アーシュ12歳6の月王都までの道
それから慌ただしく準備を始めた。
「必ずオルドに来い。絶対にお前たちのためになる」
「メリルにも戻りたいから、何月になるかわからないけど、必ず行きます」
ヒューゴさんに、セロが答えた。オルドは山に囲まれているそうだ。意外だが、羊の産地でもある。もちろん毛をとるためだ。子羊組としてはいつか行ってみたい場所ではある。そして6の月の終わり、ナッシュを出発した。
王都は、ナッシュから西寄りに北に3日上がったところにある。初夏のさわやかな風の中、帝国語を勉強しようとして、はたと気づいた。
「ねえみんな、去年の宿題やってる?」
「オレとマルは数学だから、結構な量はあったけどもう解き終わってるよ」
とウィルが言う。
「セ、セロは?」
「オレは地理と経済学だけど、去年からずっとあっちこっち行ってるだろ?だからそれを7の月の間にまとめれば終わり」
「私も経済学だけど、シースの町に行った時のことをまとめてみた」
「ソフィーも?マリア……」
「私は教育学でしょ、去年の秋からメリルでやってた仕組みをまとめたの」
「え、じゃ、まだまとめてないの私だけ?」
私が驚いて聞くと、
「むしろなんでやってない?本なんかそうそうに読み終わっていただろ?」
とセロに聞き返された。
「え、えーと」
「アーシュはね、楽しく読んでおしまいにしたのよね」
「へへへ。よし、帝国語はいいや。レポートの準備をする。学院でもしばらく図書館かな」
私は決意した。
「え、でも留学生のために行くんじゃないの?」
とウィルが聞くが、
「適当なくらいでいいよ、自分の面倒が先だよ」
「「アーシュ……」」
という具合で結局それぞれに勉強したりおしゃべりしたりしたのだった。そして3日後、初めての王都の中央門だ。いや、待て。なんだあの土煙は!その端を巻くようにして、騎馬が二騎走ってくる。
「中央で涌きだ!戦えないやつは逃げろ!」
なんで!まだ7月に入ろうとしているところだ。王都の涌きは8月のはずではないのか?
「そういうこともあるんだろうさ」
ニコが剣を担ぎながら言う。
「さあ、冒険者組は降りろ!それ以外は来た道を安全なところまで戻れ!」
「はい!」
全員で返事をする。
「バカな、若者と子どもだけではないか!君たちも馬車で戻れ!」
騎士が言う。
「あいにくと全員冒険者なんでね、さあ、行くぞ、剣士組は中央から突っ込む。魔法師組は両端から数を減らせ。よし、ウィル、アーシュ、まず中央に1発でかいのを打ち込め」
「アーシュ!あれ行くぞ!」
「わかった!」
「さあ、炎の壁、最大!」
「風よ、範囲大、渦巻け!」
炎の竜巻が縦横無尽に走り回る。
「なんだ、これは……」
「よし、だいぶ数が減った。剣士組、行くぞ!騎士のおっさんもだ!ぼけてないで行くぞ!」
「あ、ああ!」
私とウィルは遠くからだ。
「ウィル、端から確実に!」
「スピードのあるウルフ型から潰せ!」
最近スライムしか見ていなかったので、久しぶりに獣型、人型の魔物を見る。メリルではほとんど見ないゴブリンもいる。
「アーシュ、短期決戦だ。魔力を惜しまず、確実に倒そう!」
「わかった、炎、中、左、3、ウルフに行け!ウィル、中央に魔物が集まってる」
「人も集まってるな、足元つぶてで煙幕だ!今いる魔物以外少しブロックする!」
「よし、範囲左半分、足元つぶて、はねろ!」
「右半分、いけ!」
「助かった!魔物も大分薄くなってきたぞ!もう少しだ!」
騎士が叫ぶ。魔物の後ろ側から剣の音が聞こえ始めた。
「ウィル、味方注意!」
「わかった!魔物個別撃破に入る!」
「両端注意!はぐれたやつがはみ出そう!」
「チッ、炎、中、長距離、行け!」
「こっちもだ、行け!」
そして最後の2体を、こちらでニコ、向こうで大きな騎士が1体ずつ倒して終わった。
魔物をまたいで20人ほどの騎士が歩いてくる。大柄な騎士が、こちらの騎士に問いかけた。
「はぐれた魔物はいないか」
「こちらには魔法師がおり、はぐれもすべてせん滅しました」
「よし。冒険者の諸君、助かった。私は中央門隊長だ。早い涌きとはいえ、こちらの準備不足で申し訳なかった」
「お役にたててなによりです」
ニコが答えた。
「それにしても、その若さで、しかも4人と騎士で半数以上倒したのか……」
「4人?オレたちは6人です。騎士と合わせて8人、うち魔法師2人ですから」
「すまなかった、お嬢さんたちもか」
私とマルはにっこり笑った。
「成り立てですから。解体は必要ですか?」
「いや、専門の者がいる。君たちは早く王都に入り休むがいい。礼はのちほどまた。王都に滞在するのだな?」
騎士に問われ、ニコが、
「はい、オレたちはダンジョンに、残りは学院に。とりあえず、連絡は子羊亭のダンにお願いします」
と答えると、
「子羊亭?君たちがメリルの子羊か!正統派の冒険者ではないか」
「いろいろとやってますからね、あ、馬車が戻ってきた」
馬車が止まり、マリアとソフィーが走ってきた。
「ニコ!」
「マリア?」
「心配したんだから!戦ってるとこ見たの初めてで……」
「あ、マリア、大丈夫だから、う」
ニコにしがみつくマリアを私たちは見ていない、倒れた魔物を見ている者もいれば、騎士の剣を眺めているものもいる。ニコはワタワタしていた手をマリアの肩にそっと置いた。見ていないだろうって?なんとなくだ。
「マリア、さあ、王都に入ろう」
「わかったわ」
「では隊長、オレたちはこれで失礼します」
「また連絡する。本当に助かった」
やっと王都にたどりついた。




