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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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136/307

アーシュ12歳7の月夏の日々

リカルドさんは私を見ると顔をほころばせ、高く抱えあげていった。


「アーシュ、大きくなったなあ、本当にきれいになって」


とまぶしげに言う。うん、大きくなったんだから、抱えないで?


「せっかく王都に来ているのに、会いに来ないとはさみしいではないか」

「忙しかったの」


私が答えると、リカルドさんはそっとおろしてくれた。


「大きくなったのに、最近抱えあげる人が多くて困る」


文句を言うと、リカルドさんは、少しひきつりながら、


「ほう。例えば、例えばだよ、誰がそんなことをしたのかな?」

と言った。


「ん、テオドールとか、セロとか」

「テオドール。ほう」


リカルドさんの視線が部屋をさまよい、見慣れぬ男子で固定された。リカルドさんは、一応東門隊長だ。まじめにしていると、かなり迫力がある。


「あああの、オレ、魔法、魔法を初めて見て」

「ほう、それで嬉しくて、つい、と」

「はは、はい」

「なるほど、で、セロ君」

「ええ」


セロは不敵な笑みを浮かべて、寄りかかっていた壁からリカルドさんに向き直った。その時、


「おい、アーシュ、東門の側に、おいしい串焼き屋ができたんだ。今日は誘いに来たんだけどな」

と、ディーエが話しかけてきた。


「行く!」

とマル。


「私も。テオドールは?」

「行きます!」


テオドールがていねいだ。


「セロは」

「すぐ行く」

「うん」


私たちは先に部屋を出た。


「へえ、ずいぶん生意気な顔をするようになったものだ」

「もともとの顔です」

「アーシュが何か言っていたようだが?」

「テオドールから取り返しただけですよ。ただちょっと下ろし忘れてただけで」

「下ろし忘れた?」

「ええ」

「フッ」

「フフッ」


「なあ、セロ君、あの子は普通の物差しじゃ測れないぞ」

「わかっています」

「ついていくだけじゃダメなんだ」

「わかってる。アーシュと肩を並べて歩くんだ」

「覚悟の上か」

「初めて会った時から、変わらない」


「ふん、まあいい。とりあえず抱えるの禁止な」

「はあ?何の権利があって!」

「おじのようなものだからな。家族権限だ」

「ならオレだって!」

「お兄ちゃんか?」

「う!それは……」

「ハハハ、精進したまえ」

「待て!リカルド!」

「リカルドさん、だ。串焼き食べに行くぞ」


セロたちが合流した。東門の串焼き屋さんは、ハーブの具合がちょっと違うらしい。


「前は1年に数えるほどしか食べなかったよね」

と私が言うと、


「裕福になったな」

とウィルが言った。


「ねえ、君たち親がいないってこないだ言ってた」

エーベルが話しかけてきた。彼はテオドールの従者という扱いなので、いつも1歩引いている。少し難しい話らしく、帝国語だ。


「そうだよ。それぞれ事情があると思うけど、私は8歳になる前にとうちゃんとかあちゃんが続けて亡くなっちゃった。もう4年になる」

「僕も親がいないんだ。スラムで死にかけてた時、テオドール様に拾われた。その時から、一生仕えるって決めたんだ」

「そんなに早くから決めたの?」

「5年くらい前」

「そか」

「親がいないのに、君たちは元気だ。生活にも困ってない」

「メリルはね、孤児が働いてお金を稼げる場所なの。馬やだったけど住むとこもあった。そこで少しずつ力を蓄えていったの。セロとウィルが冒険者になってからは、ホント困らなくなった」


ウィルが言う。

「アーシュが来た時からぜんぜん困らなくなったんだよ」

「野菜くずに、肉の切れ端、お豆にオートミール、それで生きていけた」


私が言うと、マルが答える。

「おいしくて、お腹いっぱい」


「君たちって誰がリーダーなの?」

エーベルが聞いてきた。私は、

「セロ?」

と答えると、

「違うよ、アーシュ。オレたちにはリーダーはいない。その時にやりたいことがある人がリーダーだろ。例えば、お菓子の時は?」

「「「アーシュ」」」

「ダンジョンに深く潜りたい時は」

「「「ウィル」」」

「シースで孤児に仕事をつけた時は」

「「「セロ」」」

「串焼き食べる時は」

「「「マル」」」

「それ、リーダーじゃないけどね」

エーベルがちゃちゃを入れた。


「オレたちは、肩を並べて歩くんだ。やりたいことがあれば、みんなで手伝う。だからみんな、ちゃんと1人で歩けるよう一生懸命がんばってる」

「誰かのためにじゃないの?」

「一緒に歩けるようにだ」

「一緒に……」

「後ろじゃなくてな」


エーベルは何かを考えているようだった。



それから8の月が来て、シルバーがニルムからやってきて、コツコツやったレポートを提出して、ダンジョンに潜って、買い食いして、子羊亭にも行って、時々は東西ギルドにもおじゃまして、冒険者になった初めての夏は、キラキラと輝き、みんなと一緒に過ごす、本当に最後の夏になったのだった。


そして8の月の終わり、子羊組は帝国留学生ともに、おじいちゃん先生に呼びだされた。

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