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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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165/307

アーシュ13歳1の月ギルド長会議の後で

1の月、ギルド長が帰ってきた。


「おかえりなさい」

「おう、ただいま。子羊関係はほめられた他は何もなかったぞ」


と言って、領主館に行ってしまった。


「何か普段と違うね」

「そうだな」


みんなで首をかしげたが、考えても仕方がない。そろそろ王都に戻ることも考えなくてはならない。そして二日後の夜、ギルド長から集まるよう連絡があった。その日は、子羊館ではなく領主館に集まった。領主家族の他に、子羊、卒業子羊のザッシュ、カレンさん一行、そしてギルド長、珍しいことに副ギルド長もいた。ギルド長が話し始めた。


「今回のギルド長会議で、帝国のギルドが1つ、機能を停止したという案件が挙がった」


ギルドの機能停止。もしメリルがそうなったら、魔石の換金ができなくなる。近くて馬車で3日。それほどの手間をかけるくらいなら、メリルには行かない。ダンジョンが涌く。


「幸いというか、帝都の側で、他にもギルドはあるそうだ。しかし帝国では修理がままならず、メリダに修理依頼が来た」


ギルド長は息をついだ。


「修理の技師とともに、ギルド長という立場で俺も行くことになった」


え?俺も行く?ギルド長が帝国に行く?


「でもメリルは」

「私がいますから」


副ギルド長だ。


「メリルは副ギルド長で十分やれる。領主の許可も取った。さすがに帝国も、今回はお客様対応で招いてくれるそうだ。そこで」


そこで?


「俺と技師もいれて、さらに必要な人員を確保してよいそうだ。カレンさん」

「はい!」


カレンさんはよく分かっていないようだ。


「ギルドから、通訳の依頼です。たまたま旅行で来ていたということだが、メリダ語にも堪能と聞くので、俺付きの通訳をお願いします」

「通訳?」


ぼんやりしている。私が説明し直した。


「ギルド長がね、仕事で帝国に行くことになったの。その仕事に通訳としてカレンさんに付いてきてほしいんだって」


カレンさんははっとしてギルド長を見た。


「まだ、まだ離れずにいられるのですね」

「ギルドの視察の随行ですから、けっこう体力もいります。大丈夫でしょうか」

「ええ、ええ、頑張って働きます!」


拍手が起きた。


「セロ、ウィル、ノアのパーティも来るそうだ」

「ほんとですか!」


セロが帝国に憧れるきっかけになったパーティだ。王都でもお世話になっている。


「まあ、なんだ、お前ら学校にはいつまでに行けばいいんだ?」

「8月の3週以降と聞いています」

「じゃあ、それまではお前らも協力しろ」

「「「「はい」」」」

「セロは後で話がある。暇な時にギルドに寄ってくれ」


いろいろな事が起こって頭がいっぱいだ。そんな時、ダンからも子羊に話があるという。


「ザッシュも残ってくれ」

「おう、なんだ」


「今回、帝国に行くにあたって、カレンさんの事もあっていろいろな事考えてるだろ」


ダンが話し始めた。


「けどな、俺は帝国にあまり深く関わるべきではないと思う」


みんな驚いた。だってダンは商人だ。メリダからの輸出を考えていると思っていた。


「輸出したとして、代わりに何を輸入する?ギルだけ得られても、それをメリダでどう生かす?」


私たちには少し難しい。


「一方、今までは取るに足りないと思っていた国が、有用だと思われたらどうなる?」


私は考えた。


「小さい国なら、侵略……まさか。船で二週間もかかるんだよ?」

「俺も考えすぎだとは思う。けど、メリダはたいしたことないと思われていたほうが安全だと思うんだ」


ウィルが考えながら言った。


「ダンは商売考えてるからそうかもしれないけど、オレたち単なる冒険者兼、留学生だぜ?そんなに慎重になるべきかな」

「生活魔法なんて当たり前、それが帝国では通用しない事が既にわかっただろ」

「それはそうだけど」

「メリダからの初めての留学生、しかも底辺の冒険者を喜んでやってる、魔法が使える、そして侯爵家が家庭教師を派遣するほどの者、大使とも知り合い、伯爵家にも縁がある、これのどこがたいしたことないんだよ」

「けどさ、そんなことばかり考えてたら、留学が楽しくないじゃないか」


みんな難しい顔をしている。ダンは言った。


「そうだ。楽しくない。だから今の事はちゃんと考えていてほしいんだ。特にアーシュ」

「え、私?」


みんなああ、という顔をした。


「風土病が治るかもしれないと知れたら、どんな騒ぎになるか」

「でも……」

「手を広げすぎたら、救えたものもこぼれ落ちていくんだ。辞めろとは言わないよ。けどさ、よく考えてくれ。オレたち何のために帝国に行くんだった?」


セロが代わりに言った。


「観光、だろ?」

「そうだった」


思い出した。


「働くんじゃなくて、食べて、遊んで、食べて」

「いろいろなところを見て」

「ただ楽しむためにだけ行く」

「だろ?」


「ダン、思い出したよ」

「いろいろな事がくっついてきたから、忘れてたけどさ、俺たち楽しみに行くんだよ」


みんなの顔が明るくなった。


「ところでさ、俺何のために呼ばれたの?」


ザッシュが言った。


「そうだった、ごめん」


ダンが謝る。


「メリダから輸出はしない。だから、帝国で商売を起こそうと思うんだ」


ザッシュが答える。


「お前、今楽しみのために行くって言ったよな?」

「それはそれ。そこでだな、子羊亭の時とおんなじで」

「資金を集めたいのか!けどさ、俺なんか働き始めたばかりで、あんまり出してやれないぜ」

「いいんだ、子羊みんなでやりたいんだ」

「俺は参加できたら嬉しいよ。できるだけの事はする」


ダンはニヤリと笑った。


「子羊亭の資金、預かったままだよな?」

「ああ、そういえば」

「配当も払ってないよな?」

「そんなんあったのか?」


「あったんです。ザッシュは50万出資したろ?それが200万になった」

「は?」

「子羊亭、儲かってんだよ。それを資金として出してもらっていいか」

「かまわないけど、ええ?」

「みんなの分も4倍に増えてる。それを合わせるとかなりになるよ」


みんな驚いた。しかしまあ、商売の事はダンが好きにやるといい。


「でさ、いいかな」

「なにが?」


私は聞き返した。


「名前。『子羊商会』」

「「「「「おお!」」」」」


「お金、失敗してゼロになるかもしれないけど、任せてくれ!」

「ゼロはヤダな」

「じゃあ、手伝えよ」

「遊びに行くんだよ」

「ちぇ」


笑い声が弾けた。

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