アーシュ12歳7の月串焼きはみんな好き
セロとアロイスが対峙する。あれ、セロってこんなに大きかった?ウィルみたいに、ニヤリと笑う。
2人の対戦はすごかった。ウィルももちろん強い。しかしセロは生粋の剣士だ。誰もが認める素質持ちでもある。速さも、切れもまだウィルはかなわない。アロイスはそんなセロと、対等に戦っているように見えた。
「致命的な欠点」
マルがつぶやいた。
それはすぐにわかった。スタミナだ。いくら剣技が優れていても、体力がない。やがてセロに組み伏せられた。剣は好きなんだね。でも学問はもっと好き。どちらかじゃないとダメなのかな。
『2人ともまだまだだな』
セロが笑った。
「そろそろ時間よ」
「マリア、ソフィー」
テオドールとアロイスがポカンと口をあけた。
『 美しい……』
『ありがとう』
マリアとソフィーはにっこり笑う。あれ?私たちの時は、かわいいとしか言ってなくない?マル?
「どうでもいい。それより串焼き」
まあね。
「さあ、串焼き食べに行くか。あ、お前らも来るか?」
ウィルが聞く。
『なに?』
2人が尋ねかえす。
『一緒に町に買い食いに行くか?』
テオドールとアロイスは顔を見合わせ、
『『行く!』』
と答えた。エーベルは後ろで激しくうなずいている。
『不便だな、お前らメリダ語早く覚えろよ』
『だってな……』
『オレたちにできたことだぞ。甘えんな』
『わかった』
テオドールが素直にうなずき、エーべルが驚いている。アロイスはほっとしていた。アロイスは、ホントはメリダ語勉強してたんだよね。
やがてダンとニコ、ブランと合流し、中央広場の串焼きを食べに行った。ニコ、ブランには少し気後れしていておかしかった。
『これ、何の肉?』
『なんだろ、たぶんオーク?』
『魔物?高級品だ!』
『他に何の肉があるの?』
『牛とか豚とか?』
そして一緒に帰り、ごはんを食べて、休んだ。
「マル、珍しく声をかけてたね」
「ん、ウィルが気にかけてたから、何かしてあげたかった」
「そうか、マルのおかげで少しなかよくなれたね」
「そうだといい。あと、今度はマルも対戦する」
「マル負けちゃうんじゃない?」
「アロイスにはスタミナ勝負に出る。テオドールには?フッ」
「負ける気がしない?」
「ん。アーシュ、アーシュもやる」
「ええ?負けちゃうけど、確かにあの剣筋とは闘ってみたいな」
その願いは案外すぐにかなうことになる。
次の週から、私たちは3人と一緒のクラスに出た。全部は出る必要はないので、基本セロとウィルが、時折私とマルが付き合った。マリアとソフィーには気後れするようだったからだ。
私たちの事はみんな覚えていてくれて、すぐに和気あいあいとすごせるようになった。午後は剣の訓練を餌に、メリダ語の勉強だ。メリダに住んで、帝国語も話せる友だちに囲まれて、マリアに教育プログラムを組まれて、言葉を覚えないわけがない。もともと勉強が好きでこっそりがんばっていたアロイスはすぐに、そしてテオドールもエーベルもすぐに会話には困らなくなった。
7の月の2週目、体育の時、先生に
「アーシュ、マル、テオドールとアロイス、エーべルと練習試合をしてくれないか」
と頼まれた。セロとウィルじゃなくて?
「魔法師として戦って欲しいんだ。ウィルから、アーシュの方が魔法の扱いはうまいと聞いてね」
「やります」
マルが即答してしまった。
「あいつらとやるチャンス」
そうなのだ。放課後の練習はエーべルも加わり、セロとウィルが熱中して対戦になかなか参加させてもらえていないのだった。
「女の子だし、2対3じゃな、手加減してやる」
テオドールが言い、アロイスがうなずいている。それを周りが気の毒そうな目で見ている。先生が、
「あー、アーシュとマルは、現役の冒険者だ。むしろ手加減してもらえ」
というと、顔色がサッと変わった。
「お前ら、冒険者なのか?」
テオドールが言い、アロイスとエーべルは信じられないという顔をしている。マルは剣を軽く持ち、ヒュンヒュンと振って見せた。私は、
「炎、3、小、足元、行け!」
ボン!と出して見せた。
「ま、魔法、ホントにあったんだ……」
2人で軽く背を合わせ、構える。いい加減、戦いたかったのだ。
「よし、本気で行くぞ!」
「「おう!」」
それでもムリですよ。魔法師と組んだ剣士を甘く見るな。
「足元、つぶて、はねろ」
「うわっ」
エーべルの体勢が崩れたところでマルが襲いかかる。なんとか剣で受けるも、体勢が崩れる。そこに
「風、小、膝、行け!」
たちまち倒れる。マルはそのまま横殴りにアロイスだ。さすがに軽く受けるが、助けに入ろうとするテオドールは私の風の壁にはばまれて進めない。一旦引いたテオドールとアロイスは、私を標的に変えて走ってきた。はいはい、
「すなあらし!」
「くっ、どこだ?」
後ろですよ。マルと2人でとん、と倒す。勝利だ。
「容赦ねえな……」
周りからつぶやきが聞こえる。
それが冒険者です。
仰向けに倒れていたテオドールは、起き上がるといきなり私を抱えあげて回りだした。
「魔法、ホントにあったんだな!メリダ、やっぱり剣と魔法の国だった!」
目が回る目が回る。セロが私を取り上げて、ニヤリと笑いかけた。
「もういいだろ。テオドール、アロイス、エーベル、覚悟ができたら、ダンジョンに連れてってやる。少し落ち着いて考えろ」
「「「!」」」
「ダンジョン……いいのか……冒険者」
テオドールがつぶやく。
「帝国人でも登録もできるぞ。あとは覚悟を決めろ」
「僕、行きます」
「エーべル?」
「私も行く」
「アロイス?お前騎士には」
「なるつもりはない。でも、メリダでしかできないことをしたいんだ」
よく気がついた!
「テオドール、お前の夢だろ」
「でも親父が……」
「親父はメリダにはいない」
「……いいのか、俺」
やがてテオドールは顔を上げた。
「セロ、ウィル、アーシュ、マル、俺も行きます!」
「よし、今週末からだ!」
「「「うん!」」」
「あの」
私は言った。
「セロ、下ろして?」
「あ」
「なんと、まだ2週目ですよ。友だちができたら、こんなに素直な子たちだったとは」
「なんとも楽しそうなことじゃ。少しでもメリダで学んでいってほしいのう。子羊たちに来てもらって本当によかった。お?」
アーシュとマルが気がついて手を振っている。手を振り返して思う。それよりも一番は、こうして慕ってくれる嬉しさかの、と。




