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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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153/307

アーシュ12歳3の月セームやっぱり話は聞かない

ウィルとマルがいつの間にか話を進めて、全員一対一の勝負になった。セロとあの男子とだけでいいんじゃない?ウィルとマルだけでも。え?しかも剣?相手が全員剣士だから?順番最後にしてあげるからって、それ何か意味あるの?


元気のない私を、あの私の手をつかんだ男子が、心配そうにながめている。あ、連れていかれた。


まずはウィルから。相手は、パーティのリーダーだそうで、若いが落ち着いた雰囲気の男子だ。何でメンバーに好き勝手させてるんだろう。


「始め!」


激しくウィルが打ち込んでいくのをかわすだけで精一杯のように見える。何合か打ち合ったが、あっけなく決まった。ぼうぜんとしている。格下に負けたのだから当然だろう。


次はマル。相手も女剣士だ。この人も落ち着いた強そうな人だ。しかしマルの相手ではなかった。戦いたいという意欲が違う。リーダーもこの人も巻きこまれてしぶしぶ戦っていたのだろう。


そしてセロと例の若者だ。めずらしくセロがイライラしている。騒ぐだけあって結構粘ったが、これも結局負けた。


「3人勝ったのだからもういいだろう」


セロが言ってくれた。


「まだよ!出てきなさい!」


何でなの?ダンジョンは魔物を倒して、魔石を稼ぐ場所。強くなるのはいいことだ。でも、それは人に頼ったり人と勝負したりすることじゃないのに。


「リボンなんか、冒険者なのに!」


関係ないよね?何でリボンは目の敵にされるんだろう。よし、決めた。勝つ。


「おいお前、あの子大丈夫か」

「勝負するって決めたのそっちだろ」

「あれはレイさんがそういったから」

「お前の仲間を心配しろよ」


勝負が始まった。マルに比べたら、それは私は劣るだろう。それでもたゆみなく毎朝訓練をしてきた。人に頼ってキャンキャン騒ぐだけの人とはちがうのだ。その子は確かに強かった。私たちの勝負は、他の3組の誰より長く続いた。けど、私が勝った。


「何でよ、E級なのに、リボンなんかつけて、守られてるだけのくせに!」


あー、イライラする。


「アーシュ、こっちだ」


ウィルが魔法師用の的を指さす。


「あれ、行こうぜ」

「うん」


「おい、まったく、みんな、こっちに寄ってください、ほら、あんたもいつまでもグズグズしてないで」

「グズグズなんかしてない……」


セロがみんなをよけてくれた。退屈しのぎに、結構なギャラリーがいたのだ。


「炎の壁!」

「風よ、吹き荒れろ!」


訓練所の半分を炎が暴れ回った。炎が収まった時、そこにはあっけにとられるセームの人たちがいた。


「オレたちはな、魔法師なんだよ、剣もできるがな」

「何で負けたかって?弱いからでしょ」


私はふん、と言い放った。皆何も言えない。


「へえ、退屈しのぎにセームに来てみれば、おもしろい事になってるね」

「げ、ジュスト!」


ジュストさんだ!ちょうどよかった!


「ジュストさん!この、この3人の剣士の人、すごく強いんです。でも魔法師と組んだことあまりなくて」

「へえ、どのくらい強いの」


レイさんが答える。


「A級だが」

「A級くらいいくらでもいるよ。僕がおもしろいと思うくらい強いの」

「そういうあんたはどうなのだ」


私はすかさず口をはさむ。


「私の師匠の1人です!」


訓練所がざわめいた。


「ほう。では実力を見せてもらおうか」

「そちらこそ」

「行こうか」

「行くか」


レイさんたちはジュストとダンジョンに行ってしまった。


「ジュストもたまには役に立つなあ」


セロが言った。ホントだ。オルドからセームは、東に4日。実は意外と近い。しかし、定期便はあっても、あまり行き来はないのだという。


若者のグループにセロは強く言った。


「強い人に師事するのもいいだろう。だが、それにオレたちを巻き込むな」


セロも言う時は言う。


「さあ、遅くなったけど少しはダンジョンに行こうか」

「「「うん」」」


「オレも!」

「え?」

「オレたちも連れてってくれよ!」

「はあ?」


それをきっかけに、冒険者に囲まれてしまった。


「なあ、どこから来たんだ?」

「すげー強いな」

「あの魔法なんだ?」

「一緒にダンジョン行こうぜ」

「剣の相手をしてくれよ」

「つき合ってください!」


「あー!」


セロがどなった。


「何なの、セーム!話を聞こうよ!」


結局、この日はダンジョンに潜れなかった。セームは人の距離が近い、のだろうか。その日から、借りた一軒家には壮年の3人組とジュストが入り浸り、若者が集まり、それはにぎやかに過ごすハメになった。そして女子の冒険者には、リボンがはやったのだった。


「よくも悪くも、セームって変化がなかったのよね」


すっかり和解したアンが言う。


「行くところって、暗いオルドはイヤだし、ニルムくらいしかないでしょ?何かめずらしいこととかあったら、すぐ飛びつくのよね」


そうなのかな。若者の中では強いと自負していた者たちも、自分より強い存在に浮き立ち、ギルドの朝の訓練は白熱し、ダンジョンでは、ひんぱんにパーティの組み換えが行われた。もちろん、固定パーティなのだが、レイさんだけでなくいろいろな人と組んで訓練することがはやったのだ。ジュストと3人はよほど気があったらしく、いつも一緒にダンジョンに潜っていた。


「ねえアーシュ、ガガを入れてよ」


そしてわがままも健在だ。


「ほう、ガガとは」


レイさん他2人もいる。はいはい。もちろんパウンドケーキもつけますよ。アンが言う。


「ちょっとアーシュ、それあたしにもちょうだい!」


はいはい。あの若者もいる。


「オレはハリー。そろそろ覚えて。あとつき合ってください」


それはダメ。ガッカリしてもダメ。ケーキはいらない?それはいる?はい、どうぞ。ウィルとマルもちゃっかり食べている。


そんな感じであっという間に一週間が過ぎ、ただセロと私だけが疲れはてていた。


そして、ギルドの方針が決まった。


「簡易キッチンは4月から使える。人手は用意した。数はとりあえず31からお願いする」

「あー、これは勘なんですけど」


セロがげっそりしながら言う。


「セーム、新しもの好きですよね。最初から50。そうでないとまた騒ぎが起こるような……」

「な、なるほど。ではそれで」


私が続ける。


「それから、獣脂の工場は立ち上げたほうがいいです。ダンジョンが3つあって、材料に事欠かないのに、他地区から持ってくるのは効率が悪いです」

「な、なるほど」

「東ギルドに工場長を派遣してもらいましょう」

「お願いする」


「では、明日仕入れで明後日からランチを」

「待て待て、いや、4月からでいいです」

「そうですか?」

「こちらにも心の準備が……」

「では、4月からで」


さあ、やっと依頼が始まる。

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