アーシュ14歳7の月かごの鳥に
「ありがとう」
「少し歩こうぜ」
私たちは5人で兵舎の周りを散歩し、訓練の見学などもした。セロが付き添いの人に聞いている。
「剣を振るなら、どこを使えばいい?」
「あそこの訓練場なら空いていれば使える」
「朝なら?」
「8時前なら大丈夫だ」
「ありがとう」
私たちは、木陰の休憩所に入った。付き添いは少し離れて立つ。誘っても座らない。
「ダンジョンな」
セロが話し始めた。ここからはメリダ語だ。
「来いって言ったクセに、行かせたくないみたいなんだよ」
「なんで?」
「ギルドを見て、直して終わりでは済まないとわかったからじゃないかな」
「確かに、グレッグさんたち念入りに検証してるもんね」
「オレたちも当然のような顔をして隊長との話し合いについて行ったんだけど、すごかったぜ、グレッグさんと隊長さんの舌戦」
「あくまでギルドのみを見ろと主張する隊長と、ダンジョンも含めて3箇所のギルドとダンジョンを見たいというグレッグさん」
ウィルも付け足してくれた。わあ、聞きたかったな。
「で、結局、グレッグさんたちとノアさん、ニコとブランは、まず第5ダンジョンに泊りがけで調査に行くことになった。そこがギルドが止まってるんだ」
「なるほど」
「で、オレたちは、閉じこもって勉強してろってさ」
「セロたちも?私たちも言われたよ」
あー、うんざりだ。
「でもさ、そこはグレッグさんが粘ってくれてね、ちゃんとダンジョンも行かせてくれるって言ったはずだって」
「そうなんだ」
「でさ、冒険者はがらが悪いから留学生に何かあっては困るとか何とか抵抗してたけど」
「ほうほう」
「お金もなしで外国の港町に放り出される以上の生命の危機ではなかろうってグレッグさんが言って」
「だよね!」
「結局隊長が折れた」
「じゃあ、行けるの?」
早めにお昼を食べて、12時出発。1時間ほどかけて第5ダンジョンへ。アロイスたちがよく行くダンジョンだ。そこで少しダンジョンに潜って、帰ってくると。子どもの習い事か!バナナはおやつに入りますか!
「何時間までって、言われた?」
「言われてない」
ウィルはニヤリとした。私たちもニヤリとした。午後からたくさん潜ればいい。調査でもないし、好きなようにやろう。そこでダンも言った。
「あとな、午前中暇だろ?お茶やろうぜ」
「お茶?誰に売るの?」
「あいつらだ」
ダンの目の先には軍人さんがいた。
「でも許可は」
「取った」
グレッグさんとのやり取りで疲れている隊長さんをうまく丸めこんだらしい。
「ほら、そこの広場のところ」
どれどれ。
「そこに物売りが時々来るんだって。そこでやろう」
「わかった。季節がら冷たいお茶と、冷たくて甘いお茶か」
「果実水はどうだ」
「仕入れが難しい。お茶はブルクハルトで買い込んでるから大丈夫だけど。帝都はろくに見てないからね。今度休みに市場にいこうよ!クッキーも売りたかったな」
「材料と作る場所だな」
「カップはどうなの」
「洗って返すってことで、食堂で借りる手はずはついた」
「すごいな。私なんかミラナともめてただけなのに」
少し落ち込んだ。
「アーシュは見かけで誤解されやすいからな。今度は意地悪されてもがまんするなよ」
「うん、まあ、避けられるようなら避けるよ」
「セロ、大丈夫。アーシュはちゃんと言い返してた」
マルが言った。聞いてたんだね。
「そうか、ならいい。マルも気をつけろよ」
「大丈夫」
ダンがまとめた。
「じゃあ、朝の訓練がひと段落付く10時販売開始な。お茶は俺が作っとく」
「楽しみだね」
セロがつけ足した。
「朝の訓練は少しゆっくりで6時にしよう。これからダンジョンで夜遅くなりそうだからな。訓練場集合な」
これで明日からの予定がたった。ある意味、やっと自分たちの時間だ。解散して、部屋までミラナのイヤミを聞きながら戻った。ミーシャといろいろな話をしたかったけれど、食堂で注目されつつご飯を食べて、お風呂に入って、勉強をちゃんとして早めに休んだ。早く寝れば寝たで早すぎるとミラナにブツブツ言われたが、ほうっておいた。そしていつものように5時に起き、着替える。
