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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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139/307

アーシュ12歳8の月アーシュたちの進む先の先

「「「「ニコ、ブラン!」」」」

突然、帝国に行くというニコとブランに、私たちは大声を上げた。


「言ってなかったか?オレたちも最初から行くつもりだった。なあ、セロ、ウィル、マル、アーシュ、誰もちゃんと行ったことのない、荒れたダンジョンがいっぱいだぞ?」


ウィルとマルの顔が変わった。セロが目を輝かせているのもわかる。今にも帝国に行きそうだ。やれやれと眺めていると、ウィルがへえ、という目をしてこちらを見て、大使に聞いた。


「大使、スライムダンジョンはありますか」

「厄介なことに、帝都の側に1つ」


そう、そういう事ならしかたがない。魔法師として行くしかないではないか。ソワソワしだした私を見て、大使があきれた声を出した。


「面白い子たちだと思ってはいたが、これはまた、アーシュとマルも生粋の冒険者か」


そうなのかな?ちょっとワクワクしているだけだ。テオドールは、


「帝国では女子は冒険者にはならない」


と言った。大使は、


「アーシュとマルが冒険者なのがプラスになるかマイナスになるか見当もつかん」


と言う。行ってみればわかる。ダメなら帰ってくればいい。


「有望な冒険者を、帝国はいつでも歓迎する」

大使に許可をもらい、ニコとブランも帝国に行くことになった。


「それと、アロイス、テオドール、エーベル、君たちには別の話がある」

大使は言った。


「来年の3の月に、帝国に帰れ」

「なっ!2年は行って来いって!」


テオドールが大きな声を出した。


「早く帰れて嬉しくはないようだな」

「言葉も覚えて、友だちもたくさん出来て、ダンジョンにも潜って、毎日毎日楽しくて仕方ないんだ!帰りたくない!」


テオドールが言うと、アロイスも、


「学問もろくにできないようなところでは戦うしかなかろうと言っていたはずです。お望み通り、ダンジョンで戦っておりますが、何が不満なのでしょうか」


と言う。


「テオドールは、結婚式に弟御がいないことを不審に思った姉の嫁ぎ先がとりなしてくれたそうだ」

「余計なことを!」

「アロイスは、三男くらいは好きな道を選ばせてやれと祖父君がな」

「おじいさまか!」

「てっきり喜ぶと思っていたがな」

「なんとか、あと1年、とりなしてもらえませんか!」

「お前たち、既に高等部では1年の遅れになっている。離してみてそれも気になったらしい」

「勝手なことを……」


「テオドール様、帰りましょう」

「エーベル……お前だって帰りたくないだろう」

「帰りたくない!でも、僕たちはもう前の僕たちじゃないでしょう」

「前のオレたち……」

「誰がなんと言おうと、もう既に僕たちは冒険者です。高等学校に行けば、休みにダンジョンに行ったっていい。縁を切られたって、冒険者として生きていける。僕が町の暮らしを教えます。またメリダにきたっていいんだ」

「エーベル……」

「私も帰ろう。先に高等学校に行って、セロたちが来るのを待とう。大使は気軽にいうが、留学生は決して楽ではない。少しでも力をつけておこう。テオドール、私の家は武人の家だ。ハズレ者の私が修行といえばダンジョンも喜んで行かせてくれるだろう。共に高等学校でがんばろう」

「アロイス……そうだな。オレはいつも不満ばかりだ。出来ることを考えるよ」


「では、来年3の月の船に乗りなさい。学院は体裁のため。先生の許可がおりたら、残りの時間は好きに過ごすがいい」

「「「はい!」」」

「アーシュ君たちは、アロイスたちと同じ高等学校に通えるよう、推薦しておこう」



結局、ザッシュはメリルに、クリフは文官として官僚に、マリアは王都で教員に、ソフィーは中央ギルドに、それぞれ勤めることになった。ニコとブランは冒険者を続け、私たちと一緒に帝国へ。私たちとダンは再来年に帝国に留学だ。ダンは卒業したら、できるだけ子羊亭の支店を作る予定だそうだ。私にもナッシュ焼きのような名物を作る要請が出た。


9の月になったら、ソフィーとマリアは、メリルに帰る。ニコとブランは、メリルに送り届けて、10の月にオルドに集合だ。私たちは9の月の残りは王都で、10の月からはやはりオルドの予定だ。アロイスとテオドールとエーベルは、メリダの残りの期間、思い切って私たちに付き合うことになった。メリダを広く見て回る事、難しいダンジョンに潜ることは、きっと彼らのためになるだろう。


「ウィル君」

「はい」

「スティーブン・マッケニー」

「っ!」


「ふむ」

「何でしょうか、大使」

「私の知人でね、たまに顔を合わせることもある。魔石を中心に手広く商いをしている。帝国に行ったら、顔を合わせることもあるかもしれない。何か、そう、何か聞きたいことはないかな」

「その人は」


ウィルはマルと目を合わせた。


「奥さまは……」

「最初の奥さんとは死に別れ、再婚した方とはうまく行かず別れたそうだ」

「別れた……そうですか……」

「あとは何か、何かないかな」


ウィルは迷うことなく答えた。


「ありません」

「そうか……」

「オレたちは冒険者。魔石はギルドの管轄。関わる事はないでしょう。商売がうまくいくことを、遠くから祈っています」

「わかった、すまなかったな」


大使は思う。多分間違いない。マッケニーの失われた子どもたち。知らせるべきかどうか。


偶然は子どもたちを帝国に導いた。まだ時間はある。今は健やかな成長を、遠くから見守ろう。

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