8.君が女を憎いと感じる瞬間は?ミカエル?
恋愛談義。侯爵の話は時々そっちのけになりながら、クラブの皆様の会話がダラダラ続きます。
そうマルクスを手で制しながらベルナールは問うた。
ミカエルは怪訝そうにベルナールを見た。
少し顔が赤い。
「それ…言うのなんか恥ずかしいんだが。」
「…今後のことを話し合うのに必要なことなんだ。」
「本当なのか…それ?」
しぶしぶ、といった風にミカエルは口を開いた。
「・・・うーん。難しいな。初めての・・・時は・・・って
本当に君は何を聞いているのだ?…まぁ開き直って言うが
私の初めての女はスザンナだ。彼女と・・・関係を結んだとき・・・
思ったのは想像とはかけ離れていた・・・ということだな。
なんかグロイし・・・いや慣れたら割と平気?・・・って俺は何を言っている?
もう言わん。俺は何も言わんぞ!兎に角、男が女とそういうことになった時
幻滅する・・・可能性はあるとだけ言っておこう。」
「そう・・・ありがとう。ミカエル。それにしてもお前窶れたよな。
クールなお前にしては珍しくスザンナにぞっこんでさぁ。」
ベルナールは気遣わしげに言った。
「ああ・・・いい女だ。スザンナは。別にそれは肉体的な繋がりだけでは無いぞ?
精神的なところで繋がっていた・・・つもりだったんだがな・・・フラれた。
結局君は何が言いたい?人のそういう…体験のことなど聞いて・・・。
・・・というより俺そんなに普段クールなのか?ギルバートも言ってたな・・・。」
「表面はクール。中身は意外と感傷的でねちっこい奴だぜ、お前。
『明るい星の下を歩けば』・・・プフフ。ありゃ傑作。
本当にお前が作ったのか?なんか凄くエロいんですけど!
ただ・・・俺だったらもっといい歌詞付けるぜ。詩人のプライドにかけてな!
改良したくなったら俺に相談しろ!」
「あれはもういい!思い出させないでくれ!」
青っぽい顔でミカエルは答えた。
「何かあったの?」とヴェーラ。
「今日の演目だったのよ・・・彼よくやったわ。」
クスリと笑いながらルイッツァは答えた。
「と・・・兎に角だ・・・話が逸れまくってるぞ。
だから・・・ベルナール、何故俺に彼女との・・・関係について聞いたのだ?
それが侯爵の冷たさとなんの関係があるんだ!それにしても無駄な恥をかかせて!」
真っ赤になりながらミカエルはわめいた。
「いや・・・な、すまん・・・。侯爵だが・・・ヴェーラによると抱いた後、冷たくなる・・・。
つまり女のそういう普段隠された姿を見て憎いと思うのかな・・・と。だからどんな女もそういう関係になった後、無慈悲に捨てるんじゃないか?だって何の約定もしてないのに金を渡して女の気を逆撫でにしたり、冷たくなる理由があるかい?・・・俺には彼が女を憎んでいるように思える。ミカエル、女を憎いと思うことは無かったか?ほうら、聖書にもあるだろう?アムノンはタマルを抱いたら急に冷たくなったとかさ・・・。」
「コイツが女を憎んだことなんかあるわけねーじゃん!『明るい星の下を歩けば』の作曲者だぜ?」
「黙って聞いてくれよマルクス・・・。」
ベルナールは溜息をついた。
「憎いね・・・あるさ・・・。」
ミカエルは口元を皮肉げに歪めると目を細めた。
彼はそこらをコツコツと音をたてて適当に歩き出した。
フンッと鼻を鳴らす。
「・・・簡単なことさ。スザンナが私を捨てた時だよ。
その無慈悲さに何も言えなかったね。あっさり捨ててくれたものだ・・・。
それこそバラバラにしてやりたいとすら・・・そして自分も死のうかとも・・・。
俺はスザンナと付き合って分かったことがある。女性は思った以上に汚くて醜い部分がある。それは男にも言えることだが・・・以前の俺はデフォルメされた女性というイメージしか知らなかったからな。でも、楽しかった。彼女の欠点を知って尚楽しかった。
彼女が俺を捨てるまでは・・・気にならなかったさ。あいつ・・・殺してやりたい!」
「・・・・・・。」
ベルナールは同情的な視線をミカエルに寄越した。
「・・・もし侯爵が女に冷たくなる理由が過去に依るものならば・・・
・・・女のそういう無慈悲さを恨み憎んでいるのではないか?