「なんなの!勝手に出ないで!」
と怒るミラナを無視して、訓練場にいく。少し早いが、セロたちも同じくらいに来ていた。ニコもブランも、ノアさんたちもだ。あ、ヨナスさんとクンツさん、副隊長もいる。付き添いも眠そうな顔で勢ぞろいしている。何だか大人数だ。
では、始めましょう。ノアさんの合図で、訓練が始まった。いつも通りではないからこそ、いつも通りの訓練を。基礎を大切に。
しかし、副隊長が入ったうえに、付き添いが黙っていられなくなって参加し始め、初日から非常に激しい訓練となった。ミーシャもミラナもいつの間にか参加していた。剣では私以上、マル未満という感じだった。みんなの中で最弱なのにはもう慣れた。いいのだ、私は魔法師なのだから。ノアさんたちは、今日出発だという。
「訓練前にムダに疲れちゃったわよ」
ミラナはまだブツブツ言っている。急いで汗を流し、スカートに着替え、朝ごはんを食べに行った。
「そうしてると、剣なんか使うようには見えないのにな」
声をかけられた。ん?セロたちと一緒の人だ。私は自分とマルを見てみた。ズボンとスカートの違いだけだ。お兄さんは私の頭をポンポンして去っていった。セロが嫌な顔をしてポンポンし直していた。汚くないよ、別に。
朝ごはんを食べても8時前。お茶の準備を手伝おうか。その時、ダンの声がした。
「え、まだカップ使えない?」
「今日休んじゃった子がいてさ、洗い物が追いついてないんだよ」
ダンが焦っている。
「洗い物手伝いましょうか」
「いいのかい、どこぞのお嬢様だろ?」
「違う違う、やり方教えて?」
「じゃ、お願いするかね。そのエプロンをつけて」
私とマルはそのまま厨房を手伝った。ミーシャとミラナはそれを壁際で眺めていた。
「ひと段落ついたよ、ほら、カップ持っておいき。ありがとうね」
よし、カップが手に入った。
「甘い方が300ギル、甘くない方が200ギル、利益はそれぞれ半分。数は思い切って100ずつ。どうだ?」
「思い切った数字だね。半分出ればとんとんだけど……」
「結構な人数がいるぜ?」
「うーん。やってみようか」
長テーブルを用意して。カップと水筒を用意してと。後ろでセロとウィルが、大きなたらいを用意してカップを洗おうと準備している。さっきからチラチラ見られてるよ?
「おいしいお茶はいりませんかー」
大きい声を出す。すぐに人が集まってきた。
「お茶って言ってたけど、君、今日食堂にいたよね」
「宿舎に泊めてもらってるの。お茶は冷たいお茶ですよ。冷たくて甘いお茶もありますよ」
「一杯いくら?」
「甘い方が300ギル。甘くないのが200ギル」
「じゃ、甘い方で」
「はい」
チャリン。まいどあり!初めてだけど。
「なんだこれ、かー、うめー!」
なんでかーって言っちゃうんだろね。冷たいものって。
「しばらくやってますからね、またどうぞ!」
「ああ、明日も来るよ」
固定客になりそう。1人頼んだら次々来た。意外にも甘い方から売り切れた。ダンとマルと私の3人で売り子をやったが、てんてこ舞いだった。休憩は30分ほど。200杯売り切れてしまった。
「自分たちの分、入れ直そうか」
簡易コンロを出し、お茶を入れ、魔法で冷やしていく。ずっとあきれたように見ていた付き添いの3人にもごちそうする。
「おいしい」
ミラナが怒らずに言った。怒らないでしゃべれるんだね。
「ねえ、それ魔道具よね」
「そう、メリダでは普通の家庭で使うんだよ」
「高くないの」
「このコンロで5000ギルくらい」
「安っ!」
「帝国にはほとんど輸入されてないんだね」
「庶民には高嶺の花なの」
「ミーシャさん庶民なの?」
「うーん、父が騎士だから違うかな。でもお金持ちじゃないよ」
「親子二代で騎士か、すごいね」
「そんな……」
午前中のひと時を、のんびりおしゃべりして過ごした。さあ、早めのお昼を食べたら、いよいよダンジョンだ!
ちなみに本日の売り上げ50000ギル。利益25000ギル。1人当たり5000の収入です。計算あってるかな?




