現状の打破について 2
予定より更新が遅れてしまい申し訳ありません。
「...どうしたの?」
目の前にいたのは甘栗色の柔らかな髪と碧色の瞳をもつ、図書館の妖精こと遠藤優雨であった。対面するのは初めてだが、噂通りふわふわとした摑みどころのない容姿と綺麗な顔をしている。
彼は常に図書館にこもっており、入学して2年ですでに学校の蔵書を読破したとか。(ちなみに愛読書は宮沢賢治短編集、好きな食べ物はいちご大福だそうだ。なんとなく察しはつくだろうが情報源は優雨親衛隊である。心底どうでもいい)
ついと掛けられたマフラーを撫でる。松葉色のそれは何度か図書館で見かけたことがあった。おそらく、よくカウンター席に無造作に投げ捨ててあったものど同一だろう。
「暖かい...」
首に巻かれたマフラーは先ほどまで彼が身につけていたのであろうか、人肌ほどの微かな熱を持っていた。雪の中にいた身としては、その熱はたいそう暖かだ。マフラーはあの図書館特有の匂いがする。
すん、と鼻を鳴らし顔を埋めた。緊張の糸が解けて、いまにも泣いてしまいそうだった。
「今日は幼馴染くんと一緒じゃないんだね」
「...いつも一緒にいるわけじゃないよ」
たしかによく一緒にいるだろうが、常に一緒というわけではない。それに、太陽には彼女がいる。彼との距離は開くばかりであった。
答えると、「なるほど」と言って彼は傍らのベンチに腰をかけた。雪も払わずに座ったベンチはさぞ寒いことだろう。なぜ隣に座ったのかはわからないが、彼のズボンが濡れてしまうし、最悪の場合に風邪をひきかねない。
ベンチの雪を払って座ったら、と言おうとした言葉は遮られた。
「外は寒いね」
「?そうだね」
いきなりなにを言っているのだろうか。雪が降っていてコートも羽織らない身には、肌を突き刺すような寒さですらある。すでに指先は悴んで、掴んだ雪ですら暖かく感じる。知れずマフラーをきゅっと掴んだ。
「冬は好きだけれど、僕は暖かい方が好きなんだ。...だから中に戻りたいんだ」
「なら戻ればいいのに」
少し素っ気なかっただろうか、そう答えると彼はこてりと僅かに首を傾げた。
「いまは人手が足りなくてね、本棚の整理が終わらないんだ。それこそ猫の手も借りたいくらいに、ね。だからさ、」
雪の中でぼうっとしているくらいなら、僕の手伝いをしてよ。
明らかに傷心中の女の子に「ぼうっとしてるくらいなら」なんてひどい言い草だ、と思わなかったわけではないけれど。本棚の整理がつい先日終わったことは知らないわけではないけれど。その内容がこちらを気遣ってでたものであることくらい、私にでもわかった。
「...いいよ」
なにより、一人は寂しかった。
差し出された手を掴んで立ち上がる。
***
太陽はお昼の購買でのパン競争を制し、友人たちと教室へ戻るべく廊下を歩いていた。途中で琴音とあって一緒にお昼ご飯を食べようと声をかけられたので了承し、友人たちのやっかみを受けながら琴音がお昼ご飯をもってくるのをまっていた。
後ろからたたたっと誰かが廊下をかける音がした。廊下で走るなんて、と普段の自分を棚上げにして思っていると、足音の主は自分の背後でその足を止めた。
「高梨くん」
知った声が聞こえたので足を止め振り返る。肩で息をしている彼女はたしか、柚木の親友の小川さんだ。
後ろを走っていたのは彼女だったのか。いつもの艶のあるさらさらでぴしりと切りそろえられた髪は心なしか乱れている。
呼吸を整えているのだろう、一度二度と息を吸って吐いて彼女は正面から僕をみた。
「柚木をみてない?」
「柚木?みてないよ。小川さんと一緒にお昼ご飯食べてたんじゃないの?」
そう。と手短に言うと、彼女はまた廊下をかけだした。なにをそんなに焦っているのだろう。
「柚木がどうしたの?」
そう問うと、彼女が走っていた足を止めて振り返る。その眼光は鋭い。怒っているようである。
呆れた、と一言吐き捨てて彼女は言った。
「自分のカノジョ様くらいちゃんと把握しなさい。本気の親衛隊の過激さくらい知っているでしょう?」
「...親衛隊?...琴音の?」
二度目の問いの答えは、返ってこなかった。
途中で太陽視点となりました。読みづらかったらすみません。
次の話は友人の小川佳枝の視点です。