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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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アーシュ12歳8の月アーシュたちの進む先

「まずは久しぶりだね、アーシュ君、マル君、2人とも大きくなった」

「1年ぶりです」


私は大使に答えた。テオドールやアロイス、エーベルは、私たちが大使と知り合いなので驚いているようだ。


「いつか帝国に行きたいと言っていたが、まだ変わらないかね」


セロと目が合う。頷きあった。ウィルとマルもだ。


「はい。変わりません」


「では、話そう。帝国に留学しないか」


え?留学?今年で学校は卒業なのに。するとアロイスが言った。


「帝国には高等学校がある。つまり15歳から、3年間の勉強だ。私たちも帰ったら行くことになる」


「ほう、アロイス、メリダ語を覚えたか」

「私だけではありません。テオドールもエーベルもです」


大使の言葉に、誇らしげにアロイスが答え、3人が胸を張る。


「今まで、ほとんどメリダと帝国には交流がなかった。しかし、今回帝国から留学生を押しつけた。こんな言い方ですまんなアロイス、テオドール、エーベル」

「いえ、家の力で無理強いした事はわかっています」

「しかし、それで交換留学の道が開けたのだ」

「交換留学?」

「帝国は、周辺国からの留学生を受け入れている。今回のことで、メリダからも行く権利ができたというわけだ。そうでなくても私費留学生という形で招こうと思っていたのだがな」


まだ少しわかりにくい。首をかしげていると、大使は、


「つまり、最低年齢の関係で、アーシュ君とマル君が14になった年の9の月から留学、人数は10人以内、交通費と学費、寮費は帝国持ち、年数は3年以内。代わりに帝国からも希望すればメリダに留学生を受け入れる」


と説明した。


「初年度は、私の知人権限でアーシュ君たち4人は決まっている」

「では、私も希望します」


ダンが声を上げた。


「帝国はいずれ商売の関係で行くつもりでした。仲間と共に留学できるのならそれに勝ることはない。成績も十分なはずです」

「ダンはザッシュと共に常に首席を争っておるほど優秀じゃ」


「子羊亭のオーナーでもあると。ふむ、おもしろい。許可する」


わっと私たちは喜びにわいた。


「ただのう、この子たちの後が続くかどうか」

「正直、辺境の国1つ、帝国にとっては大した意味はないのです。私とて大使とはいえ、それも半分趣味のようなものです。続けばよし、途絶えても問題もない」

「大使とはいえ領地の経営が主ですからな」

「しかり、このたびのことは、めぐり合わせがうまく行ったということ、子どもたちは国の期待など背負っていないのですから、帝国を楽しんでくればそれでよいのです」


大使はこう説明した。帝国の中等学校の教科書を来年の春送る。それを勉強しておくと高等学校が楽になると。そして再来年の3の月、帝国行きの船に乗る。4の月に帝国について、帝都へ向かい学校の準備をし、9の月に学校が始まると。


「それまで1年半は冒険者でいられるのか」

ウィルが言った。するとセロが、


「大使、私は冒険者として帝国に行くつもりでした。メリルでは学院生でも休みの日はダンジョンに行けた。帝国ではどうでしょうか」


と聞いた。


「ふむ、どのように聞いているかわからぬが、帝国はいつでもメリダの冒険者なら何人でも歓迎している。しかし要請しても、年に1組、物好きなパーティが来ればいいくらいだ。ただ、メリダで当たり前の冒険者は、帝国ではなるものが滅多にいない。力を志すものは騎士や兵士になり国に勤める。冒険者は金を求める食い詰め者と言う扱いなのだ」

「国に招かれたという立場でもですか」

「公式の場で差別されることはない。しかし市井ではそうはいかん。時には店に立ち入り禁止にされることもある」

「そんなことに……」

「ダンジョンの側は湧きが当たり前で、そもそも人が住まない地になっている。軍の駐屯地があるくらいだ」

「ギルドはどうなっていますか」

「ギルドは機能している。古くからの決まりで、どんなダンジョンにも1つはついているからな。まあ、軍が管轄していることが多いが。魔石の買い取りもおそらくメリダより高い。帝国では魔石は不足気味だからな」


「では、留学生として行きながら、ダンジョンに行くことは」

「結論から言うと、できる。ただし偏見は覚悟しておけ」


「大使、冒険者の件ですが」

ニコが聞いた。


「君も子羊組の……」

「ニコです。学院に行かず、冒険者をしています」

「ほう」

「帝国に行った冒険者は、行くダンジョンや行動は制限されますか」

「いや、帝国に入った時点で、帝国から一定のランク以上の宿屋と食事と、ダンジョンまでの交通手段が提供されるカードが支給される。それを持って、一定数の魔石を収めてくれたら後は自由だ。もちろん数の問題で、魔石の収入は冒険者のものだ。ただし、沿岸部から奥に行く冒険者はほとんどいない」

「なぜですか。メリダの冒険者は、ダンジョンがあればどこにでも行く」

「帝国語だよ。言葉が通じないのは致命的なんだ」

「通訳とか」

「そもそも少ない。そしてやりたがらない」

「帝国は本気で招く気があるのか?」

「小さいことなのだ、帝国にとっては。土地の広い帝国では、ダンジョン周辺を空けておくくらいなんということもないのだ」


「では、帝国語が話せ、移動を嫌わない冒険者なら、帝国をどう動くも自由と」

「しかり」


ニコは一瞬、ニヤリとすると、マリアを切なそうに見た。マリアは頷いた。ブランを見た。ブランは、当たり前だろ、という顔をした。


「では、オレたちは、アーシュたちに合わせて、冒険者として帝国に行く」


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