アーシュ14歳4の月シュレム
帝国はメリダから西にあり、メリダ西の港町ニルムから船で2週間、帝国の東の港、シュレムに着きます。中央を囲んで北領、東領、南領があり、西側はフィンダリアという国に接しています。大使のアールは東領の侯爵、シュレム、ブルクハルトは東領にあります。
西、東がまた混じっていたので訂正しつつ、確認のため地理を書いておきます。わかりにくくてすみません。
私たちはノアさんから、すかさず自己紹介した。
「私たちはノア、イーサン、クーパー。パーティ名はあかつき。A級です」
「俺たちはニコ、ブラン。パーティ名は黒羊。A級」
「オレたちはセロ、ウィル、マル、アーシュ。パーティ名は丘の上の子羊。A級とC級です」
「今年は以上3組だ。なお、パーティ子羊と、こちらのダンは留学生でもある。9の月からは高等学校に通う」
グレッグさんがまとめた。
「君たち、え、女の子だろう!留学生?」
私たちは首を傾げた。ああ、帝国では女子は冒険者にならないんだっけ。特に返事をする必要性を感じなかったのでニッコリしておいた。グレッグさんは言った。
「では、冒険者組にカードを渡してもらえないか」
「わ、わかった」
それぞれ、ギルドカードのようなカードを渡された。
「それがあれば各町で中程度の宿屋、食事が無料で利用できる。中程度の魔石を1年で50個ほど納めてもらえば後は自由だ。大抵の冒険者はブルクハルトのダンジョン止まりだが、ぜひ帝都のダンジョンまで来てもらいたい。今年はスライムダンジョンが荒れていて……」
スライムダンジョン!魔法師が全員ソワソワしたのがわかる。
「大変なのはわかるが……」
ヨナスさんは勘違いしていた。トントン。ドアが叩かれた。
「なんだ!」
「すみません、メリダの方が来たならこれも」
受け付けであろうと思われる人が、書類を持ってきた。
「これは東領侯爵家からの手紙、グレッグさんと留学生宛です。こちらは高等学校から、留学生に手紙と小切手です。小切手は商業ギルドで両替を」
「ありがとう」
大使からだ!なんだろう。
「東領侯爵とは……」
「メリダの大使も兼ねているので、その関係です」
「なるほど」
「では、今日明日とここに泊まり、明後日ブルクハルトに出発する予定だ。それではご苦労でした」
グレッグさんはさっさと出ようとした。
「待ってください!帝都まで馬車を用意しています」
「いらない」
「そう言わず!とりあえずブルクハルトまででも!」
グレッグさんは頭に手をやった。
『あーめんどくせー』
「グレッグさん!」
「カレンさん、すみません……」
カレンさんは聞いた。
「ヨナスさん、その馬車には何人乗れるのですか?」
「私たち以外に6人ほどですが」
「では、うちの馬車も来ておりますので、ブルクハルトまでご一緒に。よろしければ冒険者の方を乗せていただけないでしょうか」
「冒険者を……、よいでしょう。グレッグさん、帝都までは基本私たちが護衛です。あまり勝手な行動は慎まれますよう」
『ていのいい監視かよ』
グレッグさんがカレンさんに言った。
「では今夜の宿を探しましょう」
「では前回私が泊まったところはどうでしょう」
私は声をかけた。
「私たちのカードで泊まれるかな」
「いい宿だから、たぶん無理よ。気にせず私と一緒に泊まりましょう?」
「ううん、いいよ!じゃあ、グレッグさんカレンさん今日は別行動だね!」
「え?アーシュ?」
「おう、気を付けろよ!」
「泊まるとこ決まったら知らせるね!」
「あ、俺も行くわ」
若者たちとテッドはわらわらと出ていった。ノアたちは残っている。
「グレッグさん、いいのか?」
「俺たちよりよほどしっかりしてるって」
ヨナスとクンツは何も言えず固まっている。
「アイツらなら大丈夫です。今頃串焼きでも食ってるって」
「あ、ああ、はい」
その頃、私たちは串焼きを食べていた。海鮮串だ。塩と何かの香草だけの味付けだが、うまい!
