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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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189/307

アーシュ14歳7の月なるわけがない

さて、ダンジョンに行く準備をして集合した。そしていかにもしかたなくあつらえた感じの古い馬車がやって来た。今日はダンも付いてくるというので、5人で出発。という訳には行かず、付き添いの3人も付いてきた。


「ミーシャさん、ミラナさん、ダンジョンも一緒に?」

「もちろんよ」


ミーシャさんは言った。ミラナさんは嫌そうに横を向いている。


「ギルドでは、小さい魔石を買い取らないと聞きましたが」


セロが自分の付き添いの人に話しかけている。


「悪いけど、私たちはダンジョンには演習以外では行かないから、わからないな」


と言った。冒険者でないとわからないものなのか、付き添いの人。


「私はマクシムという。付き添いの人ではなくね」


顔に書いてあったらしい。あまり口数の多くない付き添いたちに、帝都のようすを聞きながら、近くのダンジョンまで馬車に揺られた。馬車は待っていてくれるという。


ギルドはさすがに大きい。帝都周りはダンジョンの規模も大きいらしい。具体的には、一つの階がメリダの3倍程の広さがあるそうだ。それでも魔物の涌きが緩やかなら、メリダの普通のダンジョンくらいか。しかし、冒険者の数は少なく、活気もない。酒場はついているが、ここで飲むくらいなら帝都に戻るだろう。


私たちがギルドに入ると、活気のないざわめきがそれでもすっと収まった。恐らく付き添いの軍服に反応している。まあそのおかげで、面と向かって何かしてくる冒険者はいなかったようだ。


「昼からとは、優雅なこった」

「貴族のお遊びか」


などと聞こえてくるくらいだ。昼からなのはお互いさまよね。ダンは、


「俺は御者の人と一緒に酒場でギルドを観察しとくよ」


と言って酒場に行ってしまった。さて、ダンジョンは……


なんだろう、これは。目に痛いほど魔物がいる。涌きとは何か違う。視界の隅にはスライムがよどみ、ラットが走り回り、時には争っている。もう少し大きくて、小魔石しか取れない魔物がうろうろしている。もちろん、中魔石の取れる魔物もいるが、まずこれらを倒さないとたどり着けない。ブルクハルトでの経験から、地元の狩場は荒らさないようにしようと思ってきたが、そんな事を言っている場合ではない。目に見える範囲でも、倒されて、しかし魔石も取られず、放置された魔物の死体が散乱している。夜にはダンジョンに再吸収されることだろう。再吸収……魔石も?その時、かすかにえずくような音がした。ミラナだ。


「このままついてきますか」


セロの問いにマクシムは肩をすくめ、ミーシャは首を縦に振る。ミラナは何も言わないが、真っ青な顔をして口を抑えている。かわいそうだが好きにすればいい。


すべての部屋を回るのはやめよう。今日は階段まで最短のルートを通る。ダンジョンのようすを見ながら、なるべく多くの魔石をもって帰ろう。


「アーシュとウィルはちっこい魔物は魔法で倒せ。それ以外の魔物は、1階は俺とウィルで倒し、マルとアーシュで解体。2階はその逆。とりあえずそれでいいか」

「「「いいよ」」」


ダンジョンは意外と明るい。私とウィルの出す極小の炎は付き添いの人にわかるだろうか。見える範囲のラットやスライムなどは10体ずつどんどん倒し、すぐさま魔石を回収していく。売れないだろうって?メリダではどんな小さな魔石でも基本的には持ち帰る。そのための荷物持ちなのだ。ここはメリダではない。私たちは荷物持ちでもない。しかし、このダンジョンでもそうしたほうがいいような気がしたのだ。


連携に言葉を交わす必要はない。中魔石の魔物は持ち帰るため解体もした。ミーシャさん、ミラナさん、ごめんね、刺激が強いかな。結局、2階までで3時間かかった。時間は4時。ダンジョンから戻る冒険者ともちらほらすれ違うようになった。さすがに強そうだ。私たちを見て顔をしかめ、マクシムたちを見てさらに顔をしかめている。確かに雰囲気が悪い。


