間、何時間おきかに魔石に熱を吸わせ、まめに水分を取らせた結果、少し起き上がり、濃いスープを飲めるくらいまで回復した。その次の日からは、ダンがお昼後に顔を出し、魔石に熱を吸わせ、お茶を飲ませながらようすをみる。夜には私たちも顔を出すというサイクルができあがった。会ってから10日、兵舎に連れてこられてから2週間で、アレクは1日の大半を起きていられるようになった。


ここからは魔石に意識的に魔力を入れられるよう訓練していかなければならない。同時に、少しでもベッドから出て動く必要がある。


「そんな、容態が良くなったばかりだというのに」


とフリッツさんはオロオロしていたが、日常復帰が目標だ。動いても疲れるだけで病気がもう悪化することはないということを説明して納得させた。本人は少し元気になって、やる気まんまんだ。


昼、ダンと少し歩く練習をし、庭に出て、夜は疲れて、ベッドに休みながらメリダの話を聞くのがアレクの楽しみとなっていたようだ。治療を始めて、濃いスープを飲めるようになった日から始めたメリダの話は、必ず次回の話を予約して終わるよう、みんなで決めた。それはアレク以外にも好評を博し、なぜだか世話をする必要もない人までアレクの部屋にいるようになったのだった。



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