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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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130/307

アーシュ12歳5の月ナッシュ子羊亭始めました

子羊亭の開店時間は午後3時から6時。ダンジョンから帰ってくる冒険者に合わせてある。今午後2時、開店まで1時間だ。あれ?


「セロ、見て、女の子たちがこっち見てる」

「珍しいな、ギルドなのに」

「もしかして、入りたいのかな。マル、もう開店できるかな?」

「ん、準備はいい」

「セロ、どうしたいのか声をかけてきてくれる?値段結構するし、入りたいわけじゃないかもしれないし」

「なんでオレ?」

「ウィルと一緒でもいいよ」

「ウィル、行こうぜ!」

「おー、いいぜ」


2人が外に出て女の子たちに近づくと、女の子たちが色めきたった。さりげなく2人を囲んでいる。セロが頭の後ろに手をやりながら、困った顔で話しかけている。ウィルも別の子に声をかけている。ウィルは平常通りだ。すぐにゾロゾロとやってきた。


「「いらっしゃい」」


「あの、ここ王都で有名な子羊亭なのよね」

「はい、臨時出張所です」

「よかった!ガガって1度飲んでみたかったの!」

「苦いですが、大丈夫ですか?」

「挑戦してみる」

「「私も!」」


ワクワクしている女の子たちに見守られながら、手早くガガを入れていく。マルがお皿にケーキを用意する。ガガをつぎわけ、セロとウィルに運んでもらう。なかなか手慣れたものだ。女の子たちにはポーっとしてガガに目が行かないものさえいた。私はマルと目を合わせ、2人でちょっとだけクスっと笑った。


「最初の一口は何も入れないで、次に砂糖とコミルを入れてみて」


セロが教えている。


「苦っ」

「ほら、砂糖とコミルを入れてごらん」

「甘ーい、おいしい!」


「さ、そしてケーキだよ」


ウィルが言う。みんなおそるおそるケーキに手をつける。


「「「おいしーい!」」」


「「良かった」」


セロとウィルが声をそろえると、また女の子たちの動きが一瞬止まった。まずい、腹筋が……今マルの顔を見てはいけない!


「おみやげにも売ってるけど、高いから無理しないで」


さらにセロが言っている。女の子たちは和やかに話しながら、ギルド長たちが来るまで楽しんでいた。


「おや、3時からって言っていたじゃないか」

「ルイさん、少し早めに開けたんです」

「確かにかわいい子たちがたくさんいるね」

「あ、私たちもう帰るところです」


女の子たちはあわてて立ち上がる。


「ねえ、明日母さん連れてきたいんだけど、いい?」


私に声をかけてきた。


「もちろんです。でも遅いと冒険者がいっぱいだから、早めがいいですよ」

「わかったわ。とってもおいしかった!ありがとう」


「明日も2時からかな」

「かまわない?セロ、ウィル」

「いいさ、楽しそうだったもの」


ギルド長と、ルイさん、ヒューゴさんが

「それでは、私たちにも出してくれないか」

と急かすので、

「はい、少しお待ちくださいね」

と急いで準備を始める。


「アーシュ君に入れてもらうと、入れてもらうところからごちそうなんだよ」

「ギルド長、お世辞を言ってもケーキしか出ませんよ」

「お世辞じゃないさ。ガガを入れるこの静かな雰囲気が好きなんだよ」

「なるほど、ダンジョンとはまた違っていいものだね」

「おや、ケーキがいつもと違うね」

「材料は一緒なんですよ、ただナッシュらしさをだそうと思って」

「この丸いのがかい?」


私は何も言わず、にっこりとほほえんだ。


「なんだろう、なんだ、あ!」

「「スライムか!」」

「フォークで割ってみてください」


3人でケーキを割ってみている。


「ん、干しぶどうだ。好きなんだよ、これ」

ルイさんはもう興味がない。


「これは、核か!」

ヒューゴさんが叫んだ。


「あたりです!」


「ス、スライムだと思うと、お」

「わかる、わかるぞ、ちょっ、腹痛い、クッ」

ギルド長とヒューゴさんが笑い転げている。ルイさんはたんたんと食べている。


「なんで笑うんですか、一生懸命作ったのに!」

「だってな、魔物をお菓子にするなんてな」

「もう、名物になるかと思ったのに」


「なる、なるぞ!」

「うまいしな」


「おかわり」


「「ルイ……」」


「はい、ルイさんにはサービスです!」

「「ずるいぞ!」」


そのくらいから冒険者が次々に訪れた。スライムには気づいた人もいれば気がつかない人もいて、おみやげに、というかおそらく宿屋かダンジョンで食べようとして買っていく人も多かった。作った200個はすべて売れ、やがて王都からの冒険者にも、これ目当ての人が現れ始めた。なんでもナッシュから王都に行った人が自慢するのだという。


「奥さんにみやげに買ってこいって言われてさ」

と、たまに商人も来る。

「奥さんも連れてきたらいいじゃないですか」

「ここが臨時じゃなくなったら来るかもな」


そこでダンに連絡して、子羊亭ナッシュ支店を作ることにした。もともとナッシュは支店候補だった。ただし、ガガの方は後でやることにして、ケーキだけの販売だ。ギルド長推薦のお菓子やを頼り、アメリアさんに泡立て器を注文し、型を作ってもらい名物「子羊亭ナッシュ焼き」が誕生した。スライムケーキという名前は却下された。わかりやすいのに。


そして1ヶ月をあわただしく過ごし、6の月も終わろうかという頃、私たちは『涌き』のメリルに戻ろうとしていた。しかし、


「アーシュ!」

「マリア?ソフィーも、あれ、ニコ、ブラン?」


子羊組の残りが突然ナッシュにやってきた。

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