アーシュ8歳4の月のある1日
今日5話目です。
こんな感じで4の月はすぎていく。
少し生活が落ち着いてくると、ほしくなるものがある。
そう、スイーツである。
この世界にも砂糖はあるが、結構高い上にあまりお菓子を食べないのだ。主に肉。そして肉。まあ、それはそれとして、私が気になっているのは、飼葉やさんの茶色い大びんだ。飼い主は馬の整腸剤として買って行く。それって、モラセスじゃないのかなあ。
「おじさん、コレは」
「ああ、それは廃蜜糖だな。砂糖の絞りカスだ。馬の整腸剤に使うぞ」
「人は食べないの?」
「祭りの菓子に使うことはあるが、あんまりつかわねぇなあ、ちょっと苦いんだよ、ほれ、味見してみな?」
「「ん、あまーい」」
「マル、どう?」
「苦いけど、おいしい!」
確かにクセのある苦さだが、日本ではライ麦パンなどのクセのあるパンにつけたり、お菓子に使っていたりしたはず。
「おじさん、いくら?」
「びんごとだと500ギル、だいたい2キロ入りだな」
「1つ、買ってみる」
「まいどありー、お腹こわすなよ?」
「ねえ、マル、これお昼のパンにつけてみようよ」
「やるやる!」
「「おいしーい!」」
「合格!」
「アーシュ、なに?ごうかく?」
「おいしさ合格!パンに採用します!」
「さいようー」
2人でくるくる踊っていたら、おじさんに怒られた。
4の月から、ベリーが取れ始める。
まず、アルベリー。薄桃色、うす甘の、さわやかなベリーだ。
保存にも、ジャムにも向かないので、せっせと取って売る。そして食べる。やおやのおばあちゃんに頼んで、置いてもらう。毎朝取れる量は多くないので、ベリーの収入は500ギルほど。
その後はストロベリー。まさにいちご。ランベリー。紫。そして、5の月の終わりにはさくらんぼがなる。アルベリー以外は、ジャムになる。廃蜜糖は、野生のベリーによくあう。また、生活魔法を使って、ドライフルーツもつくり、うまやの天井に干しておく。みんな手伝ってくれるけど、冬のことなんて考えても仕方ないって顔はしてた。でも、ジャムは大喜びだ。
ウィルは荷物運びで、魔法をいたく気に入ったらしい。夜のライトも、先に5つともせるようになった。2人で競争して、後に10個ずつともせるようになったのは笑い話だ。
でも、生活魔法はみんな使えるのに、魔法師は少ないのは何でなんだろう。
「威力と、量かな」
とウィルが言う。
「だってさ、着火の魔法は、こんな小さいだろ?でも、魔術師の炎は、こーんなに大きいんだぜ」
や、実際はその半分くらいでしょ。炎の種類は違った?
「おんなじように見えたな、ただ大きいだけで」
大きい?じゃあ、
着火の魔法を大きくしてみたら?
「え、おい!」
ぶわっ!
「けほっ、けほっ、ほらね、大きくなった!」
「バカやろ!」
たたかれた。
「危ないことすんな!ケガするとこだったぞ!」
「ごめんね、うまや燃えるとこだった」
「ちげえよ!お前が危なかったんだよ」
「え、だって私別に」
「いっつも思ってた。アーシュはオレたちのめんどうはみるのに、なんで自分を大切にしない?」
「自分を、たいせつ……だって私、大丈夫だから……」
だって前世は大人だった。かあちゃんもとうちゃんも、子どものような歳だった。大人ががんばらなくてどうする?
「セロも言ってやれ」
「アーシュ、お前が1番小さいんだよ。1番守られなくちゃいけないんだよ。ほら、手をのばしてみろ」
手を?
「ほら、一番短い」
「マルより短ーい」
ああ、私、まだこんなに小さいのか、ストロベリーが2個しかのらない、そんな手のひらだ。
「オレたちが大事にしても、お前が大事にしないと、だいなしだ」
「うん」
「無茶すんな」
「うん」
2歳分だけ大きな腕が、抱きしめてくれる。
もう一人分、そしてもう一人分。
その日私たちはお団子になって寝た。