仮面の騎士~アルジャンシュバリエ~
仮面の騎士の続きものです。
ですが前作を読まなくても大丈夫な仕様になっております。
どうぞ最後までお付き合いよろしくお願いします。
ただ歩く。
それだけなのにオレの後ろには赤黒い血溜まりが点々と続いていく。
銀色の甲冑。
これを見たら誰しも皆は寄ってきて、尊敬の眼差を向けた。
だが今は。
恐怖の眼差しで。
誰もが逃げていく。
それもその筈だ。
オレは自分の生まれた国の王を殺してしまった。
何故なら王はオレの大事な人を……時間を……奪ったから……。
それからというもの。
銀色の反逆者と言われるようになった。
だが。
そんなことも言われ慣れた。
だがその為にオレを討伐した際の懸賞金は多額らしくて、次々へと金欲しさの盗賊がオレへと向かってくる。
だから殺した。
殺される前に。
オレには探さなきゃいけない人がいるから。
まだこの命を誰かに渡す気はなかった。
あの笑顔を見るために。。。
――――――森の中ある小屋の中で一息つく。
廃屋だろうか。
以前気紛れに助けた男女に譲った小屋より更にボロく見えた。
所々に隙間が空いていて空が見える。
だが今日はもう疲れた。
1日で4組の野盗どもに会った。
毎回全滅にしていて、ある程度敵わないという噂がたっても構わないはずなのに、オレを狙ってくるやからは一向に減ってくれない。
それほど金が大事なのか。
そう思うと自然にため息が出た。
まぁ奴等はオレの銀色の鎧を目印として来ているわけだから、これを捨てればいいだけの話なのだが。
オレにはそれをしようと思わない理由があった。
何処かで生きている彼女が銀色の騎士の噂を聞いてくれるかもかもしれないという、淡い期待があったから。
だから。
オレはどれだけ盗賊に襲われようとも引く気にはなれなかった。
そんな想いにふけってる時だった。
ボロ屋の扉がいきなり開く。
「銀色の騎士はここか!!その者!私が討ち取ってくれるぞ!」
あぁまたか。
そう思い。扉に振り向く。
そこには何処かの騎士だろう。しっかりと装備された、髪の短い女がたっていた。
すぐにオレへと剣を向ける。
「はっ!噂に聞いていたのより腑抜けだな!お前はこの小屋を囲っている100人もの気配にも気付けぬとはな!」
100人……。
コイツらは気付かなかったじゃなくて、気付かないフリをしていたという可能性は考えないのだろうか。
それにしても………。
とうとう騎士まで動き出したか…。
「怖じ気ついて声もでないか!ここで私が今すぐお前の首を跳ねてやっても構わないが?」
「………話が長いな……」
「……何?」
「……つまらないと言っている」
その言葉と一緒にオレは女の剣を掴み軌道を反らした。
すぐ後にナイフを抜き、女の片目へと突き付ける。
「!?なっ何をするっっ!!」
殺ろうと思えば100人殺す事も出来る。
だがオレは私利私欲の為にオレを狙ってきたわけじゃなく、命令に動かされているコイツらを容易く殺そうとは思えなかった。
そのまま女を拘束して廃屋のドアを蹴破る。
依然女の目にはナイフを突き付けたままだ。
「オレにお前らが敵う筈ない……オレが逃げるまでこの女は預かる。お前らはそれを理由に戻ればいい!」
森がざわつく。
やはりな。
いくら命令だとしても命は惜しいのだろう。
女にナイフを当てたままオレはその場を後にした。
――――「くっっ……!離せっっ!!」
……もう大分離れただろう。
オレは身をよじる女を木の幹へと投げつけた。
「うぐぅあっ!!!」
女を無視して、先へと進む。
それにしても本当に疲れた。
今日は屋根の在るところで休めると思ったが、無理のようだ。
兎に角今は、もっと森の奥へ。
そう思って歩いていると。
オレの後ろを歩いてついてくる音がする。
「…………」
「………………」
「…………なんだ…?」
先程の女に。
振り向かず。そのまま聞いた。
「私はお前を殺さないといけない」
その言葉のわりには殺気等は全く感じない。
「………ついてくるな…」
「だが私はお前を………!?」
その女が何かを言う前に剣を抜いて喉に突き付ける。
「殺されたいのか?」
女の目には涙が溜まっていく。
これしきのことで。
「……殺せばいい!どうせお前を殺せなかったら殺される身!時間が早いか遅いかだけの話だ!」
強気な目でオレを睨む。
………めんどくさい。
本気でそう思って剣を鞘におさめて、先へと進んだ。
―――――着いたのは川。
女は未だについてくる。
それでも騎士達と会う前に襲ってきた野盗達の血を洗い流したかった。
銀色の兜を取る。
風が汗ばんだ頭を冷やしてくれるようで涼しい。
ふぅっと息をついていると。
「……お前……人間なのだな……」
おかしな事を言ってくる。
取り敢えず無視して鎧も一式取っていった。
「………綺麗だ……」
「………うるさい…」
「わっ悪い…!確かにおかしな話だな私はお前を殺すのにこんなこと言って……お前はちまたで、中身は亡霊や死神だと噂されているからビックリしたんだ…」
亡霊に…死神…か……。
あながち間違っていないのかもしれない。
オレは何人殺してきただろう?
