あるギルドマスターの、ひとりごと3
今日2話目です。
丘の上に続くゆるい坂道を、アーシュを背負って歩く。
小さいコイツを孤児の仲間に入れたとき、冒険者になるとは思わなかったんだ。生き延びるとさえ思わなかった。
ギルド長の公平性、それが俺たちを縛る鎖だ。シースにもメルシェにも、孤児はたくさんいて、そのどれもに手を差しのべることもできない。ギルド長会議のたび俺たちは、どうにか手助けできないか話し合った。それが解体所での仕事だった。
荷物持ちになるまで、それでなんとか生き延びていく。生き延びて荷物持ちになれば、ギルドの管轄だ。冒険者になれば、裕福になる者もいる。それまでにこぼれ落ちるものまでは、拾えない。そして冒険者になったものについては自己責任だ。たとえそれがまた、孤児を作ることになっても。
メリルの孤児が、全部冒険者の子どもかといえば、そうではない。なぜかよその街から流れてくるものが多い。中でもマルはやっかいだった。異質で何の反応もないそのようすは、意図せずあつれきを生み出し、一緒にいるやつの働く時間を奪って行く。結果として十分な食べ物を取れず、アーシュが来たころには3人はかなりやせ細っていた。「こぼれ落ちる側」としか言いようがなかった。手を出したくても、ギルド長としてすべきではない。
そんな中、アーシュがその中に入ってしまった。
年替わりの4の月、忙しいなか気がつけばあんなにやせこけていたセロとウィルが、荷物持ちとして元気に働いていた。マルはといえば、アーシュと手をつなぎながらやはり楽しそうに働いている。やがて荷物持ちの方がいいランチを食べているといううわさが広がり、ムリしたザッシュたちが倒れては立ち直り、そのすべてにアーシュがいた。
都合がいいと、利用してしまったことは否めない。朝食をやらせ、ランチをやらせ、そのすべてに応えてみせるアーシュ。
やがて領主の信頼を勝ち取り、工場の基礎を作り、学院に行くことになったアーシュ。他のギルドでもがんばってみせるアーシュ。「ギルド長ギルド長」と走ってくるアーシュ。「行ってきます!」と手を振るアーシュ。周りでいつも、セロとウィルが笑っている。マルがくっついてニッコリしている。マリアとソフィーがほほえみ、ニコとブランが見守っている。こぼれ落ちていい孤児なんて、どこにもいなかった。
ギルド長の公平性、それはこれからも俺たちを縛るだろう。しかし、心は自由だ。誰にでも手を差し伸べればいい。メリルではもう、誰一人こぼれおちることはない。
背中が暖かい。いつでも俺の心の中に、アーシュ。大切な、娘。




