アーシュ12歳3の月セームギルド長室にて
子羊かどうかは関係ないと思う。
「しかしメリルの子羊はもう動かないと聞いたが……」
「ギルドのソフィーは仲間の1人です。ニルムにたまたま用事があったので、来ました」
「それはありがたいが……」
まだとまどっている。しかし、問題はそこではない。このギルド長、まったく事前準備をしていないだろう。恐らく、特に必要を感じないが、はやりに乗ってランチの仕組みを頼みたかったというところか。
「早くて申し訳ありませんでした。そこでさっき言った設備の件ですが」
「いや、待ってくれ、まだ準備ができていない」
「では、働いてくれる人の募集は」
「それは受付かな……」
「では、業者に依頼する担当の人は」
「それは副ギルド長で……」
沈黙が落ちる。
「では、受付の方と副ギルド長も呼んでください」
「今か?」
「今です」
「わ、わかった」
先ほどの受付の人とともに、少しやせ気味の男性が入ってきた。
「何ですかギルド長、年度替わりで忙しいのに」
そしてこちらを見た。
「スティーヴン?」
ウィルは、ギルド長を見ていて動かない。私たちも反応しない。
「あ、いや、年が違う、すまなかった、ギルド長、この若者たちは……」
「中央ギルドからの派遣だ」
「はあ?ホントに来たんですか、だから準備だけでもしとけって言ったのに」
「すまん」
「よろしいでしょうか」
「あ、はい、何か」
「まず、準備の書類は見たでしょうか」
「はい」
読んでこの状態か。私は大きく息を吐いた。
「何の準備もできていない、と」
「……」
気まずい沈黙が落ちた。仕方ない。
「では、優先順位を決めましょう」
「優先順位」
「ランチ、レーション、朝食。この順番で簡単です」
「ランチと同列に、お茶も入ります」
ダンが口をはさむ。私は続ける。
「ランチはギルドの酒場を借りればできます。レーションは民間のパン屋に委託すればできます。朝食は簡易キッチンと食事場所を確保すればできます。簡易キッチンを用意すればランチとレーションはさらに楽になります。より効率を求めるなら、獣脂工場もあるとよいでしょう」
ギルド側の3人はあっけにとられている。私はだんだんイライラしてきた。落ち着いて、落ち着いて。
「また、規模を決めます。セームの規模は王都の東ギルドと同じ。東ギルドでは、朝食、ランチとも70食前後で動きます。セームはそこまでの需要はあるでしょうか」
ポカンとしている。
「また、働く人の確保ですが、ギルド周りの救済もかねて、孤児や未亡人を中心に雇うギルドが多いです。募集はどうなっているでしょうか」
受付の人を見る。
「あ、あなたくらいの若い子が希望してるわ」
「仕事を必要としている人でしょうか」
「いえ、比較的裕福な……」
「……そうですか」
「どうしますか」
「……え、と」
「では、私たちの宿泊場所は」
「……手配する」
「まだなら、安いところで構わないので、パーティで泊まれる、料理のできる一軒家を紹介してもらえますか」
「承知した」
「どのくらいで方針を決められそうですか」
ギルド長は副ギルド長を見た。
「1週間で」
「では、1週間後にまた来ます。これ、昇級の申請です」
「昇級?まて、1週間何をしている」
「何を?ダンジョンに入っていると思いますが」
「はあ?ダンジョン?」
「冒険者なので。だから昇級申請を」
「冒険者?」
私はセロを見た。
「1週間後に来ます。では、失礼します」
セロが代わりに言ってくれた。みんな一礼して部屋を出る。
ギルド長はぼうぜんとして言った。
「昇級?」
「中を見たらいいじゃないですか」
「ナッシュだ。女子2人は、ギルド長の推薦……スライムダンジョン涌きの討伐と、冒険者の救助による」
「はあ?」
「男子2人は、スライム階深層探査の実力」
「剣士ですよね?」
「優秀な冒険者ということか……見かけにだまされた。まさか冒険者とは……」
「あんたが勝手に誤解して怒らせたんでしょうが」
「やっぱり怒ってたか」
「無能と言われてる気がしましたよ」
「どうする?」
「どうするも何も、何をやってもらいますか」
「せっかくだから、全部」
「あんたは……」
副ギルド長があきれたように言う。
「じゃあ、簡易キッチンを急いで作り、人を雇いますか。今からなら、4の月には何とかなるでしょう」
「採用も、ちょっと未亡人に声をかけてみます。そんな目的で雇うとは知らなくて」
受付が言うと、ギルド長が考える。
「数は30くらいかな」
「私も食べたいから31で」
「おい!」
「それにしても」
副ギルド長が言う。
「似ていた。スティーヴンに」
「何年か前撤退した帝国の魔石商か。あれはいい商売だったんだがな」
「子どもが誘拐されたとかで当時大騒ぎだったんですよ。子ども?まさかな……」
「そんな事ばかり気にしてると、また無能扱いされるぞ、あの黒髪に」
「まずい、手配してきます。あんたもちゃんと働いてくださいよ、まったく」
「わかったよ……」




