アーシュ7歳3の月始まり
今日、父ちゃんがダンジョンで死んだ。
22歳だった。
とうちゃんもかあちゃんも王都のスラムで育った。
体の弱いかあちゃんは育つまいと思われたらしいが、スラムの連携は案外強い。仲間にまもられながら、なんとか成人した。
黒髪で琥珀色の目をしたかあちゃんは、子供の目から見てもきれいだった。多くの人から妾として狙われていたかあちゃんは、成人してすぐ、幼なじみのとうちゃんと結婚し、一旦王都から逃れた。一年後私が産まれた。ふたりが15歳の時だ。
体の弱いかあちゃんは、すぐ寝込む。父ちゃんは冒険者になって、私たちを養ってくれた。すぐ寝込んでも、いつもそばにいてくれる優しいかあちゃん。冒険者になるほどは、ほんとは強くないとうちゃん。街から街へ流れつつ、いつもお金はなかったけれど、幸せな毎日だった。
それでも弱っていくかあちゃん。
ここメリルは、領主の評判がよく、暮らしやすいと評判の辺境のダンジョンの街だ。しばらく滞在しようと移動してきたのは2の月のことだった。とうちゃんは家族持ちで、固定パーティを組まない。都度野良でダンジョンに潜っていた。私も、看病のあいまに、ギルドの解体所で働いた。小さい子でも、1時間百ギルで働ける。大きめの黒パン1個分だ。何とか暮らせそうと思った矢先。
とうちゃんが、ダンジョンで、魔物にやられた。
パーティは、逃げるのに精一杯で、遺体さえ残らなかった。
そしてかあちゃんから、火が消えた。
生きる気力がなくなったのだとおもう。
ねえ、かあちゃん。
かわいい娘は、生きる理由にならないのかな。
そして3の月、かあちゃんも死んだ。
22歳だった。
残されたのは私。
アーシュ、7歳。