現状の打破について
だいぶ間が開いてしまい、申し訳ありません。
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「柚木ー、お客さん」
四限終わり。昼の訪れにざわざわと生徒は賑わい、我先にと食堂にかけていく姿をぼんやりと眺めて、いまごろ彼は購買に友人と競い合うようにかけているのだろうと考えていると、友人の佳枝が私に来訪を告げた。
どうやら今日のお昼ご飯はひとまずお預けのようだ。肩をすくめる。いつもの、もはや恒例となった呼び出しだ。「断ってもいいんだよ」とその眼にある友人を笑顔で制し、私は客人のもとへと向かった。
「大丈夫。ああ、佳枝はお昼ごはん先に食べていて。今日はちょっと時間かかるだろうから」
ああ、面倒くさい。しかし彼女に行かないという選択肢はなかった。
雪が降る屋上は存外寒かったが、まっさらな一面の銀世界は情緒を解さない柚木でさえ、きれいだと思った。足跡一つないそこは、まるで処女のようだ。初心さと柔らかさをもち、けれど凛として美しくそこにいた。そこに後ろめたさを感じながら、跡を残す。後ろできぃという音とともに無遠慮な跡が付け足された。
「で、用件は何かな?柊澤さん」
柚木はため息をこらえて振り返り、目の前の少女をみた。用件の内容についてはある程度予測はついている。わが高校のフェアリーこと柊澤琴音は、その愛らしい瞳を精一杯に釣り上げこちらを睨んで言った。
「太陽君から離れてください」
またそれか。そう言いださなかった自分をほめてやりたい。なにせこのやり取り、ゆうに二桁は超えている。両の手までは数えていたから、確かだ。
「昨日も一緒に帰ったんでしょう?わたし、教室で待っていたのに」
いや、それは本人に言ってくれ。そもそもその情報はどこから流れたんだ。ああ、親衛隊か。プライバシーの損害だと声を上げるべきか、わたしは痛む頭を押さえた。
そう、この少女には親衛隊なるものがいる。曰く、「純真なわれらが妖精を煩わせるもの(ここでは私だ)を排除する会」である。会員数は正確には知らないが、男女ともにかなりの数の生徒が加盟しているものとみられる。過激なことはしてこないものの、地味な嫌がらせはすでに受けている身としては、彼女も含めて非常に面倒くさい者たちである。そして、
「いい加減にしてください。太陽君を解放してあげて!」
この妖精、非常に想像力豊かなうえに思い込みが激しいのだ。
曰く、彼は無理して明るくふるまっている。(いや、何も考えてないだけだあいつは)
曰く、彼はわたしのせいでやりたいことができない。(やりたいほうだいだけどな)
曰く、彼はわたしのせいで彼女である自分の側にいてくれない。(完全に私怨だよねそれ)etc.
一度だけ彼女に「本人から聞いたのか」と尋ねたところ。「聞かなくてもわかります。だって、わたしは彼が大好きですから!」というわけのわからない理論をつきつけられた。あたまいたい。彼女との会話にならない会話は、ここ数か月の頭痛の種となっている。
しかし私もわけもなく呼び出しに応じていたわけではない。わたしは存外忙しいのだ、これでも。なに考えていなかったわけではない。
ようやく私も決心がついた。
「わかったよ。もう私は太陽たちに関わらない。幼馴染であることも捨てよう」
思いもよらなかった返事なのか、彼女が目を見開く。
「それで満足?それじゃあね」
かくして、本人のあずかり知らぬところで幼馴染の縁は切れることとなった。
柚木は屋上を後にして裏庭へと向かう。雪が降るこの時期に、好んで昼を外で過ごすものはいない。人気がなくなっていくにつれて、彼女の呼吸が乱れ始める。目頭は熱くとも、不思議と涙は流れなかった。
期待していたのだ。
彼女ができたって、きっとこちらに帰ってきてくれるだろうと。自分を選んでくれるだろうと、淡い、期待を。
中庭には予想通り、誰もいなかった。柚木は雪の積もっていない隅のほうで、身を縮こまらせた。寒い。でもそれ以上に熱かった。
心がいう。どうせあきらめきれないくせにと叫ぶ。それすら無視して、柚木たてた膝に顔をうずめた。
そんな時であった。
「…どうしたの?」
激情を胸にうずくまる彼女に、マフラーとともに柔らかなテノールが耳に届いた。
主人公が少し偉そうになってしまいましたかね…。柚木は大人しそうなかっちり優等生。妖精ちゃんは頭よわそうなふわふわした子をイメージして書いてます。
次回、新キャラ登場。作者も新キャラが書けることにわくわくしてます。