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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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128/307

アーシュ12歳5の月ナッシュ子羊亭

しばらく1日1話が続きそうです。

こうして手助けされながらも自力で戻ってこれた私たちを、温かい歓迎が待っていた。ダンジョンでは自分が頼りだ。手助けしあっていては共倒れということもある。だから助けなくてもかまわない。それでも、できる範囲ではみな助け合いたいと思っているのだ。冒険者になりたての私たちにそれができたことを、素直に賞賛してくれたのだった。


落ち着くと、ルイさんが

「さて、ウィル、魔石を出してくれ」

と言った。私は、

「魔石?」

と思わず聞いた。


「おや、自分が倒したスライムの魔石を忘れていたのかい?」

からかうように言われる。


「……忘れてた」

「ハハッ、ウィルが取っておいてくれたからね」


ウィルが魔石を受付に出す。あたりがシーンと静まり返る。


「15階の涌きのボスも入っているにしても、このスライムの数と種類はなんてことかしら……少し時間がかかるわよ」

「なに、半日以上涌きを抑え続けただけのことだ」


なぜかルイさんの方が楽しそうだ。


「合計200万ギルになります!」


わっと歓声が上がる。


「すごいな、アーシュ!」

「ウィル、でも剣士の人と一緒だし、ルイさんもやってくれたでしょう」

「決断して助けに行かなければ、全滅していた。私の分は見物代としてとっておいてくれ」

「ルイさん……」


「気になるなら、今回の救出隊の飲み代を払ってやれ。冒険者仲間としてな」

「ギルド長、はい!」


「やったー、今日は飲もうぜ、アーシュ、ごちそうになるぜ!」


それからは大騒ぎだったが、酒を飲まなくても楽しかった。女子2人、珍しい冒険者扱いだったが、これをきっかけにナッシュでは完全に受け入れてもらえたのが嬉しかった。



次の日、私たちはギルド長に呼ばれた。ルイさんとヒューゴさんもいた。ギルド長が言った。


「アーシュ君にお願いがあるんだ」


後ろで、セロとウィルが少し厳しい顔をしている。


「ナッシュで1ヶ月くらい、ガガを飲めるお店を開いてくれないか」


え?ダンジョンの話じゃないの?


「でも冒険者になったばかりで、ダンジョンにもぐりたいので時間がありません」


「ふむ、できないとは言わないのだな」

「ルイさん、はい。少し時間がかかりますが、ダンに連絡して王都の子羊亭からガガを分けてもらえれば、ケーキは作れるし、できないことはありません」

「かの有名な子羊亭の支店をと言われ、即答できるその胆力、ますます気に入った」


「ヒューゴさん、昨日言いましたよね」

「セロ、怒るな。要は来年きちんとD級に上がり、それに見合う力をつけたいということだろう、アーシュ」

「はい、できればそれ以上の実力を」


そこでギルド長が立ち上がり、言った。


「それなら心配ない。昨日の働きですでにE級決定だし、来年の推薦書は私たちがだそう」


私はマルと顔を見合わせた。


「ホントなら嬉しいけど、でも……」

「昨日の報償とかそう言うことではない。マル君は、剣士としてスライムダンジョンの10階から単身戻る実力を。アーシュ君は、冷静に判断できる心の強さと、魔法の多彩さを、きちんと判断した結果だ。ガガほしさではないよ」


みんなふっと笑って力が抜けた。ヒューゴさんが言う。


「力のある奴は比較的早くA級になり、そこからが冒険者として長いんだ。ジュストのように勝手にもなるし、実力を維持し、さらに上げることに疲れることもあるんだよ」

「そういえば、ノアも退屈って言ってたな……」

「ノアとも知り合いか、セロ。私たちも、ナッシュは息抜きでもあるんだ」


ここでルイさんが改めて言う。


「王都は息抜きにならんのだ。午前中は、私たちは君たちの成長を手助けしよう。午後からは1ヶ月くらい、臨時の子羊亭を開いてくれないか」


「セロ、ウィル、マル、どうしよう」

「公平な取引だと思う。なあ、アーシュ、オレ、店員やるよ」

「え、手伝ってくれるの、セロ」

「ランチの販売だって手伝っただろ?意外と楽しいんだよ。お茶やガガを入れるのはあんまり得意じゃないからさ」

「もちろん、オレもやるよ」

「ウィル」

「アーシュ、男ばかりじゃせつない。マルも店員」

「マルはお茶もおいしいじゃない」

「じゃ、両方」


「では、頼んでもいいか」

「はい、ダンに手紙を出します」


こうして一週間後、ナッシュ子羊亭臨時出張所が開いたのだった。


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