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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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133/307

アーシュ12歳6の月学院にて

中央門隊長は馬車に乗り込む冒険者たちを少しぼうぜんとして見送った。ギルド長会議で聞く子羊は、ギルドに朝食、ランチの仕組みをもたらした若者たちだ。子羊亭を作ったものでもある。子羊亭はいい。連れていくと妻の機嫌がよくなるのもいい。


しかし、それがあんな若い者たちだったとは……というか、子どももいたぞ?驚いて思わず正統派と言ってしまったが、あれだけの判断力と力のある冒険者もそうはいない。彼らがいなかったら、後続の馬車も被害を受けていた可能性もある。


「あの若いのの指示に思わず従っちゃいましたよ」


偵察に出した騎士が苦笑いする。見事な指示だったと。また、魔法師の力がものすごく、しかも独自に動いて剣士を妨げることのない見事なフォローだったと言う。


「ダンジョンではなく、町や草原で戦える広い視野を持つ。騎士団でもほしいですね」

「騎士団では収まらんだろう。しかし驚いた。まあ、驚くのはこのくらいにして、後片付けだ」



それからニコとブランはダンの家に、私たちは学院に向かった。草原での戦闘は1時間もなく、疲れはそれほど残っていなかった。ダンジョンに潜った方がよほど疲れる。


「よう来てくれた。冒険者になったばかりで、すまんかったのう」


おじいちゃん先生が大喜びだ。


「留学生が大変と聞きましたが」


セロが聞くと、


「悪い子たちではない。しかしのう、型にはまらないタイプで、家の方針からはみ出したらしくての」

「家の方針?」

「1人は騎士の家系じゃ。学者肌で研究を志していたが、家風に合わんと。野蛮なメリダなら戦わざるをえんからとな」

「野蛮って……」


私たちは苦笑した。


「かの国ではメリダは剣と魔法の国じゃからな。もう1人は貴族なのに冒険者を目指したとかでな、やはり家風に合わんと。無断で冒険者登録をしようとしてメリダ送りじゃ。3人目はその従者じゃな」

「でもメリダで冒険者登録できちゃいますよ」

「もうそれはいいそうじゃ。姉の結婚が近いらしくて、家からしばらく離れていてほしいとな」

「ふーん」

「事情は別によいのじゃ。せっかくだから、楽しく学んで帰ってほしいと思ってな」

「オレたちは普通に過ごすだけですよ」

「それで構わん。もう単位は取れているし、好きな授業に出でくれてよい。ところで課題だが……アーシュどうした」

「ま、まだレポートが……」

「8月終わりまでに出せばよい」

「よかった」


「じゃあ、私は図書館よっていく」

「マルも付き合う」

「オレは剣を振ってくる」

「オレも剣」

「私とマリアは部屋に戻ってる」


ということで、図書館に向かう。6の日の図書館は、お休みなのでほとんど人気がなかった。机に1人だけ、男の子が向かっていた。私は帝国文学の棚に向かう。先生が貸してくれた恋愛ものは面白かったけどレポートに向かないし、帝国騎士物語とか、そんなのにしようかな?うーん。マルはさっさと経済学の本を読んでいる。帝国の物語に見られるメリダの幻想とか、まとめてみようかな。


『女の子なら、この恋愛ものはどう?』


突然帝国語で話し掛けられた。あ、テーブルのところにいた子だ。


『それは読んだの。でも、宿題のレポートには向かない気がして』


とっさに帝国語で返すと、その男の子は片方の眉を上げた。


『では、どういうものを探してるの?』

『帝国文学で、メリダについて触れているもの。剣と魔法の国ってイメージ、どこから来たのかとか。だってメリダって、普通の国だよ?』

『確かにね。野蛮ではなかったよ』

『野蛮って……』

私はやはり苦笑した。


「アーシュ」

「マル?」

「だれ?」


「あ、あなた何ていうの?何年生?私はアーシュ、3年生」

「私は、アロイス、帝国、からの、留学生です」

「それで帝国語を!」

「そう」


アロイスは片言のメリダ語で答えた。そしてまた帝国語で話してきた。


『むしろ君たちは、なんで帝国語を話せるし、読めるの?』

『勉強したから?』

『学院のみんなはそんなにしゃべれないよ』

『クラブの子はけっこう話すけどなあ』

『クラブ?あのお遊びか!』

『実際帝国の人なんて来ないもん。遊びで何が悪いの?楽しいよ』


『ねえ、私はマル。アロイス、この本の説明をして。経済わかりにくい』

『いいよ、どこだい?あ、アーシュ、帝国騎士物語には割とメリダ出てくるよ』

『ありがと!』


私は帝国騎士物語を持って、テーブルについた。隣ではマルとアロイスが経済について静かに話している。


バターン!大きな音がしてドアが開いた。


『アロイス、剣の練習しようぜ!』


びっくりして私とマルがそちらを見ると、ヒューと口笛を吹かれた。


『めったにないかわいい子たちだな。アロイス、知り合いか?』

『さっき知り合った。3年だそうだ。剣の練習は行かない。本を読んでるんだ』

『なあ、どうせ後で剣を振るだろ、相手してくれよ』


『あなた、名前は何ていうの』

突然マルが話しかけた。

『テオドール、そしてこっちはエーベル。お前、帝国語話せんのか』

『私はマル。テオドール、剣は強いの?』

『強いよ、なあマル、なんで帝国語話せるんだ?』

『勉強したから。今、お兄ちゃんが外で剣の練習してる』

『お前のにいちゃんか。けど、相手してくれんのか』

『する。強ければ』


マルが挑戦的に言った。珍しいことだ。マルが自分から関わりに行くことも珍しいことだった。


『アロイス、今日はここまで。ありがとう。アーシュ、行こう』

『待って、私も行くよ』


アロイスがあわてて言った。なんとなく状況に流されてきたけど、私たち、さっそく留学生と関わってない?あれ?


「じゃ、行こうか」


5人で話しながらウィルの元に向かった。テオドールが話しかけてきた。


『お前、3年にしては小さいな』

『お前じゃなくてアーシュ、失礼な。標準です』

『アーシュ』

『なに、テオドール』

『3年でお兄ちゃんがいるっておかしくないか?』

『入学が同じだもん』

『ありなのか?』

『ありなんだって』

正確には私のお兄ちゃんではないけどね。


『ほら、いた!』


マルが声をかけた。


「お兄ちゃん!」

「マル?」

「剣の相手をしてほしいんだって!」

「へえ、いいぜ。オレはウィル」

「テオドール」

「オレはセロ。ウィルから行くか?」

「ああ」


話はすぐ決まった。テオドールはワクワクした顔でウィルと対峙している。どちらからともなく、走り始め、剣を合わせる。カーンカーンカンと、数合打ち合うと、剣を合わせたまま、2人がニヤリと笑った。そこからは激しかった。ウィルはヒューゴにきたえられてきたばかりなのに、時にはテオドールに押されているくらいだ。私の横で、アロイスが手を握る。結局、地力に勝るウィルが勝った。


テオドールは仰向けに倒れ込んで、息をととのえている。


『お前、ウィル、強いな』

『テオドールも意外と強いな。次、セロとやるか?』

『強いのか?』

『オレよりはな』


『私にやらせてくれ』

『お前?』

『アロイスだ』


テオドールが答える。

『そいつ、オレより強いぜ』


セロが剣を大きく振りながら答える。

『やるか』

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