アーシュ11歳12の月その後
今日は1話です。
そうして、あばら家からほど近くの一軒家を提示された私たちは、孤児を連れてお引越しだ。
子羊館の最初のように、飼葉やさんからわらを買い、一部屋に敷きつめる。荒い布を敷きつめ、わらの掛け布団をつくって寝床の完成だ。まだ寒いが、シースの暖かい冬なら、寄り添えば乗り越えられるだろう。
「みんな、わかるね?朝起きて、訓練して、働いて、ごはんを毎日作って、きちんと食べる。余ったらお金は貯めておく」
「セロ兄ちゃん、戻ってくるんだよね」
「ああ、必ず1度戻ってくる。そうしてみんなの訓練をしたら、また出かけるんだ」
「ずっといるわけにはいかないの」
「みんな、順番に大人になって、それぞれが旅立つんだ。お前も、冒険者になって、会いたくなったらメリルに来い。いつでも子羊館に泊めてやる。そして、またシースに戻ってくればいい」
「オレも、旅に出られる……」
「お金を稼ぐことは、自由になることなんだ」
「自由……」
「おばさん、1度メリルに戻ります」
「さみしくなるよ。あんたたちが子どもたちにしてくれたこと、忘れないよ」
「はは、すぐに戻ってくるから」
「ジェシカ、また遊んでね」
「また釣りがしたい」
「アーシュ、マル!うん、またね!」
12の月の2週目、私たちは新たな決意を胸に、メリルへの道を戻るのだった。メルシェまで3日、ギルド長に経緯を説明してメリルまでまた3日、季節はいつの間にか真冬へと変わっていた。
「長い旅だったなあ、お前ら、なに、お願いがある?」
帰ってきてすぐ、夕食後にみんなに集まってもらった。
「どうしたんだ、シースはいいとこだったろ」
「はい、ギルド長、とってもいいところでした」
「セロとウィルがね、『 親がいないのよ、妹を連れて冒険者だなんて、健気よね』って言われてて」
「ぷはっ、健気って、マジか」
「うん、ニコ、私たちも『 小さいのに、えらいな』って」
「ははっ、確かにちいさいよな」
「もう!そこじゃないよ!」
「魚がおいしい。釣りもした」
「ええ、釣り?おもしろかった?やったことないの」
「うん、ソフィ、グッてきて、エイッてする」
「わかんないわ」
「それでどうした」
「うん、それで、ギルド長」
「なんだ」
「今度のギルド長会議で、シースからメリルの子羊の要請が来ます」
「っ、もうそろそろ派遣をやめようと思っていたのに。お前ら大変だろ。それにシースは……」
「シースには、10人の孤児がいた」
「セロ、それは……」
「上の子は11歳、荷物持ちをして、みんなで寄り添って暮らしてた」
「食べるものは黒パン、住むところはあばら家」
「ウィル……」
「やせて、それでも明るくて」
「手助けせずには、いられなかったんだ」
「しかし、それとシースへの派遣はどう関わる」
「ギルド長、少しの間だけど、孤児たちに、生活の仕方を教えてきた」
「お前らの、あれか」
「はい、朝起きて、訓練して、働いて、料理して、しっかりたべて、お金を貯める」
「それはいいが」
「そして、ギルドでの荷物持ちの訓練の仕組みを作ってきた」
「!」
「シースではこの後朝食とランチの仕組みを作り、孤児をやとって、完全に自立させる」
「そういうことか!」
「シースへの派遣を条件に、孤児たちには家を用意させた」
「お前ら……」
「マリア、ソフィー、勝手に決めてごめんね」
「「アーシュ……」」
「今回は、私たち4人でなんとか……」
「バカねアーシュ」
「マリア?」
「私は行くわよ」
「ソフィー!」
「みんな私の出身、知っていたのね」
「「「「「……」」」」」
「ホントにバカね。私にはもう、家族がいるのよ」
「マリア?」
「おバカさんな妹が3人、鉄砲玉な弟みたいな子が3人王都に、少し頼りない弟がメリルに3人」
「3人?」
「3人よ、ニコ」
「オレは……?」
マリアはふふっと笑った。
「私はもう15歳なの。成人よ?それに、私が行かなくて、誰が孤児の勉強を見るのかしら」
「「「「マリア!」」」」
「マリアとソフィーが行くのなら、当然オレたちだっていくさ」
「「「「ブラン!」」」」
「マリア、オレは?」
「行くわよね?」
「そう、そうじゃなくて、オレ、マリア」
「ついてきてくれる?」
「っ、うん、いつだって、必ず」
「決まったようだな。本当にいいのか」
「できれば、アーシュたちが冒険者になる前に」
「では、来年、ギルド長会議から戻ってきてすぐにでいいな」
「「「はい!」」」




