アーシュ12歳6の月緊急指令
「どうしたの?もう少しでメリルに帰るとこだったのに」
私が尋ねると、マリアは、
「ギルド長が直接話した方が早いだろうって。まずこれを読んでみて」
と言って手紙を手渡した。宛先はマリアで、ほか学外生の諸君とある。おじいちゃん先生からだ!私たち4人は頭を寄せあって手紙を読んだ。
「元気に過ごしてるかって。元気だよ!さて?あー、留学生の件だよ」
「アーシュ、次の紙は?」
「はい、3月に突然3人の留学生が送られてきたと、滅多にないことなので、対応に右往左往、これ、子どもは知らない方がいいことなんじゃないかな」
「続き続き」
「外国人へのメリダ語の教育理論が古すぎて使えない、本人たちに覚える気がない、したがって勉強などまったくやらず授業は出てるだけ、出てるだけいいんじゃない?」
「オレたちになんの関係がある?」
4人で首をひねる。
「で、と。帝国語クラブではクラブ員をバカにして相手にせず、夜は寮を抜け出そうとする」
「ますます関係なくないか」
「剣の腕はあり、かなうものはザッシュとクリフだけ」
「さすがザッシュ!じゃあザッシュたちが面倒を見たら?」
「甘ったれの面倒などみたくないと断られる」
「あー、そりゃそうだね」
「メリダに来ればダンジョンに行けると聞いてきたらしいって」
「そこか!」
「しかし学院では誰もダンジョンに引率できず……遠足か!」
「えんそく?」
「ごめん、なんでもないの。えーと、涌きで大変なのはわかるが、至急来て同級生として相手をしてやってほしいって」
「「「……関係ないよね?」」」
「うん」
私たちはマリアを見た。セロがマリアに言う。
「要は、大人も学院生も面倒見きれないから、冒険者でもあるオレたちにお願いってことだろ。おかしくないか?」
「おかしいとは思うの。私たち学外生だし、メリルの涌きの季節は外したくないしね」
と、マリアは答えた。
「でもね、領主さまとギルド長が行ってあげなさいって言うの」
「なんで?メリルにはまったくメリットないよな」
「まず、おじいちゃん先生はギルド長の恩師でもある。グレアムさん共々、お世話になったそうよ。私たちとは別に、ギルド長もお手紙もらっててね」
「おじいちゃん先生から?」
「そう。見せてはくれなかったけど、うんと正直に言うとね」
マリアはちょっとためらった。
「帝国側ではね、彼らが、ダンジョンで死んで、帰ってこなくても構わないって……」
「親がか!実の親がそう言ってるのか!」
ウィルが大声をあげた。
「お兄ちゃん、落ち着いて、私たち、なんとも思わずにやってきたはず」
「だからこそ今やっと、親に愛されていたってわかるんだ。まして生きて、そばにいるんだろう……遠くにやったり、死んでもいいなんてそんなこと……」
「ウィル、落ち着け。それでもそいつらは、裕福な暮らしをして、自分で真面目な道も選べたんだ。親を怒らせる何かをしたのは間違いないんだよ。今だって考えようによっては、めったにない経験をお金をだして積ませてもらってるんだぞ。哀れむな」
「セロ……」
マリアが続ける。
「何があっても、責任はギルド長と領主と、おじいちゃん先生がとるからって。まじめにさせてくれとか、そんなことはまったく言わないから、帝国語が話せるメリルのみんなで、楽しい学院生活と、気が向いたらダンジョン生活を、送らせてやってくれって言ってた。行ってみて彼らが気にいらなかったら、別にいいから普通に最後の学院生活を楽しんで来いって」
「でも涌きは?」
ウィルがたずねる。
「ひよっこの心配することじゃないってさ」
と、ニコが答えた。
「正直、親があって金もあるのに甘ったれてるやつの相手なんかしたくねえ。けど、オレはダンジョンで人を死なせたくないんだ。ダンジョンに行く時は、オレも護衛につくつもりだ」
「オレはけっこうおもしろい状況だと思ってる」
珍しくブランも答えた。
「なあ、甘ったれの3人くらい、生き死にをかけたダンジョン生活からしたら、どってことないだろ。いつもと違うこと、楽しもうぜ」
「じゃあ、帝国語のおさらいだね!最近サボり気味だったから、がんばらなきゃ」
「王都に行ったら、串焼きと肉巻きを食べる」
「アーシュ、マル、行くのか」
「「行こうよ」」
「「行こう!」」
こうして、学院行きが決まった。
「あ、あとね」
ソフィーが言った。
「ナッシュなんぞで名物作るくらいなら、メリルでも作れって」
はい。ごもっともです。