「これ食べたら宿を探そう」
セロがそう言っている。私とダンは、串焼きを食べながらあちこち目を走らせている。人々の服装や食べているものは、メリダと変わらないようだ。港はきれいに石畳で整備されている。そしてメリダより、飲み物やさんが多い。まだ4の月、メリダよりむしろ寒い。温かいお茶がほとんどのようだが、水はどうなのか。甘いものは見当たらないか……
「アーシュ!ダン!」
「「え、はい!」」
「まだ遊んでもいないのに仕事か?」
ウィルにあきれられた。
「何で上の空なの?」
テッドが聞いている。
「そのうち分かるから」
ウィルが教えていた。それから宿屋を探したが、さすがに冒険者の玄関口、結構泊まれるところはあった。一応女の子なので、1番安全そうなところにした。カレンさんには悪いが、ご飯も別々だ。パンは小麦を使った硬いもの、これはメリダと同じ。しかしこの肉は?
「豚って書いてあるぜ」
「豚!」
「アロイス言ってただろ、家畜がいるって」
「おいしい!」
ウィルとマルはお代わりもしている。食べ物はやっていけそうだ。
「俺たちエール頼むけど、お前らどうする?」
ニコとブランとテッドが言った。私はマルと顔を合わせた。どうする?成人したし?頼んじゃう?
「じゃ「果実水な」」
セロにさえぎられた。はい。はしゃぎすぎました。
「でも一度飲んどけよ、俺らがいる間にさ」
ブランがそう言った。うん。セロとウィルがいいって言ったら。
「もう少し状況がおちついたら、な」
「「わかった」」
宿屋のベッドは可もなく不可もなかった。ただしお風呂のサービスはない。桶を借りて、お湯で体を拭くのみだ。仕方ない。長期に滞在するなら、家を借りてお風呂を作った方がいいかもしれない。あ、寮に入るんだった……
いつの間にか朝になっていた。やはり船は疲れたようだ。今日は何をするかな。朝ごはんのパンには、なんと、バターがついた!コミルはミルクの風味がするけど、バターは作れなかった。バターがあれば、お菓子にも料理にも幅が出る。そうだ、市場を見よう!
その日も1日中町を駆け巡った。それほど大きくはない港町だが、長くいたら釣りをしたり、もっと海を見に行ったりできたに違いない。勉強しただけあって言葉には困らなかった。
次の日、グレッグさんたちの泊まっているところに行くと、カレンさんに、
「いくら旅慣れているからって、ここは外国なのよ!心配したでしょ」
と怒られたのはしかたないかもしれない。グレッグさんと2人になれるように気を使ったのにな。え、余計な2人組がいてかえって気苦労が?なるほど。
ブルクハルトは、東領の中心都市になる。シュレムから馬車で一週間。そしてブルクハルトから一週間で帝都に着く。大使からの手紙は、
「迎えにいかなくても勝手に来るだろうと信じている。ブルクハルトにいるので、来たら寄るように」
という事だった。学校からは?帝都までの定期便の交通費と宿泊費と思われる小切手と、8月の3週目以降なら寮の用意があるという連絡だった。うーん。その間の4ヶ月分の生活費は、自分で出せということか。実は歓迎されてない?メリダの定期便について単にわかってない?後から支給される?お金がないわけじゃないけど、冒険者として来てよかった。この分では、学校に行ってからもだいぶかかると思った方がいいな。メリダと帝国は、お金の単位は共通だ。市場を見た限りでは、物価もそう変わらない。
侯爵家については、カレンさんがらみとはいえ、アロイスががんばってくれたに違いない。ありがたく馬車に乗せてもらってブルクハルトに出発した。




