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幼馴染改めまして

今回は場面転換がやや多いです。


チュンチュン...と鳥たちの囀りが聞こえる。朝がきたのだろう。冬の朝は殊更寒く、布団から出難い。使い古された表現ではあるが、まさに鉛のように重たい瞼をゆっくりと持ち上げ、しばし間を置いて重たい身体を起こした。ふと、窓を見やる。まだ薄暗い外は今がまだ早い時間であることを教えてくれる。次いで枕元の時計をみる。時刻は午前5時。

未練がましく布団から出て、一つ伸びをした。ひんやりとした空気がまだ暖かな身体のぬくもりを奪っていく。


「......っ」


ズキズキと痛む二の腕は、皮肉にも昨日の出来事が夢ではないことを教えてくれる。普段重たいものなど持たず、激しく身体を動かさない生粋の文化部である柚木にとって、昨日の図書整理は予想外に身体にきた。

鈍く痛む腕を撫り、朝の身支度へと向かう。のんびりしている暇はないのだ。はやく支度を済ませて学校へと向かわなければならない。





朝迎えにきてくれる”幼馴染”はもういないのだから。








✳︎✳︎✳︎



「はぁ⁈幼馴染の縁を切った⁈⁈」

「佳枝、声大きいってば!」


まだ朝も早く、学校にいる生徒は疎らだ。しかもこの真冬に屋上にいる生徒なんて限りなく少ない。そうはわかってても改めて声を大にして言われると、なんとも座りが悪かった。

朝早くに佳枝を呼び出して、昨日の事の顛末を話したはいいものの、彼女は納得はしていなさそうだ。こめかみを抑え、大きなため息をつかれてしまえば、なんだか咎められているような気持ちになってしまう。自分は昔から、どうにもこの友人に頭が上がらないのだ。


「あのさ...これはただのお節介だけど」

「うん」

「柚木はさ、高橋のこと諦められるの?」



諦められるよ



絞り出すように言った言葉に「うそ」とすかさず突っ込まれる。それ以上言葉を重ねることもできずに、口を真一文字に引きむすんだ。


「だって柚木、8年もあいつのこと好きだったんでしょう?そんな年季の入った恋情、簡単に清算できるわけないでしょう」

「だって、」

「だって、とかでも、とか。柚木らしくもない。柚木はもっと単純明快な人間だったじゃない。」



「ただし高橋以外には」と付け足され、ぐぅの音もでない。そうだ。私はもっと論理的にものを考えるタチであると自負していたのに。なんだこのザマは。



「.........」

「まあ、高橋にはまだ何も言ってないんでしょう?距離を置くのはいいとして、幼馴染の縁を切るまではしなくていいんじゃないの?」

「ううん、それじゃダメなんだよ」




"幼馴染"であるかぎり、私は彼と距離を置くことはできない。



「太陽が...高橋が大事なのは"幼馴染"のわたしなんだよ」






いつも太陽はいう。"幼馴染"の柚木が大切だよと。"幼馴染"だからずっと一緒だよと。

小さい頃から刷り込まれた"幼馴染"の私は、彼に恋情なんて抱いてはいけない。ましてや彼の幸せを喜べないなんて、あってはならないことだ。



「だから、私は"幼馴染"じゃだめなんだよ」



欠陥品のようなものだから。






「なーんか、また拗れてるなあ...」


ぽつり、呟いた彼女の声は聞こえなかった。





✳︎✳︎✳︎




「柚木、なんで今日さきに学校行ったの?」



こちらの覚悟も知らず、太陽から出た言葉はおはようよりも先ずそれであった。その顔は純粋に疑問のみを浮かべている。普段は彼女などお構いなしに一緒に登校している(太陽が毎朝迎えに来るのだ)二人の会話に、教室にいる人たちがこっそり聞き耳を立てたのがわかった。別に見世物でもないのに。このあとの話のネタにでもするのであろう。ネタにされるくらいには有名人と関わりがあるのは承知しているが、やはり気持ちのいいものではない。ここは慎重に言葉を選ぶべきだろう。


「べつに...約束とかしてるわけではないじゃない」

「そうだけど...ずっと一緒に登校してたじゃん」

「惰性で続いていただけだよ」



...そう思っていても、口をついてでた言葉は拒絶にも似た言葉だった。


「...なにそれ」 突き放すように行った言葉に、太陽が低く呟いた。聞いたことのない声音にびくりと身体が竦むが、ここは頑張らねばならない。


「ただのお隣さんなんかと毎朝毎朝、律儀に登校なんてしなくていいのよ」


ざわ、と空気が揺れた。何処からか息を呑む音がする。私は私で、顔を上げられずに太陽のマフラーとにらめっこしていた。

太陽はなんて答えるだろうか。もしかしたら怒られてしまうかもしれない。なんて言ったら納得してくれるだろうか。そんなことをぐるぐると思案する。


「あ、そう」


けれども、太陽から出た言葉は、それだけだった。



「......わかってくれてよかった。高橋くん(・・・・)


それだけ言って、太陽は自分の机に戻っていた。存外呆気ない。これっぽっちの関係だったのか、私たちの関係とは。


思わず自嘲しそうになる。この展開を望んだのは自分ではないか。なにを期待していたというのだ。引き止めてもらえるなど、そんな淡い期待を抱いていたのか。






ほら、やはり私から”幼馴染”をとったら何も残らない。



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