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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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110/307

アーシュ11歳8の月学院は

今日2話目です。

8の月4週目はテストの週だ。去年かなり取っているものの、あやしかった数学など、もう1度受け直したりして、シルバーも含め、外部生全員が3年分の教科を終えた。


「だから2年で卒業というわけにもいかんでの。来年は、研究生ということで来るがええ。テストはなしで、ただし一ヶ月担当の教師についてしっかり学ぶのじゃ。自分でテーマを決めてもよいのじゃよ。それぞれやりたい教科の宿題をめいっぱい持って行かせるでの」


ということで、私はメリダ文学と帝国文学の本をたくさん預けてもらった。


なぜか9の月に入ってもメリルに帰ることにならず、私たちは東ギルドでのダンジョン潜りにいそしんだ。お茶を提供する荷物持ちはここでも喜ばれ、次第に東ギルドでの顔見知りも増えていった。時間ができたことでリカルドさんとディーエともご飯も食べに行った。


「アーシュと食べるご飯はおいしいね」

「その言葉は、妙齢のお嬢さんに取っとけ」

「そういえば、2人とも婚活は?」

「一進一退でね」

「進があったとは知らなかった」

「ディーエ」

「そのうち私が先に結婚しちゃうかもよ」

「な、あれか、あのセロとかいう」

「セロとかって、普段セロ君て言ってるじゃない」

「そこ?そうじゃなくて」

「たとえばのはなし。よめも来ないうちに孫を抱くハメになるよ」

「孫?アーシュの子か。琥珀のひとみ、黒髪のおチビちゃんか、そう、アーシュも小さい頃それはかわいらしくてね」

「あーあー始まった」

「これおいしいよ」

「ターニャと瓜二つでソレはもう」

「ディーエそれ取って」

「ディーエさんだろ、ほらよ」

「トニーがなかなか抱かせてくれなくてね」

「リカルドさん、デザートなくなるよ」

「おっと、それは残しといてくれ」


やっとダンの店にも行けた。少し人出は落ち着いたか、それでも楽しそうに過ごす人たちでいっぱいだった。すみでマルと借りた本を読んでいると、


『 久しぶりだね、お嬢さん』

『 わあ、一年ぶりですね』


ということで帝国の大使さまだ。


「そういえば去年もこの時期でしたね」

「9の月と3の月が風がいいんだよ」


その後も帝国に魔法をほとんど使える人がいないことや、大使はメリダでちょっと魔法が使えるようになったことなどを楽しくお話した。


「帝国に興味を持つとは珍しいが」

「帝国だけじゃなくて、知らない国はみんな行ってみたいの」

「ほう、確かに」

「大使さまも、それでメリダに来たんでしょ?」

「メリダは本国でもおとぎ話のような国なんだよ、誰もが魔法を使い、ダンジョンで戦う」

「来てみてどうでしたか?」

「思ったより普通だったよ」

「がっかりした?」

「いや、この国は本国とは空気が違うんだ。なんだかなじむんだよ。魔石を使った道具もおもしろいし、人も素朴で親切だ」

「ダンジョンも行ってみたい?」

「行かせてもらえないんだよ。大使だからね。君も帝国に来たいかい」

「いつか行くの」

「行くのか」

「そしておいしいものをたくさん食べて、おもしろいものをたくさん見るの」

「隣の君も、行くのかい」

「マルはアーシュといつも一緒。帝国にも行く」


『 こんにちは、はじめまして、お嬢さん』

「え?帝国語じゃない?」

『 こんにちは』

「マル?」

『 おかあさんは、いる?』

『 おかあさまは、しんだの』

『 お父さんは?』

『 おとうさまは、とおくに』


「ふうむ」

「大使さま?」

「君、マル君といったか、家族のことは」

「家族はいない」

「マル?」

「アーシュ、先に行ってる」

「マル?大使さま?」

「帝国よりも奥、騎馬民族の国の言葉だよ」

「マル、話せてた」

「無自覚のようだが、さて、事情あるのかどうか」

「マル……」

「来年も話せるとよいが」

「来年も学院があるから、きっといます」

「楽しみにしているよ」

「また会いましょう」


その後、クランとも和解し、9の月の3週目の終わり、メリルへと戻ることになる。今年の長い夏も、終わった。

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