アーシュ12歳5の月ナッシュ
「冒険者になってからしばらくは、動かないのが普通だぞ。ナッシュなんぞ去年行っただろう」
「でも、行ってみたいんです」
「ウィル、お前が行きたいだけだろ?まあ、大丈夫だとは思うが、変なやつには引っかかるなよ」
「別に引っかかっては」
「ジュスト」
「あー」
「とにかく行ってきまーす」
「よく来たな、アーシュ君、セロ君、大きくなって。また時間があったらガガでも入れてくれ」
「ギルド長、ジュストいませんよね?」
「あいつ、オルドが気に入ったらしくて、しばらくそこにいるだろ」
「マル」
「しかたない、しばらく行かない」
ナッシュでは去年、ジュストにつれられて15階まで行った。それは上級の魔法師と行ったから楽だったのだと、冒険者になった今ならわかる。剣士2人、魔法師2人との組み合わせだ。慎重に行って、ようすを見る必要があるだろう。
そんなことはまったくなかった。
まずウィルが飛び出した。
「アーシュ、炎からだ、10個全部打ち込んでやれ!」
何言ってんの?
言われたらやらないわけにはいかないではないか。
「「炎、10、極小、行け!」」
20個のスライムが消えた。
「アーシュ、やるな、けど次はどうかな」
「ウィルこそ!火力の調節イマイチじゃない?」
「よし、次の部屋だ!行くぞ!」
「行こう!」
「お、おい、待……」
「あ……」
「マル、しかたない、後ろからフォローに回るぞ」
「わかった」
出せるのはもちろん炎だけではない。だてにジュストについてまわったわけではない。スライムの属性に合わせ、大きさで魔力を調整し、片っ端からやっつけていく。
すると、小さいスライムがたくさん涌いている部屋があった。
「コレはいちいちやってらんないな、アーシュ、あれ行くぞ」
「わかった、私が風ね」
「おう、さあ、オレの最大火力だ。炎、壁、最大、展開!」
「風、前方、吹き荒れろ!」
「お前ら、待……」
「無駄。経験ある」
「はあ」
スライム、消滅!
いつの間にか肩で息をしていた。あれ?
「アーシュ」
「あ、セロ、なに?」
「なにじゃない、魔力の残りは?」
「あ、れ?少ない……魔力注入できるギリギリ」
「ウィル」
「オレ、は?もう少し、行けるか……?」
「今何階かわかるか」
「「……」」
「少し落ち着け、昼にするぞ」
「「うん」」
「「「「……」」」」
「アーシュ?」
「……」
「ウィル?」
「……」
「アーシュ、ウィル」
「「マル?」」
「思い出して。こないだの私」
「「あ」」
「暴走してる。このままだと帰るのが大変」
「「ごめん」」
「お兄ちゃん」
「うん?」
「2回目」
「うっ」
「さあ、スープでも飲んで落ち着こう」
「「セロ」」
そこからは落ち着いた。今度はていねいに、そして2人の剣士の力を借りながら10階から上階へ。ギルドに無事戻ってきた。
受け付けだ。マルが拾った魔石をザラザラっと渡していく。
「……50万ギルです」
ギルドがざわめく。
「逃げよう」
「そうしよう」
ギルドを出て、ウィルがつぶやいた。
「ほら、アーシュ無双」
ガツン!セロに怒られていた。
私もこっそりつぶやいた。
「私、無双」
ギュッ。マルに抱きしめられた。
「心配。ダメ」
ごめんね。




