アーシュ11歳13の月から1の月へ
シースへ行くまで、できる事はまだある。セロとウィル、ニコとブランは、ダンジョンに潜りながらも、効率的な剣士の育て方を研究していた。特にニコとブランは、子羊の中でも武闘派、実戦派だ。今まではみなを後ろで守っていればよかったが、今回は違う。メリルの子羊として表にでる覚悟でいた。
「料理も苦手だし、販売なんていったら、この顔だ。冒険者が寄り付きもしないだろ。できる事は、チビたちを強くするくらいだ」
もちろん、メリルでは師匠に教わってはいたが、なにぶんにも感覚的であり、
「とにかく剣を振る」
「強いやつをみて覚える」
「実践して覚える」
であった。学ぶ気のあるものには、それを荷物持ちの2年間でしっかりと教える文化がメリルにはあった。しかし、シースはそうではない。それでも冒険者になる者もいる。そして淘汰されていく。
しかし、今回は11歳の子だけの話ではない。これからどんどん孤児たちは成長していく。来年の冒険者のために、再来年の冒険者のために、しっかり形を作ってやりたかった。
セロもウィルも、ニコもブランも基礎から試行錯誤しながら、訓練のやり方を工夫していった。それは剣の師匠にも伝わり、メリルの荷物持ちの後輩にも伝わっていく。朝の訓練所は、いつも熱気に包まれていた。
一方マリアは、メリルでの経験を元に、大きな子どもたちに1から勉強を教えるやり方を考えていた。子羊がいなくなってから勉強がとだえてしまうのでは、意味がないのだ。また、学校に行けないのは孤児だけではない。
「思い切って領主を巻き込むのも手かしら、アーシュ」
「メリルの領主さまに頼めば話を通してくれるよ、きっと。でも、マリア、町の人がやってくれたほうが、長く続くような気はする」
「そうね、孤児だけが優遇されるのでは続かないし、簡単に、楽しく、誰でも、うーん、悩むわね」
もちろん、私だって頑張っている。私は魔法師部門と、料理部門だ。ウィル、それにギルド長は、魔法師でも感覚的だ。でも私は、理論だてて考えることができるので、効率的に魔法を考えることができる。10の月にやったように、できない子はできるように、できたら基礎からていねいに。応用までは教えないので、考えたことをウィルと繰り返し実践していく。マルは、料理、剣士部門担当だ。ソフィーは料理部門1本。マリアがいなくても大丈夫じゃないかと思うくらいてきぱき動く。マルはウィルと同じで、何でもすぐに覚えるし、できる。食べ物、特に肉類には執着しているので、実に料理上手なのである。
13の月、メリルは見えない熱気に包まれていたのだった。そして1の月。
「おかえりなさい」
「決まったぞ。シースに派遣だ!」
さあ、私たちの、集大成だ!
「あ、それとな、ニルムからの伝言だ」
「帝国への玄関口の?」
「そうだ。『 ニルムの大洋を見に来い』」
「「「「海だ!」」」」
4人で声がそろった。
「それから、セーム。『 果物の街道』」
「「「「果物!」」」」
女子の声がそろう。
「あとな、一応な、オルドから。『 山』」
「「「「山?」」」」
「以上だ」
「待て、ギルド長、山とはどういうことだ」
「ニコ、気にしなくていい」
「かえって気になるだろ」
「あー、ジュストが」
「はあ?あっ、オルドに島流しか!」
「ギルド長にアーシュのこと話して」
「何だって!」
「セロ、オレに怒るな。そんで子羊全部に興味を持ったらしく」
「疫病神が!」
「正確には『 強いものはいつでも歓迎する。オルドの急峻な山々は見ごたえがあるぞ』と」
「「「「「!」」」」」
「山かあ、いいな」
「アーシュ、空気を読め」
「えっ、え」
何でみんなやる気になってるの?
「こうなると思ったから言いたくなかったのに」
12歳になって冒険者になってから、何をなすのだろう。ただ、これだけは決まった。オルドに殴り込みだ!何で?




