表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/307

アーシュ12歳5の月ナッシュ子羊亭準備

ダンに手紙を送って一週間後、近況の手紙とともにガガとパウンドケーキの材料が届いた。その間、ナッシュの鍛冶屋さんに頼んで、マドレーヌ型のようなものを作ってもらっていた。天板を丸い型に型押ししたもので、すぐにできた。マドレーヌはパウンドケーキとは厳密には配合が違うが、きれいに型が出ればそれでよい。


毎週、多めにガガと材料を送ってくれるとのこと。王都の子羊亭は変わらない人気で、ザッシュとクリフも元気なこと、そして3年間で初めて、帝国から留学生が来たことなどが記されていた。


「帝国から留学生だって!」

私が読み上げて驚くと、セロが

「すごいな、よほど優秀なのかな。オレ、帝国の人1人も見たことがない」

とワクワクした顔をした。

「ああ、子羊亭で大使の人に会ったの、私とマルだけか」

「オレダンジョンだったからなあ。今年は付き合うよ、会えるといいなあ」

「うまくすると留学生に会えるかもよ?」

「夏休みだろ」

「うーん、あれ?、まだ書いてある」


乱暴もので孤立し、溶け込む気配もない、と。


「あらら、これはやっかい払いかな?」

「厄介払い?」

「帝国でも持て余したけど、罰することのできない坊ちゃん、とりあえずメリダに行っとけ」

「わざわざメリダにか」

「だって簡単に帰れないもん」

「アーシュ、難しいことわかるんだな」

「予想だよ?」


「オレはわからないな」

とウィルが言う。

「オレたちと同じくらいだろ?持て余すって、何をしたらそうなるんだ?裕福なら、ダンみたいに商売したりとか、勉強したりとかすればいいじゃん」


もっともだ。でもね、


「ダンは選んで自分からやったことだけど、学校に行くしか許されなかったら?」

「うーん」

「じゃあ、冒険者をやりたいのに親が学院にしか行くことを許さなかったら?ウィル」

「やだよ、あ、そうか」

「確かにな、来たくなかったらなじまないよな」


セロがちょっとかわいそうな顔でそう言う。


「セロなら?」

「うれしい!」


私たちは、生きていくしか道はなかった。ただその道は、私たちに優しかった。大人は遠くから見守ってくれた。すべて自分で選んだ道だ。


「アーシュ、とりあえず明日から始まる。もう準備するべき」

「ホントだ、マル、ケーキ焼こう!」


子羊亭のガガには、パウンドケーキが付く。でもせっかくナッシュでするのなら、王都と同じではおもしろくないではないか?ではどうするのか。大きな干しぶどうを真ん中に入れて、こんもりと丸く焼く。そう、スライムだ。


「なんか憎い」

「マル、憎いって……売れないかな……」

「売れる。これを食べてスライムを倒す!」

「よし、おみやげに買えるように、たくさん作ろう!100個くらい!」

「アーシュ甘い!200個!」

「ええ?型はあるからそんなに大変じゃないけど……やるか!」


「アーシュなんだこれ!」

「ウィル、スライムケーキだけど」

「これおっかしいな、すげー、笑う」

お腹を抱えて笑っている。

「なんだよウィル、え、これ」

「スライムケーキ」

「は?スライム、ぷっ」

セロも笑っている。

「なにもう、味見させないから!中に干しぶどう入ってるのに!」

「待て、食べさせてくれ、クッ」

「オレも、フッ」

「もう!」


材料が届くまでの一週間、私たちは泊りがけでのダンジョンアタックを初めて体験した。


「女子の冒険者はこれが苦手でね」

「そうですね、小さいテントがあれば安心するかもですね」

「テント?安全地帯だぞ?」

「寝顔とか見られたくないんじゃ。着替えも楽だし。収納バッグに入りませんかね」

「考えたこともなかったな」

「そうですか?クランには女性はいないんですか?ヒューゴさん」

「いることはいるが、若いうちに引退することが多いな。残ってるやつは細かい事は気にしないしな」

「そうですか、はい、スープどうぞ」

「あっという間だな、うん、うまい……」

「甘いものもありますよ。寝る前はお茶やガガは目がさえるのでやめますからね」


そして子羊で寄り添って眠った。それを見ながら、ヒューゴとルイが語り合う。


「ホントにかわいいな、こいつら」

「素直だし、特にセロとウィルがな」

「孤児なのにすれてないんだよ」

「アーシュか」

「守られてるようで、守ってる」

「しばらく退屈しないですみそうだな」


泊まりだけではない。


「ウィル、お前は魔法師でもあるが、まずは剣士として体を作れ。マル、セロも私の組だ」

「アーシュは完全に魔法師だからな。剣はとりあえず鈍らない程度にして、私の組だ」


と、ヒューゴ組、ルイ組に別れてダンジョンで訓練を重ねた。


「アーシュ、お前が自分の力の限界を知っていれば、この間の涌きで半日もかからなかったはずだ。限界と力を見極めろ」


と言われ、15階より下にも連れていかれた。魔力の完全な枯渇も初めて体験した。濃い一週間だった。


そしてギルドの朝食の場所を借りて、子羊亭出張所の始まりだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