アーシュ13歳3の月帝国へ
なんとか間に合いました。本編です。
ニルムには船出の1週間前についた。
「君がアーシュ君か。これで全ギルド長室制覇だな」
とニルムのギルド長に笑われつつ、一週間、のんびりと過ごしたわけではなく、その間しっかりとダンジョンに入った。テッドさんは20歳で、A級の魔法師でもある。早くにA級になったが、パーティの方針と合わず早々にソロになり、そしてギルドに就職したと言う。現在は、アメリアさんと同じ魔道具の開発も勉強しているところだそうだ。
「俺、魔法は好きだけど魔物を倒すことにそう魅力を感じないんだよね」
と言っていたが、ニコとブランと組んで、
「久しぶりだよ」
と言いながらダンジョンに潜っていた。常に3組で行動するわけではないが、連携を確認する必要があった。ノアさんからは、
「あのチビちゃんたちがこんなに強くなったなんてな」
とからかわれながらも、冒険者として対等に接してくれた。
気がかりだったウィルとマルの件も特に何もなかった。
そして3の月の3週目、私たちは船に乗ったのだった。目的地はガルア帝国、シュレムの港だ。カレンさんは半年前に乗ったばかりだし、ノアさんたちも乗ったことがあるので、子羊組とテッドさんとグレッグさんが初めての船だった。ギルド長は、
「俺は今は厳密にはギルド長ではない。グレッグと呼べ」
という事で、グレッグさんと呼ぶようになった。まだ慣れないが。
冒険者がバランス感覚が悪いはずもなく、船酔いとは無縁だった。船を揺らさないように、海に魔法を放つのは面白かったし、やり過ぎて怒られたのはグレッグさんとテッドさんだったりする。乗客はメリダの人が中心で、シュレムには魔物肉の輸出や、生地などの輸入のために行くという。魔石を使った道具類を輸出する人もいたが、そのくらいだった。毎日甲板を使わせてもらって訓練をし、魔法を海に放ち、それを乗客は見て楽しみ、にぎやかに楽しく過ごした。時間があればセロは海を見ていた。
「いつも違うんだよ、海はさ」
セロは言う。シースでも、セームでもセロは海が好きだった。海を眺めるセロの横にいると、私もゆったりした気持ちになる。
そうして2週間がたち、シュレムの港についた。カレンさんによると、
「帝国についたら、あなたたちはダンジョンに行く以外はメリダの留学生です。それらしく振る舞いましょう」
という事で、セロとウィル、ダンは、冒険者の服から学生らしい、白シャツと濃いグレーや茶系のズボンにジャケットという、さわやかな格好になった。私たちは、メリダで作ってもらった普段着の動きやすいドレスだ。足首を見せるほどの短さで、ブーツを見せるのがはやりだという。冒険者のみんなもそれなりに大人の格好に着替え、船を降りた。
小さめの船とはいえ、外国との定期船の入港だ。人だかりができていた。それを楽しく眺めながらドレスのスカートを揺らし、タラップを降りると、港がしん、と静まった。え?カレンさん?貴族だから?振り返ると、
「教えたでしょ、堂々と、にこやかに」
と言われた。マルと顔を見合わせ、「にこやかに」タラップを降りると、ざわめきが戻った。
「メリダから女の子なんて珍しいな」
「商人以外の若い奴らは何だ?冒険者にしては身なりがいい」
「それにしても、少々年のいっているのも含めても、なんてきれいな女の子たちなんだ」
そして、侯爵家の迎えが来ていた。
「お嬢様、お元気になられて!もう帰って来ないかもと……さあ、奥様と旦那様がお待ちです。急いで帝都に戻りましょう。留学生の方もご一緒にとの事でございます」
「お迎えありがとう、少し待ってもらえるかしら」
「しかしこんなところで……」
「少し、ね?」
「はい……?」
一方、グレッグにも迎えが来ていた。20代半ばだろうか、ノアさんたちと同じ位の年頃の、ガッシリした軍人2人だ。
「メリダからの派遣はこちらか」
「そうだが、あなたたちは」
グレッグさんが答えた。
「ありがたい、帝国語がおわかりになる」
2人はほっとした顔をした。
「私たちは帝都中央騎士団所属のヨナスと」
「クンツと申します」
「通例では冒険者の方にカードを渡して終わりなのですが」
「今回はこちらから派遣をお願いした以上、お迎えと、帝都までの案内、そしてお世話をと」
「申しつかっています」
「とりあえず、港の管理事務所までおいで願えますか」
双子か!と思うくらいそろっていた。グレッグさんはカレンさんを見た。メリダ語で話す。
「中央騎士団はエリートです。帝国側もそれなりの対応をしようとしているということでしょう。ここは言う通りに」
「わかった」
「こちらは随行と冒険者だが、一緒でよいか」
グレッグさんは私たちを指す。
「もちろんです」
侯爵家のお迎えには少し待ってもらい、ぞろぞろと事務所まで歩いた。事務所は港のすぐそばにある、少しギルドを思わせる建物だ。ヨナスが受け付けに話をすると、すぐに一部屋が用意された。人数が人数なので小会議室のようなところだ。
席に着くと同時に、お茶も用意される。カレンさんのようすを見て、お茶をいただく。メリダのものとは風味が違うが、同じ種類の茶葉に違いない。
グレッグさんが先手を打った。
「案内と言うが」
ふっと息を吐く。
「到着の期日までは決められていないはずだ。特に世話も案内も必要ない。7の月までには行くつもりなので、心配は無用」
ヨナスとクンツはあっけにとられた。
「いや、しかし帝都のギルドの修理にいらしたのですよね」
「そうだ」
「ではなるべく最短で来ていただき、寄り道は帰りにしていただけるとありがたいのですが」
グレッグさんはちょっと間を置いた。
「ギルドの機構は、1箇所だけでなくすべてがつながっているのは知っていますか」
「はい、それがなにか」
「原因がそのギルドとは限らないということです。そこを治しても、他のギルドが機能停止したら?」
「それは……それにしてまずは停止しているところを見ていただいてからでも……」
「行ったり来たりしたくない。1番ダンジョンから見ていきたい」
ヨナスとクンツは顔を見合わせた。
「私たちの一存では……」
「私たちはシュレムに2日ほど滞在したら、とりあえずブルクハルトに向かう。そこまでは帝都への道と同じはずだ。その間に指示をあおげばいい」
「ブルクハルト。確かに。すぐにでもたちたいところですが」
「こちらは2週間の船旅で、ご婦人もいる。2日ほども休ませないつもりか」
「失礼しました。そちらは……」
「カレン・フォン・ディーンと申します。グレッグ様の通訳として参りました」
「通訳!しかしディーン家といえば北領の」
「メリダに旅行しておりましたところ、通訳の依頼を受けました」
「旅行……」
「それからこちらがテッド。修理の主な担当になる。メリダのギルドからは以上3人だ」
「3人、ではこちらは……」
「そちらが要請している、今年分の冒険者です」
「は、冒険者?随行ではなく?」
「冒険者です」
今度こそヨナスとクンツは絶句した。随分随行が多いとは思っていたが、この若者たちがまさか……




