アーシュ12歳7の月帝国組ダンジョンへ
さて、待望の6の日になった。
一行は中央ギルドに来ていた。
「コナーさんの東ギルドか、グレアムさんの西ギルドが気楽なのに」
私が言うと、ニコはニヤリとして、
「中央でいいんだ」
という。
今日はザッシュとクリフも来ている。
「お前らが面倒見てるのに、無視するのも子どもっぽいしな」
ということだ。冒険者登録を済ませると、とりあえず、ザッシュ組にエーベル、ニコ組にアロイス、そしてセロ組にテオドールと別れた。
「初心者だからな!ていねいに行くぞ」
と、ダンジョンに入った。
「うわっ、これがダンジョンか」
「気をつけろ。1階から魔物が出るぞ。ほら、きた」
「っ、なんだこれは」
「ゴブリンだ。人型だが人ではない。行け!」
「うっ、行きます!」
ザシュ!一閃で終わりだ。ゴブリンは肉は食べないので魔石のみ取り出す。
「アーシュ、マル、うっ、それ」
「大事なこと。次からはテオドールもやる」
「わ、わかった」
そうしてゆっくりと3階まで潜った。
「そろそろ休むか。ここが安全地帯だ」
荷物持ちなら知っていることをひとつずつていねいに教えていく。ただし、ウィルはちょっとじれていた。
「なあ、少しでいいからさ」
「しかたないなあ、テオドール、後ろからしっかりついてこいよ。アーシュ、頼めるか」
とセロが言う。
「任せて」
「な、なんだ?」
「ついてきて?」
「う、うん」
ウィルが飛び出した。
「な、なんだあれ……」
「ダンジョン入ったら、戦いたいものでしょ」
「すげぇ」
「メリダ語、上手になったね」
「な、なんだよ」
低層階の魔物などウィルの敵ではない。ていねいにと言っておきながら、みんなで一気に8階まで潜って戻ってきた。ギルドでは、ザッシュやニコがあきれながら待っていた。
「なあ、セロ、ウィル、お前らこんなやつらだったか?元気だけど慎重派だった頃のことしか覚えてないんだが」
とクリフがいう。
「こんな奴らに育っちゃったんですよ。けっこうおもしろい」
とブランが答えている。
ニコがセロとウィルの頭をつかんで言い聞かせている。
「な?オレ言ったよな、初心者だから慎重にって。だいたいお前らは無茶してアーシュに迷惑をかけたのをもう忘れたのか?アーシュに迷惑がかかると、マリアが怒るだろ?」
「「ふぁい、すみませんでした」」
『カッコわる!』
テオドールが、ニヤニヤ言った。
『誰のために戦闘を見せてやったと思ってるんだ?帝国語の悪口だってお前のおかげですっかりわかるんだからな、おい』
『なんだよ、自分が行きたかっただけじゃん』
『ああ?』
ウィルとはしゃいでいる。
「さ、魔石を出してきて」
私が声をかけると、
「アロイスとエーベルは?」
「待ってた」
「じゃ、行こうか」
パーティは等分が基本だが、今回は3階までの1人で倒しさばいた分を持たせた。
「1万ギルですね」
「ありがとう」
「口座に入れますか?」
「口座?」
戸惑っているので、助けに入る。
「新人なので口座を作ってください。1万のうち、9000を入れて、1000は手元に」
「はい、どうぞ。あなた、帝国の子?」
「はい」
ちゃんとメリダ語で答えている。
「じゃあ、帝国のギルドでも使えるからね。通貨は共通だし」
「帝国でも、使える?」
「そう」
「自分のお金」
「そうよ、あなたの働いたお金よ」
「ありがとう!」
受付の人はニコリと笑った。
さ、お金の話だ。
「テオドール、このお金で、パン何個買える?」
「え?1個?」
「黒パンが10個買えるんだよ」
「10個……」
ピンときてない。
「つまりね、メリダで冒険者になるってことは、自分で生活できるってこと」
「親に頼らずに……」
「そう」
「オレたちの小さい頃は、それで五日分だったね」
「他に何も食べるものなくてな」
セロとウィルが笑いながら話している。
「何言ってるんだ?」
テオドールが戸惑う。アロイスもエーベルもだ。
「あ?オレたちは孤児だからな」
「こじ」
『孤児』
「あー、え?親はいない?」
「そう」
「みんな?」
「だいたい」
「さ、話を戻すよ?テオドールはお金に困っていない。だから稼いだお金は貯金、いい?」
「貯金」
『貯金』
「ああ、はい」
『必要以外下ろさない。ないものと思って?そして親に内緒で大きなことをしたい時に、まとめて使えばいいの。わかった?』
「わかった」
「その1000ギルは、好きなことに使っていいから。アロイスもエーベルも」
「「「「串焼き!」」」」
「あれ、4人?ああ、マルか」
そこから帝国の3人は
「1000ギル残して貯金」
が習慣になったらしい。
それからはお休みの日はダンジョンに潜った。個別に3人教えた後は、3人でパーティを組ませ、交代で後ろから見守るようにした。見守らない残りの2組は、学院で少ししか潜れない分、真剣にアタックした。
中央ギルドでは、この間の涌きで活躍していたことも知られていて、1目置かれてもいた。最初若僧と見ていても、「あの涌きの」ですぐさま態度を改めるのだった。それだけダンジョンの外の涌きは危険なのだ。帝国の坊ちゃんたちも、遊びではないと分かれば、ましてメリダ語を話せるとあっては、歓迎しないわけがなかった。1度力が認められれば、中央は案外居心地の良いところだった。
そのうち学院に、リカルドさんとディーエが訪ねてきた。




