アーシュ11歳8の月1週目クランにて
今日3話目です。アーシュちょっとツライです。
クランは中央ギルドの近く、広場をはさんで東よりにあった。大きな建物の他に、いくつも小さめの建物があり、一つの小さな村のようでもあった。
「まず食堂に向かおうか」
食堂は中央の建物にある。
私たちが入ると、しん、と静まった。
「このお盆をとって、おばさんにおかずを入れてもらうんだ。朝も昼もやってるから、好きな時間に来るといい。だけど、遅くにはやっていないから気をつけて。お昼は各自が朝もらっていくんだ」
「じゃあ、荷物持ちがお昼を用意する必要はないですね?」
「自分の分だけだね」
ふむふむ、カフェテリア方式ですね。これなら中央で朝食は必要ないか、いや、クラン以外の人もいるはず。その人たちは……
「アーシュ、戻ってきて」
「あ、マル、うん」
メニューはお肉中心で、量もたっぷりだった。味はほどほどだった。食堂にはニコとブランがいて、疲れは見えていたが元気そうだった。
「ニコ、ブラン」
「よう、学院はどうだ?」
「今年もにぎやかだよ。マリアとソフィーは休みはダンのお店のお手伝いだって」
「お、おう、そうか」
「ダンジョン、どう?」
「去年も潜ったけど、今年はランクも上がってるし、何よりここのクランに連れられてるからな、かなり下まで潜ってる」
「強い?」
「魔物の強さは他のダンジョンと変わりねえ。ただ、オレたちの経験不足がな……」
「ニコ君、ブラン君よくやってるって聞いてるよ。相当強いって」
周りがざわついた。
「副団長がほめてる……」
「何もんだ?」
「あの子どもたちなんだ?」
「あれ、メリルのおチビさん」
「あ、お兄さん、ここの人だったの?」
「子羊館ではお世話になったね。またメリルに行ったらよろしくね」
「はい、いつでもおいでください」
「今日はどうしたの?」
「セロとウィルはダンジョンに、私たちは明日から荷物持ちの手伝いに」
「荷物持ちだって」
「なんでだ、うちには専属がいるだろ」
「女の子なのに」
「女子はうちにもいるだろ」
「や、だってあんなにきゃしゃで」
「うち、相当厳しいぞ、大丈夫か」
「ラスカ!」
「はい、副団長」
「『 涌き』の間、6の日と7の日に荷物持ちの手伝いに来るアーシュとマルだ。今日、明日と女子寮に泊めるので世話を頼む」
「荷物持ちは専属がいるはずですが」
「正直、足りてないのは知ってるだろ」
「しかし、『 涌き』の間の厳しさにこんな子たちが耐えられるとは……」
「僕は、世話を頼むと言ってるんだけど」
「!失礼しました。ではアーシュ、マル、こちらへ」
「アーシュ、マル、明日は7時には出る。僕の6人パーティだ。お茶とスープの用意を頼む」
「よろしくね」
「ジュストさん、ルカさん、よろしくお願いします」
「お願いします」
「副団長直属か!」
「なんでだ!」
「ルカさんが笑ってる!」
「セロとウィルは、カッシュのパーティに」
「副団長、オレたち2人で平気です。こんなチビなんかかえって邪魔だ」
「セロとウィルは、D級だが」
「俺たちと同じ?」
「中央のダンジョンは潜った事はないはずだ。面倒見てやれ」
「!はい」
しばらく食堂はざわついていたが、やがておさまった。私たちは、ラスカに連れられて、女子棟に向かう。
「ラスカさんは、剣士ですか」
「そうよ」
「パーティはどんな」
「おしゃべりは嫌いなの」
「……はい」
「ここが部屋よ。2日しかいないから、洗濯などの説明はいらないわね。じゃあこれで」
「あ、あの、お風呂は」
「新人がそんなぜいたくしていいと思ってるの?そこに水場があるから、桶に汲んで部屋で体を拭けばいいのよ」
「でも途中にお風呂場が……」
「新人が、って言ったわよね?リボンなんかつけてチャラチャラして、おしゃれしたいならダンジョンからは遠ざかってることね!」
バタン!
「嫌われちゃったね」
「しかたない。ジュストには女の子の難しさ、わからない」
「マルはわかるの」
「わかるけど、わからない」
「ぷっ、何それ」
「アーシュよりわかる」
「えー、マルよりわかるもん」
「さ、アーシュ、水を汲んでこよう」
「お湯にすれば平気だもんね」
「そう」
ベッドは硬かったが、清潔だった。ベッドが硬いとは、私もぜいたくになったものだ。次の日は、習慣で5時過ぎには目が覚めた。食堂の棟の訓練所に行ったが、人はまばらだった。
「『 涌き』の間は体力温存のため、朝じゃなくても夜訓練する人が多いんだ。君たちも疲れるから、控えめにした方がいいよ」
と教えてくれた。でも、夜は苦手だからな……。結局マルと軽く訓練した。その後準備して食堂だ。朝はパンとスープか。あれ、
「おばさん、足りないのでもう少しください」
「働いてもいないのに食べるのは1人前かい」
「え?」
「ほら、次の人が待ってるから、早く行きな!」
マルと顔を見合わせる。しかたない。あるだけ食べて、昼を取りに行く。
「あんたたちの分は聞いてないよ」
「でも、ここでお昼をもらえって」
「ないものはないんだよ。チャラチャラして、冒険者なら他の子を見習いな!」
これは、イジメか!
さあ困った。お風呂くらいならいいけど、ご飯は困る。ダンジョンで十分に働けないではないか。
他の人もチラチラ見てるけど、誰も助けてはくれない。時間は?よし!
「マル、屋台」
「わかった。肉巻き、いい?」
「ぷっ。いいよ」
間に合った!さて、パーティは?剣士4人、魔法師2人。
「雑魚は見ない。倒したものについては、解体して持ち帰る。『 涌き』なので、深層部に行くより、数を減らすことを優先する」
「ジュスト、この子ら大丈夫か」
「大丈夫だ、気にしなくていい、さあ、行くぞ」
今は、ジュストさんの信頼が、かえってありがたい。元凶もこの人だけど。




