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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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148/307

アーシュ12歳3の月ソフィーの教え

今回は女子話です。

私とセロは、すぐには戻らず、1日ニルムに泊まった。ギルドまでの道のりで少し落ち込んでいた私を、ソフィーは仕立て屋さんに連れていった。


そこで、新しい服に合うエプロンをマルと2人分プレゼントしてくれた。そのエプロンを鏡で見ながら、ソフィーが言った。


「アーシュ、覚えてる?初めて王都に行った時」

「ん、リカルドさんとか、いろいろあったね」

「あの時、アーシュ初めて鏡をしっかり見たよね」

「かあちゃんにそっくりだった」

「美しいと、自覚しなさいって言われたでしょ」

「うつくしい、かな」


あの時から3年半たった。私の髪はさらに伸び、波打っている。鏡には、相変わらずかあちゃんにそっくりな私がいる。少し女らしくなったような気がする。


「ソフィーの方がきれい」

「アーシュ、きれいってひとつじゃないの。私もマリアも、それはきれいなほうよ。でもあなたの波打つ黒髪、琥珀のひとみ、黒いまつげが頬に影を落とすようす。少したれた大きな目、優しい表情、すべて合わさって、人が振り返るほどの美しさなの」

「そうかな」


「ええ、お客様、ニルムはたまに外国の人も来ますが、お客様ほどおきれいな方はめったに見ませんよ」


鏡には、困ったようにこちらを見る若い少女がいる。


「いろいろな方に声をかけられませんか?」

「かけられても、ダンジョンでパーティを組むとか、そのくらい」

「まあ、よほどしっかり守られておりますのねえ」


店員さんは感心したように言った。


「確かに、お店の外に、護衛がいらっしゃる」

「え?」


そこには、何気なく立つニコが、ブランが、セロがいた。


「今までは、子羊だけじゃなくて、ギルドの人たちも守ってくれてたの、気づいてた?各ギルド長がにらみをきかせてたわ。だから私もマリアも、アーシュもマルも守られてた。ギルドで忙しく働いてたから、外で声をかけられる暇もなかったわ」


ソフィーが言い聞かせるように言う。


「でもね、西領は違う。ギルドにとっては、私たちは、ただの派遣の人。メリルの秘蔵っ子じゃなくてね。そんなギルド長のもとでは、たとえ冒険者であっても、あなたはきれいな年頃の女の子。たくさん見られて、たくさん声をかけられるわ、きっと」

「それはいや。めんどうだもの」

「でも、そうなるの。今日どれだけの人に見られた?」

「たくさん」

「私もよ。アーシュ、うつむいてたわね」

「うん。髪と目が珍しいのかなって」

「ダメよ」

「ソフィー」

「マリア流に言うと、バカね、アーシュ」

「あ……」


「あなたは、自慢のかあちゃんの娘。そして、ニコの、ブランの、セロの守る価値のある娘。そして私とマリアの妹なのよ」

「価値のある?」

「教えたでしょ。胸を張って。目が合ったら微笑んで。そして、自分を大事にして」

「自分を大事に」

「誰かの恋人になるつもりなの?」

「それはないよ!」

「ならどんな視線も誘いも受けとめて、しっかり断る勇気を持つのよ」

「勇気」


ソフィーはいたずらな顔で微笑んだ。


「きれいなのは私たちだけじゃないのよ。ほら、外を見て?」


外では、ニコが、ブランが、セロが女の子に囲まれている。


「西領の子は積極的ねえ」

「そうなんですよ、恋をしてよい旦那を捕まえる。人生にこれ程大切な事はありますか?」


店員さんの鼻息が荒い。


「外の護衛さん、お三方とも素晴らしくハンサムですもの。一目で冒険者って分かります。有望株ですわ。特にあの銀髪の方」

「え?」

「素敵ですねえ」


セロ?確かにハンサムだけ、ど。あれ、胸が少し痛い。


「成長してないわけでもないのね」


ソフィーがそう言った。


「アーシュ、あなたのお母さんとお父さんは、今のアーシュより1年あとには結婚して、今の私の年にはアーシュがいたのね」


かあちゃん、とうちゃん。ホントになにやってるの……早すぎるよ……


「いつまでも子どもではいられないの。これからは時には守ってもらう覚悟も必要なの。覚悟のない人を守るのは難しいわ」

「守ってもらう覚悟……」

「私はニコやブランの守る価値のある娘でありたい。どんなに鈍感な相手でもね。下は向かない。隣で顔をあげて、胸をはるの。その先のことは、ゆっくり考えましょう?」

「うん」

「とりあえず、店を出たら、下を向かず、しっかり立って、セロに向き合いなさい。その後で、周りをゆっくり見てみるの」

「うん!」


今日の自信のない、もやもやした気持ちは消えていた。


「ありがとうございました!」


店員さんの明るい声に見送られる。さあ、胸を張って、顔をあげて、セロを見るの。


「アーシュ?」


まぶしそうに、優しく、セロが見ている。私はセロの守る価値のある人。にっこり微笑んで周りを見る。取り囲んでいた娘たちが名残惜しそうにセロを見ながら、引いていった。そしてたくさんの人がこちらを見ていたけど、そうか、物珍しいから見ていたんじゃなかったんだ。年頃の、若い娘。ただ、それだけ。それならば、その年頃らしく、楽しく行こう。


「アーシュ、よっぽど楽しかったんだね」

「うん、セロ、行こう!ソフィー!」


ソフィーに振り向く。ソフィーが、わかった?と首をかしげる。少しわかったよ。改めて大人への階段を登るのは、かえって難しい。でも、みんなに胸を張れる自分でありたい。

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