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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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150/307

アーシュ12歳3の月セームギルド長室にて

子羊かどうかは関係ないと思う。


「しかしメリルの子羊はもう動かないと聞いたが……」

「ギルドのソフィーは仲間の1人です。ニルムにたまたま用事があったので、来ました」

「それはありがたいが……」


まだとまどっている。しかし、問題はそこではない。このギルド長、まったく事前準備をしていないだろう。恐らく、特に必要を感じないが、はやりに乗ってランチの仕組みを頼みたかったというところか。


「早くて申し訳ありませんでした。そこでさっき言った設備の件ですが」

「いや、待ってくれ、まだ準備ができていない」

「では、働いてくれる人の募集は」

「それは受付かな……」

「では、業者に依頼する担当の人は」

「それは副ギルド長で……」


沈黙が落ちる。


「では、受付の方と副ギルド長も呼んでください」

「今か?」

「今です」

「わ、わかった」


先ほどの受付の人とともに、少しやせ気味の男性が入ってきた。


「何ですかギルド長、年度替わりで忙しいのに」


そしてこちらを見た。


「スティーヴン?」


ウィルは、ギルド長を見ていて動かない。私たちも反応しない。


「あ、いや、年が違う、すまなかった、ギルド長、この若者たちは……」

「中央ギルドからの派遣だ」

「はあ?ホントに来たんですか、だから準備だけでもしとけって言ったのに」

「すまん」


「よろしいでしょうか」

「あ、はい、何か」

「まず、準備の書類は見たでしょうか」

「はい」


読んでこの状態か。私は大きく息を吐いた。


「何の準備もできていない、と」

「……」


気まずい沈黙が落ちた。仕方ない。


「では、優先順位を決めましょう」

「優先順位」

「ランチ、レーション、朝食。この順番で簡単です」

「ランチと同列に、お茶も入ります」


ダンが口をはさむ。私は続ける。


「ランチはギルドの酒場を借りればできます。レーションは民間のパン屋に委託すればできます。朝食は簡易キッチンと食事場所を確保すればできます。簡易キッチンを用意すればランチとレーションはさらに楽になります。より効率を求めるなら、獣脂工場もあるとよいでしょう」


ギルド側の3人はあっけにとられている。私はだんだんイライラしてきた。落ち着いて、落ち着いて。


「また、規模を決めます。セームの規模は王都の東ギルドと同じ。東ギルドでは、朝食、ランチとも70食前後で動きます。セームはそこまでの需要はあるでしょうか」


ポカンとしている。


「また、働く人の確保ですが、ギルド周りの救済もかねて、孤児や未亡人を中心に雇うギルドが多いです。募集はどうなっているでしょうか」


受付の人を見る。


「あ、あなたくらいの若い子が希望してるわ」

「仕事を必要としている人でしょうか」

「いえ、比較的裕福な……」

「……そうですか」


「どうしますか」

「……え、と」


「では、私たちの宿泊場所は」

「……手配する」

「まだなら、安いところで構わないので、パーティで泊まれる、料理のできる一軒家を紹介してもらえますか」

「承知した」

「どのくらいで方針を決められそうですか」


ギルド長は副ギルド長を見た。


「1週間で」


「では、1週間後にまた来ます。これ、昇級の申請です」

「昇級?まて、1週間何をしている」

「何を?ダンジョンに入っていると思いますが」

「はあ?ダンジョン?」

「冒険者なので。だから昇級申請を」

「冒険者?」


私はセロを見た。


「1週間後に来ます。では、失礼します」


セロが代わりに言ってくれた。みんな一礼して部屋を出る。



ギルド長はぼうぜんとして言った。


「昇級?」

「中を見たらいいじゃないですか」

「ナッシュだ。女子2人は、ギルド長の推薦……スライムダンジョン涌きの討伐と、冒険者の救助による」

「はあ?」

「男子2人は、スライム階深層探査の実力」

「剣士ですよね?」


「優秀な冒険者ということか……見かけにだまされた。まさか冒険者とは……」

「あんたが勝手に誤解して怒らせたんでしょうが」

「やっぱり怒ってたか」

「無能と言われてる気がしましたよ」

「どうする?」

「どうするも何も、何をやってもらいますか」

「せっかくだから、全部」

「あんたは……」


副ギルド長があきれたように言う。


「じゃあ、簡易キッチンを急いで作り、人を雇いますか。今からなら、4の月には何とかなるでしょう」

「採用も、ちょっと未亡人に声をかけてみます。そんな目的で雇うとは知らなくて」


受付が言うと、ギルド長が考える。


「数は30くらいかな」

「私も食べたいから31で」

「おい!」


「それにしても」


副ギルド長が言う。


「似ていた。スティーヴンに」

「何年か前撤退した帝国の魔石商か。あれはいい商売だったんだがな」

「子どもが誘拐されたとかで当時大騒ぎだったんですよ。子ども?まさかな……」

「そんな事ばかり気にしてると、また無能扱いされるぞ、あの黒髪に」

「まずい、手配してきます。あんたもちゃんと働いてくださいよ、まったく」

「わかったよ……」

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