2階から一気に戻る。一度倒したとは思えないほど魔物がいた。帰りはできるだけ戦闘を避けた。魔石を拾う時間がないからだ。ダンジョンを出て5時。受け付けに向かう。ザラっと魔石を出す。


「お願いします」

「あら。お嬢ちゃん。おつかいかしら?小魔石までは買い取りをしないのよ。中魔石だけ買い取るわね」

「でも、ブルクハルトでは買い取ってくれました」

「帝都では買い取らないのよ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……決められてるから」

「誰に?」

「誰にって……とにかく、買い取りは中魔石以上ね。残りは捨てるか持ち帰って」

「あの、魔物肉は?」

「ギルドでは買い取らないのよ」

「ではどこで買ってくれるの」

「帝都に専門店があるわ」

「場所を教えてください」

「待ってね、あまり問い合わせはないから……メモを渡しておくわね、はい」

「ありがとう」


みんなに合流した。


「10万にしかならなかった。肉は帝都だって。帰ってから行こう。ミーシャさん、ここへ寄ってくれますか」

「途中だから行けると思うけど……」

「ミーシャ、余計なことをさせる必要はないわ!」

「ミラナ……でも」

「好き勝手しすぎなのよ。魔物肉なんか置いてくるのが普通でしょ」

「ミラナさん、おいしいんですよ、今度焼いてあげましょうか」

「串焼きにするととてもおいしい」


マルが付け加えた。


「とんでもない!」

「あー、売れないと腐っちゃうなー、どうしようかなー」

「腐るって……」


私が言うと、ミラナさんは一歩下がった。


「もめてるより売りに行ったほうが早いだろ。帰りに寄ろう」


マクシムさんがまとめてくれた。帰りの馬車では、久しぶりにダンジョンに行けた私たちは元気で、付き添いのみんなは疲れていて無言だった。無理もない。慣れてないと疲れるんだよね。ダンとのお互いの報告は明日のお茶準備の時にやろう。


帝都の解体屋さんは、夜6時だけど応対してくれた。大喜びだった。魔物肉はおいしいし、貴族などから需要があるのに、なかなか売りにこないのだという。魔物肉も10万ギルになった。


「ねえ、ダンジョンのそばでお店を開こうとは思わないの」

「ここまで持ってくるのがなあ」

「収納袋は」

「そんな高価なもの買えないよ」

「いくらくらいするの?」

「小さいのでも100万は下らねえな」


メリダではポーチで5万。ダンジョン用でも10~20万だ。冒険者が最初にお金を貯めて買う道具なのだ。


「冒険者もさ、収納袋を買ったら、単純に収入が倍になって、すぐに元が取れるのに」

「お嬢ちゃん、気軽にいうけど、うまく解体しないと味が落ちるからさ。お嬢ちゃんたちの解体は質がいいからこの値段だぜ。たまに貴族の坊ちゃんが売りに来てくれるんだけどな、そいつも質がいい」


アロイスたちだ!


「そうなんだ。これから1ヶ月、毎日のように来ても大丈夫?」

「このくらいの量ならどんとこいだ。肉待ちのお客さんに連絡しなくちゃな」

「袋がなくても、一体分くらいなら持ち帰れるんじゃない?ギルドに直接依頼を出せばいいのに。オーク、1キロ~ギルで買いますって」

「……それは思いつかなかったな」

「でなかったら、専属の冒険者を雇うとか。解体は最初に仕込めばいいし」

「……それも思いつかなかったな」

「冒険者も収入が安定するしね」

「ありがとな、考えてみるわ」

「うん、また来ます」

「よろしくな」


宿舎に着いたら7時だった。すぐに食堂に行こうとしたら、ミラナさんが風呂に入れと怒った。手は洗ったのに……。ご飯がなくなっちゃう。あ、食堂のおばさんが取っておいてくれるって。お風呂、ご飯、勉強、おやすみなさい。明日も6時集合だ。



「ミーシャ、ミラナ、隊長の呼び出しだ。行くぞ」


ドア越しに静かな声がする。ミーシャとミラナはそっと部屋を出たが、熟睡している私たちはまったく気づかなかった。

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