彼女を守りたいと思った時も含めて今まで嫌というくらい血を浴びてきた。
……………。
考えるのも疲れた。
オレはそのまま川へと入っていく。
「!?貴様!!正気か!?お前を殺そうとしている私がいる前で水浴びとは!!」
「………殺せるなら殺せばいい」
女を気にすることなく頭から水をかぶる。
オレの言葉に怒ったのか、ヤツはズカズカとオレに近付いてきた。
「はっ!そんなに死にたきゃお望み通りにしてやるよっっっ!!」
はぁ。
やっぱりめんどくさい。
このまま殺して仕舞おうか。
女が振るう両剣をかわして、足を払う。水での戦いは馴れていないのかすぐにバランスを崩して大きな水飛沫をあげて勝手に転んだ。
「うっ……何故剣を取らない!!」
「……血を洗い流してるんだ……ここを血の川にすると流せなくなる」
悔しそうに歪んでるその顔を無視して血と汗を流すことにした。
そして川から出ると女は濡れてみすぼらしい姿になっていた。
濡れているオレは今度は乾かしたくて、周りにある枝を集めて火をつける。
服を脱ぎ、絞って枝に掛け、焚き火に寄った。
今度は濡れた布で鎧が血で錆びないように拭いていく。
「………貴様は私の事は眼中にも入っていないのだな。。」
横目でチラリと見ると女は落ち込んでいる様子で。
気にしても仕方ない。
そう思い鎧を拭き続けた。
拭き終わる頃には、服もあらかた乾いていて袖を通す。
もうすっかり夜になってしまった空の月を見るために焚き火をそのままにして川辺へと腰をおろした。
そしてあるものを取り出す。
体温のない白い花の髪飾り。
それは無情にも月明かりに照らされてキラキラと輝いていた。
冷たいその髪飾りを持っている時は彼女の姿や声を思い出させてくれる。
「………それはなんだ…?」
その問いにため息が出てしまう。
答えるつもりはない。
そういう意味も込めて何も言わないでいると。
ザリッと女は焚き火の近くに腰を降ろしたらしい音がした。
「お前は何も話さないのだな……」
女はそれ以上話そうとしなかった。
そしてオレはうとうとと。
そのまま手に髪飾りを握りながら。
眠りについた。
鳥のさえずり。
水の流れるせせらぎ。
太陽の光に誘われてうっすらと目を開ける。
そこには優しく微笑んでいる彼女がいた。
彼女は優しくオレの頭を撫でる。
それが幸せで。
今までの事は夢かうつつかと思った。
「……エトリア…君はずっとオレと一緒にいてくれるよね……?」
彼女にそう問うと彼女は優しく笑ってくれた。
そうだ。
きっとそう。
彼女はオレと離れる筈がない。
幸せの中オレは再び目を瞑ろうとした。
………ポタッ。
すると突然頬に生暖かい何かの滴が落ちる。
………………ポタッ。
なんだろう。
目を開けるとそこには。
剣で貫かれている彼女がいた。
彼女の顔は青白く、体温どころかもう生気がない。
「……ぅあっ……あぁっ……」
何を言っていいのか分からない。
心臓が強くうつ。
嘘だ。
嘘だといってくれ……!
こんな………!
こんな……は…ず………!!
――――「っおいっ!!!」
大きな声にはっと体を起こすと、そこは昨日いた川辺だった。
女がオレを見て驚いている。
「お前!かなりうなされていたぞ!どうかしたのか!?」
………………夢か……。
夢で……良かった…。
………………。
………それよりも何でオレはこの女に心配されているのだろう。
こいつはオレの事を殺すんじゃなかったのか?
