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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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145/307

アーシュ12歳12の月から

今日も1話です。ひとつ前に、とりあえずの子羊の紹介を出しました。ほかの人物についてはおいおい足していきます。

「オレも、探して会いに行けばよかったのかな」


ブランがぽつりと言った。


「お前の母ちゃんも男といなくなったのか」

「ニコもか。お互いに話すようなことじゃなかったしな。まだ生きてるか、もう顔も思い出せねえ」

「探されたくなかったから、捨てたんだろうさ。捨てられたくなかったなんて、思う余裕もなかったな。オレたちをオルドから連れだして、メリルに連れてってくれた冒険者って、どうなったかな」

「さあな、名前すら覚えてねえ。恩知らずだな、オレたち」

「悪ガキだったからな」


「まあ、これでオルドへの義理は果たした」

「そうだな、先を見ようぜ」


おもったより長くオルドにいることになったが、そろそろ移動の時だ。残り少ない日々、留学生にとっての最善とは何か。


「私は、できるだけ多くの町を見てみたい。帝国では、領地と帝都しか見たことがなかった。特に海の見える町に行きたい」


とアロイスが言うと、テオドールは、


「俺はナッシュだ。魔法師の町と、スライムを見たい」


と言った。エーベルはどこでもよいそうだ。ナッシュ、シース、そしてメルシェ、メリルの順で回ることにした。真冬の寒い中でも、仲間とする馬車の旅は楽しい。ナッシュでスライムに驚くテオドールに笑い、ナッシュ焼きを食べ、シースでは元気に育っている孤児や友だちに会い、メルシェでギルド長に歓迎され、1の月の終わりにメリルに着いた。テオドールがセロに言った。


「ここがお前たちの町……」

「辺境だけど、オレたちにとっては始まりの町なんだ」


緩やかな丘陵のふもとにメリルの町が広がる。その丘の上に子羊館がある。


「よう、お前ら、ずいぶん帰ってこなかったな」

「ギルド長!」


相変わらずのギルド長だ。


「帝国からの留学生です」


と紹介すると、


「まあ、なんだ、しっかりダンジョンに潜っとけ」


困ったように頭をかいてそう言った。その日、久しぶりの帰郷の歓迎の席で、領主さまとギルド長に、私たちの帝国留学の話と、二コとブランの帝国派遣の話をした。


「本当はお世話になったメリルにも、戻りたいという気持ちもあるんです」


と私が言うと、領主さまは、


「なんの、メリルのためにお前たちの背中を押したのではない。若者が伸びていくのが面白かっただけだ。それに、ザッシュと共に、王都で領主代理をしていた息子と嫁も戻ってくる。今のメリルになんの憂いもない」


と言った。


「既にお前たちは、メリルにどれだけの貢献をしたと思う。工場も雇用も増え、辺境といえどにぎやかこの上ない。結果若者も増え、赤子も次々産まれている。次々産まれても、母親の働くところもあり、子どもを教育する仕組みもある」


「ギルドだってなあ、荷物持ちがしっかり育つことで、若手の冒険者がどんどん増えてるんだぜ。オレの仕事が増えて困ってるくらいだ。お前らは、メリルの誇りだ。自信を持って帝国にでもどこにでも行ってこい!」


そこからはにぎやかな宴会となった。


1歩外に出ると、真冬の空気がきん、と張っている。丘の下を眺めれば、まだぽつりぽつりと灯りが灯っている。


「ニコ」

「マリア」


「戻らないの?」

「にぎやかな席には、合わないような気がして」


「バカね」

「バカかな」

「じゃあ、私もここにいる」

「マリアは、どんなに日の当たるところでも似合うのに」

「そこに1人で立っていろと?」

「え……」


見つめれば、そこには月あかりに照らされて、静かに立つマリア。オレの光。手を伸ばせば届きそうだ。そうすれば、オレも日の当たるところに……


「バカね」

「バカかな」

「とっくに日の当たるところにいるじゃない」


そうかな。いつも少し離れて見てた。楽しそうに笑うアーシュとマル。デキのいい弟たち、セロとウィル。はなやかなマリアとソフィー。ブランが笑い転げてる。何がそんなにおかしい?人ごとみたいに言うなって?ほら、見ろ、お前、笑ってるぞ。真ん中に立って。


ああ、オレ、もう、日の当たるところにいたんだな。ならばマリア、


「帝国から戻ってくるのは、2年後になるか、3年後になるか、正直わからない」

「ええ」

「チビたちの行く末を見定めたら、必ず戻ってくる」

「ええ」

「それまで、待っていてもらえますか」

「私の小さい妹たちを、よろしくお願いします」

「わかってる、オレの妹たちでもある」

「ニコ」

「マリア」

「待っています」


真冬の月あかりのもと、二つの影は、そっと寄り添った。ニコ15歳、マリア16歳、1の月の、終わりの約束である。


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― 新着の感想 ―
[一言] >1の月の、終わりの約束である。 死亡フラグ? 1の月の終わりの、約束である。 だったらいいな。
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