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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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172/307

アーシュ14歳4の月第1ダンジョンへ

ヨナスとクンツは駐屯所で中央からの指示を受け取った。


「9の月に来ることもあり得たのだから、期日に余裕はある。最終的に帝都に来るなら自由にさせてかまわない。ただし、帝都に着くまで護衛継続のこと」


ほっとした。相手が優男とはいえ、無理に帝都に連れていくのは面倒であったし、何より彼らについていくことが楽しいことのように思われたからだ。指令だから仕方ないという顔をしつつ、内心小躍りして領主館に連絡に戻った。




軍人たちが指示を受け取っていた頃、私は、大使の、いやアールさんの親戚だという人について話を聞いていた。


「珍しく幼いうちに発症してな。まだ8つなのだが、大人にはなれぬだろう」

「では、これを試してみませんか」

「それは?」


私は、この所作っていたブレスレットを取り出した。中魔石の周りを、きれいな糸で囲ってある。魔石は空っぽだ。それをいくつかアールさんに渡した。


「微量ではありますが、空っぽの魔石は魔力を吸い取ろうとするようです。異国のお守りだと言って、時々握って、体のイヤなモヤモヤをこれに吸い取ってもらうようにお話してみてくれませんか。小さい子なら聞いてくれるかもしれません」

「魔力量の問題だと言うのか、しかしな」

「キレイだから、持っているだけでうれしいはずです」

「うーむ。それならばこの町に住んでいるのでな、直接行ってもらえるか」

「私も行きます。貴族が行ったほうが安心するでしょうから」


カレンさんが言ってくれた。


「ぜひに」

「ウィルも来てくれない?」

「いいよ、魔法師として勉強ってことだな」

「俺たちはどうする?興味はある」

「人数が多くてもびっくりするだろうから、次の機会にお願いしたいです」

「「わかった」」


クーパーさんとテッドがうなずいた。グレッグさんが言った。


「では、明日準備して、明後日第1ダンジョンに出発しよう。行き帰り合わせて2週間ほどの予定だが、カレンさんは残った方が……」

「仕事で来ましたの。行きます!」

「しかし、このところ移動ばかりで心配で……」

「……少しでもそばにいたいのです」


カレンさんは小さい声で言った。私たちは聞こえない振りをした。


「これはこれは……」

「しーっですよ、アールさん」


「旦那様、中央騎士団の方がいらっしゃいましたが」

「かまわぬ、通せ」


ヨナスさんとクンツさんが入ってきた。タン、と敬礼し、


「侯爵におかれましては」

「よい。それで中央はなんと?」

「はい、期日はお任せすると。私たちは帝都まで引き続き護衛を申しつかりました」

「中央もバカではなかったか。あるいは真性のバカものか」

「は?」

「いや、ではしばらく第1、第2ダンジョンで仕事をしてもらうことにしよう」

「はっ」


グレッグさんが話しかけた。


「ヨナス、クンツ、軍の馬車はそのまま借りられるか」

「大丈夫です」

「では明後日から2週間ほど、第1ダンジョンに向かう。よろしく頼む」

「わかりました」


「ダンジョン周辺は一応小さいが町になっている。宿屋もあるが、カレンには厳しいか……」


アールさんが悩む。


「なんとかなりますわ。モニカもおりますし」

「お任せくださいませ」


「では仕方ないか。ではアーシュ、親戚とは午前中に約束を取り付けておく。異国のお嬢様だとな」

「お嬢様って。まあ、それらしくします。そのまま町に出て遊んできてもいいですか?」

「アーシュ、準備だ準備。遊びじゃないんだぞー」


グレッグさんが棒読みした。思わず笑ってしまった。


「ヨハンとクンツも明日は休んでこい。ギルドもダンジョンもないところで何もしやしねえよ」

「しかし」

「じゃあ、ノアたちについて行けよ」

「それならまあ」

「俺も行くから、ギルドの要人警護だってことで」


テッドさんがおどけて言った。


「あーそれでいいだろ」


流された。その日私たちは、領主館に泊めてもらった。その時に、滞在費が学院から十分に出ないことを話すと、


「メリダの留学生にというより、私が推したことへの嫌がらせだな。おそらく中央の貴族が学校にやらせたのだろうが。通例としては、早くから寮に入ってよいことになっているはずだ」

「私たちは冒険者だから大丈夫だけど、次の留学生が困らないようにしてほしいです」

「わかった」


次の日、マルとウィルと、カレンさんと馬車で出かけた。大きめの静かな屋敷にその女の子はいた。8歳といえば、ご飯のために走り回っていた頃だ。こんなにやせて、ベッドの中にいるしかないなんて。


「こんにちは」

「異国のお姫さまなの?」

「お姫さまじゃないけど、魔法の国から来たの」

「すごい。魔法、できる?」


近くにいたお母さんを見て、魔法を使ってもいいか確認した。うなずいてくれた。


「ライト」


光が灯った。それを動かしてみせる。


「すごいすごい!」


その間女の子を観察する。やはり魔力が余っている感じがする。ウィルもうなずいた。


「お熱ってどんな感じ?」

「何かね、もやもやってするの」

「そう、ほら、これ」


ブレスレットを見せた。


「キレイね」


目をキラキラさせた。


「これね、異国のお守りなの」

「お守り?」

「これを握ってね、もやもや吸い取ってってお願いするの」

「お願い?」

「やってみて。まずもやもやを見つけて?」

「うん、体じゅうもやもやだらけなの」

「ふふっ、そうなの?」

「そうなの」

「じゃ、お願いしよう、もやもや行っちゃえって」

「行っちゃえ!」

「あ」


すっと、魔力が吸い込まれた。私は慌てて魔石から手を離させた。


「もやもや行っちゃった」

「よかったね。なんか食べられそう?」

「うん、スープと果実水!」


お母さんが口に手を当てて、涙をがまんしている。


「たべさせていいですよ、お客が来て元気になったのかしらね」

「うん!」


ご飯をたべさせて、寝かしつけた。私はお母さんに話をし、中魔石ではなく、小魔石をいくつか渡した。


「病は気からと言いますし、1日おきに、このお守り石に、今のようにもやもやをすわせて見てください。2週間後にまた来ますから」


屋敷を出ると、ウィルが言った。


「確かに、魔力が溢れてたね。何で小さい魔石にしたの?」

「魔力が吸われすぎる気がして。少しずつの方がいいでしょ?」

「魔石を使うやり方なら、私でもできそうです」


カレンさんが言った。


「大人はお守りっていっても信じないと思うの。どうしたらいいかなあ。魔法を覚えさせるよりマシだと思うんだけどな。あと、からの魔石って売ってるかな」

「どうでしょう、普通は魔石の交換で新品しか使わないから」

「後で大使に聞いてみよう」

「だな」


そのまま町に遊びに出かけた。


次の日、第1ダンジョンに向かった。ダンジョンは帝国全体で、10個しかない。3日とはいえ北に向かうと、少しまだ寒い。次第に大きな山並みが見え、そのふもとにダンジョンはあった。そしてそこには、メリダの半分ほどの小さな町があった。ダンジョンだけでにぎわっているのではない。木材や、キノコなどの集積地でもあるらしい。


「キノコ!」


時間があったら、スープを作ろう!


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