………まぁどうでもいい。
今は……誰とも話す気にはなれない。
そう思い。
川で顔を洗おうと手で水を掬う。
じんわり水から伝わる冷たさが、心を安心させてくれる。
そのまま顔を洗うと、思っていたより体温が上がっていたようで気持ちよく感じた。
「お前何があったんだ?うなされ方が普通じゃなかったぞ?」
「………うるさい…何故オレを気にする……寝込みを切り殺せば良かっただろう……」
顔を拭いて、鎧をつけようとその側による。
「………私はそんなゲスな事は好かん!それにお前程なら私の殺気に気が付くだろう……!」
1人に対して100人で襲い掛かることは卑怯なことではないのか?
でも……。
…………まぁ。
その通りだ。
きっと躊躇いもなく女を切り殺したであろう。
おおかた。意識なく殺されるのは意にそぐわないそういう事か。
そんな風に思いながら。
鎧を付けていった。
何やら女も何かしているようだったが気にするのは面倒だ。
そして最後に兜を被る。
……………。
…………………。
「……………何をしてる…」
女が準備をしてオレの後ろにいた。
「私は……お前を殺すかどうかちゃんと見極めたいんだ……」
…………勘弁して欲しい。
本気でそう思う。
………仕方ない。
この手はあまり使いたくなかったが……。
そうしてオレは剣を鞘から抜いた。
「お前と共に行動する気はない。どうしても着いてくるというのならばお前を此処で斬る。」
命令に動かされている騎士を殺すのは、少し躊躇われるが足を切るくらいなら………そうすれば追っては来れないだろう。
女はオレの言葉にニヤリと笑う。
「…………いいだろう。だが!!私はお前に着いていくことを諦めないっ!!」
女が軽い身のこなしで斬りかかってくる。
早さはあるが。
やはり剣には力が無さそうだ。
オレは剣を受け止めそのまま大きく振り払う。
それだけで。
女の剣は吹き飛んでいった。
「!!あっ!!っっ!!くそっ!!」
悔しそうに何処かに隠し持っていた短剣を直ぐ様引き抜いた。
だがもう。
勝ち目は決まった。
そしたら次は足を………。
狙いを定めて剣を振るおうとする。
「何故っ!!何故お前は戦うんだ!?」
その言葉にオレの剣はピタリと止まった。
あのときの言葉が。
頭に蘇る。
『何故戦う!!何故殺すんだ!?』
迷いがあったあの時の自分の姿を。
激しく降っていた雨の音を。
血溜まりに浮いていた髪飾りを。
「私には分からない!お前は私の兵達を傷付けず、あろうことか理由を作って迄逃がした!……昨日1日だけだがお前を見て思った………お前は何か理由があるのだろう!?私はお前を殺すかどうかはそれを見極めてからにしたいんだ!」
「………殺さなかったのはお前らに殺意がまだ無かったからだ…本気で来たら躊躇なく全員切り殺していた……」
騎士として今まで王に命令されて。
自分の意思を殺して。
護りたいものだけを護るために。
人を切り殺してきた。
それなのに。
護りたいものが目の前から消えて。
そんな空っぽなオレには。
敵であろうと人を殺したという事実だけがオレに積み重なって残っている。
どんな国の騎士にも自分の意思がないのは殆んどと、分かっているから。
騎士を殺すのには躊躇いがある。
『無理してない?』
彼女の声が聞こえた気がした。
「………………。」
オレは剣を鞘に仕舞う。
そのまま踵を返して歩みを進めた。
「私はリラ・ブラウンだ」
女が当たり前の様にオレの後を着いてきて名前を名乗る。
「………オレが知る必要のない事だ」
彼女を見付けるのに邪魔になったら、今度こそ足を切りつけよう。
そう思いながら先を急ぐ。
「お前は……きっと答える気は無いのだろうな……そのままだが…お前の事はアルジャンと呼ぼう!」
名乗る気は無かった。
エトリアと初めて会った時言われた『ななし君』よりはましだったのでそれでいいと思った。
「……何も言わない…か…まぁいい私はお前を見極めるただそれだけだ……で何処に行くんだ?」
本当に五月蝿い……。
此れでよかったのだろうか。
自分の中に疑問は残るが、追い払うのは更に面倒だと分かっていたから。
そのまま無視して歩き続ける。
彼女を探すために。
空っぽの自分に彼女という光を見つける為に。。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。