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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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159/307

アーシュ13歳7の月まで

そうして、ニルムでの仕事を終えセームに戻った。5の月はもう春の花は散っていたけれど、気の早い果実はもう青い実をつけつつあった。収穫を夢見つつ、また4日かけてセームについたのだった。


「アーシュ!ソフィーも!」


マルが駆け寄って来た。ウィルとセロもゆっくり近づいて来る。


「よう、今回は迷惑をかけたな」


ブランはセロに話しかけた。


「別に。オレ優等生だしな」

「おい、悪かったよ……」


セロはプイと横を向いた。逆にマルとウィルは元気いっぱいだ。あーあ、のびのびしてたんだろうな……


「もう今日は昼だから、休もうぜ」


ウィルが提案すると、そうするかという声が響く中、セロが


「オレはダンジョンに行く」


と言った。完全にすねている。ここで酒場に行かず、ダンジョン(職場)に行っちゃうところが、「優等生」なんだけどね。セロのそんなところが、イイと思う。さて、それでは。


私はセロの手を取った。少しすねて、それでも何?という目で見るセロに、にっこりと笑った。そして、


「じゃあ、私とセロは今日はおやすみ!海に行ってくる!」


と言ってセロの手を引いて走り出した。ビックリしてそのまま手を引かれてセロも走り出す。


「セロ、ずるい!」


と叫ぶマル。


「マル、後で出かけようね!」


と返す私。子羊のみんなが見えなくなると、私は走るのをやめ、ゆっくりと歩いた。そのまま2人で、何も言わず海辺まで歩いた。セームの海は、穏やかに輝いている。5の月の風は少し冷たく、巻き毛を揺らす。


「忙しかったね」

「うん」


メリルでも、オルドでも、自分と人を比べる事はなかった。でもセームでは?自分と同じ年代の冒険者が、甘えて過ごしている。そして頼ってくる。


15歳。学校に行きたくない時だってあった。でも、1日楽をしてのんびりしたら、その遅れを取り戻すために次の日からまたがんばらなければならない。休んだ分がテストに出たらどうする?部活動も1日休めば取り戻すのに3日かかるって言われたな。先を考えたら、休んでなんかいられなかった。


がんばって、がんばって、それでも。先生は、問題を起こす子の方を心配したっけ。親も、がんばらなくても手のかかる子のほうを優先するんだ。できるから、放っておかれる。できるから、手伝いをさせられる。できるから、できないと責められる。何より、できない自分が許せない。


できなければ、がんばらなければ愛されるのかな。でも甘え方なんかわからない。それが優等生の15歳だった。


手をつないで波を見る。空を見る。ふたりで、波の音を聞く。がんばっていること、知ってるよ。いつもそばで見てるよ。時々いない時もあるけど、戻ってくるよ。伝わりますように。


「そろそろ、リボンがダメになってきちゃった」

「新しいの、買いに行こうか」

「うん」

「アーシュがいない間に、新しい屋台ができたんだよ」

「そこも行く!」

「じゃあ、行こうか」


その日は夕ご飯の後まで帰らずにうろつき、ソフィーにたっぷり怒られた。


セームのギルドでは、朝食もランチも、レーションも順調に動いていた。若いA級冒険者の登場は、セームの若者をいっそうわかせた。最初こそニルムの二の舞を不安に思っていたニコとブランだったが、それは杞憂に終わった。ただの新しもの好き、にぎやか好きなのだ。


しかし、ソフィーはギルドの職員だ。仕事が終わったら本来の職場に帰らなければならない。セームでも一週間ほど過ごした後、私たちはオルドに向かった。いずれは行ってみると言っていたアンやハリーとも別れを惜しみつつ。しかし、ダンはセームに残るという。子羊亭3号店を、もっとしっかり定着させガガの買い入れを安定させる。出来ればニルムでもお茶の販売をしたい。だから、アロイスの言った8の月に、ニルムで待ち合わせよう。家庭教師のお迎えだ。再会を約束して、見送られた。


セームからオルドに向かう道のりは馬車で4日、特徴的なのは峠道を通ることだ。ゆっくりと馬車が山道を進む。峠で振り返ると、はるかにきらめく海が見え、セームの街が小さく見えるような気がした。


そしてオルドについて一週間、ソフィーは初めての受付業務を教わりながら、その重い雰囲気が、西領とあまりに違って驚きを隠せなかった。しかし、ダンジョンに潜って魔石を得る冒険者に違いはない。がんばって勉強し、6の月に入る頃、ソフィーとニコとブランは王都へと戻っていった。


そこから2ヶ月、全力で冒険者をやって過ごした。特に7の月は、最初から最後までメリルで過ごし、「涌き」に立ち向かった。


「いっぱしの冒険者のツラしやがって」


とギルド長につつかれつつ、


「農地を広げたい」


とダンジョンとは違うところでがんばっているザッシュに驚き、お休みにはみんなでガガを飲みながら、学院に急かされることもなく、「涌き」を乗り切ったのだった。


さあ、8の月だ。王都に寄って、マリアとソフィーの顔をみたら、家庭教師を迎えに行こう。

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