ギルド長会議2
今日も1話です。
今年もギルド長会議が始まった。定例の報告が終わると、今年の朝食、ランチの報告になった。
ギルド総長が
「では、昨年からの継続と、新規の報告を頼む」
というと、
「西では、導入後ケガや死亡事故が激減し、魔石の産出が伸びた後は、数字は変わらず一定の成果を上げていると言える」
「東も同様である。ただし『 涌き』から魔物があふれる率は変わらない。少しダンジョンへの人数が増えた程度では、変わりないようだ」
「西も『涌き 』については同様だ」
「ナッシュではレーションの他に、魔法師用のクッキーも売りだしてもらい、とても好評である。ダンジョンに来る魔法師の人数も増え、魔石の産出も増えている。ただし、スライムダンジョンという特殊性ゆえ、剣士のケガは余り減っていない」
「メルシェはメリルに近いために、冒険者にもかなり不満があったが、このたびようやく解消された。メリル、メルシェ、ナッシュの間では待遇の差がなくなったため、冒険者はよく移動しているようだ」
「ふうむ、一定の成果は出ているようだな」
「今度はシースに派遣してもらいたい」
「シースの、もっともだが、確かそろそろ派遣は終了と、去年の会議で言っていなかったか、メリルの」
「確かに、派遣の小さいものが今年で12歳、待ちに待った冒険者が始まるので、今年からは様子をみたいと言ってはいましたが」
その時、珍しくオルドのギルド長が声をあげた。
「ほう、黒髪の魔法師か」
「……なぜ知っている、オルド」
「ジュスト」
「疫病神め」
「おもしろい荷物持ちがいると。冒険者になるのを待っているのだと。単身でオーガを倒す力を持っているというではないか」
「まだまだ未熟だ」
「クッ、謙遜を。最短でD級に上がった若いの2人、C級に上がった者2人。単身オーガを倒す荷物持ちが2人。ジュスト然り、オルドのオーガダンジョンはいつでも強いものは歓迎するぞ」
「オルドにはやらん」
「冒険者は止められぬぞ。強さを求めれば、必ず来る」
「話がずれているぞ。シースの、そのような事情らしいが」
「総長、待ってください。今回、4の月の前になら、シースに派遣してもかまわない」
「メリルの、冒険者になる前にということか」
「はい」
「お願いできるか。シースはメルシェの南。1人だけ仲間はずれでは、物流も滞る」
「春にメルシェ、ナッシュで、夏に王都で過ごしたばかりだろう、若いからこそ、無理はさせられぬぞ」
「ありがとうございます、総長、今回は子羊たちの希望もあるので、かまいません」
「ほう、なにか縁でも?」
シースのギルド長が言葉を引き取った。
「秋にシースを訪れた時」
「秋にか、忙しいことだな」
「海を、見に来たと言っていました」
「海を?」
「そして孤児の面倒を見ることになったと」
「ますます忙しいことだな」
オルドのギルド長がまた声をあげた。
「はっ、確かにおもしろい!メリルの、オルドの急峻な山々も見ごたえがあると、ぜひ伝えておけ」
「断る」
「ククッ、冗談だ」
「メリルは孤児の自立、そして冒険者への育成の一環として、2の月、メリルの子羊をシースへと派遣することを許可します」
「よろしく頼む」
「西領はどうなる?」
「ニルム……」
「正直西は、現状維持で、特に不満はない。しかし、良い報告ばかり聞かされては、さすがにな」
「うちも同じだ」
「セームもか」
「ふうむ、王都の東西ギルドよ、お主たちのところから派遣はできぬか」
「王都内ならともかく、馬車で一週間の距離は未亡人たちは行きたがらぬだろう」
「東もだな、メリルのがいかに腰が軽いかということになるな」
「お茶の販売のやつはどうだ」
「あれもメリルの子羊だが、朝食とランチとは専門が違うからな」
メリルのギルド長が声を出した。
「一年、ようすを見てもらえないか。この4年間、冒険者としてパーティを組むことを目標にして努力してきた子たちだ。私が言えることではないが、大人の都合で振り回すのはそろそろひかえたい。これからは本人たちの意志で動いてほしい。シースは、その本人たちの意志なんだ」
ニルムは言う。
「勝手なことを。しかし、もっともなことだ。では伝言をお願いしようか、メリルの」
「伝言を?」
「ニルムの大洋を見に来い、と」
「では、セームは果物の街道を」
「必ず伝えよう!」
「オルドの山もな」
「……伝えよう」
「では、これでギルド長会議を終了する」