別に肉体的な欠点が女にあろうと・・・意外と生々かったり、幻想が破られようが
怒った時のキンキン声が幾ら頭に高く響こうが、意外と強情で捻くれていても・・・
俺は確かにイライラしたさ・・・だけど憎んではいなかった。寧ろその時が過ぎ去れば
愛しすらした。俺は・・・あいつが憎いよ。捨てやがったんだから。
スザンナの顔を思い描く度、あの女を引きちぎってやりたいと思う。
・・・でも同時に抱きたいとか、傍にいたいなって思うのさ・・・。」
はああ、と盛大にため息をつくミカエル。
「・・・お、お前、もやしキャラ何処いったよ?」
マルクスは滑稽なほど目を見開く。
ミカエルはまたもや自分の薄暗い心の片鱗をポツリポツリと吐き出し始めた。
「・・・もやしは余計だ・・・。俺は元々女なんかに興味はなかった。でも彼女が俺に話かけてから俺の世界は変わってしまった。彼女が俺の・・・ベタな言葉だが・・・全てに感じられた。
彼女がいなければ俺は生きて行けるだろうかと疑問に思う時期があったさ。
まぁ、結局それでも俺は生きているよ。俺はロマンチストだが命までかけられぬようだ。」
ミカエルは自嘲的に笑った。
そして無表情になる。瞳だけがひたすら黒くあらぬところを見つめていた。
「・・・あれ以来、彼女とは会っていないが俺はあいつとあったらまた愛をみっともなく乞うだろうか・・・拒まれたら縛り付けてでも・・・・・・ああ、俺って相当やばいよな。」
がっくりと肩を落として目を覆うその姿は限りなく鬱々としていた。
「・・・・・・あ、あははっ・・・。ミ、ミカエル・・・?縛り付けるって?ナニ・・・?ナニを?
え゛・・・まさかソッチの趣味が・・・?」
ミカエルを得体の知れないものを見るような目で見るマルクス。
その様子を見てベルナールは呆れたように首を振った。
「お前は能天気だなぁ。お前恋をしたことある?女を愛したことは?
俺もそんなにはないが・・・。」
「女を愛した・・・うん。あるぜ?」
「そうか・・・じゃあその女を愛したんだな?ならミカエルが『縛り付けてでも・・・』
って言うのはなんとなく分かるよな?」
「うーん。良く分かんないな・・・。まぁ、別れちまったけど恋人はいたぜ。
その女を抱いたこともあるし、うん、体の方は中々相性は良かったな・・・結局別れようって言われちゃったけどな・・・。」
「別れ話を切り出されたのか?お前その時何って彼女に言った?」
「『そうか。別れたいなら仕方ないよな。別れよう。』」
「「うわぁ・・・。」」
ヴェーラとベルナールの呆れたような声がダブった。
「お前は・・・その女がそんなに好きじゃなかったのさ。
そっけなさすぎる・・・。」
「そうよ。あんた、やっぱりガキなのよ!もう、信じられない!
本当に恋をしてたらね、『お願いだ、頼むから別れないで!』って取り縋るものよね!」
「その時、お前は取り縋ろうとか思わなかったのか?」
「いやぁ?全然?だって自由意思じゃん。縛り付けたら可哀想だろ?」
ポカンとした風に言うマルクスにベルナールとヴェーラは溜息をついた。
「だめだ・・・。こいつ本気の恋なんかしたことないよ。俺もあまり本気出してこなかったから偉そうなことは言えないが、少なくともちょっとは引きとめようと思ったね・・・。」
「ホント・・・いつになったらあんたはお子ちゃまワールドを抜け出すのかしらね・・・。」
「なっ!?何なんだよ?お前ら!?マジでその物言いムカつくんだけど・・・。」
マルクスは憤慨して顔を真っ赤にするがその顔が図らずもきかん坊の子供に見えてしまうのだった。
「もういい・・・。お前らしいよ・・・。いっそそのままでいろよ・・・キャラが立つし・・・。
というかお前詩人なんだろ?なんでそんなんで恋愛の詩が書けるんだ?
不思議だな・・・。」
「・・・ホント。あんた確かに恋の詩も書くわよねぇ?」
「・・・あんまり書かねぇよ・・・俺自身は。でも頼まれたらなんとなく書くさ。
俺様の文才を甘く見るな・・・。経験不足だろうがなんだろうがそんなもの適当に誤魔化すんだよ!!事実皆さんからは好評だぜ?
・・・まぁ、ちょっぴり他の奴の作品を拝借する時もあるけどよ・・・(ボソッ)。」
「・・・盗作か・・・。」
ベルナールはジロリとマルクスに視線をやった。
「・・・そんなにガッツリ真似てねぇよ。バレない程度によ。全体は俺のオリジナル!
ほーんのちょこっと詰まった時に助けてもらうだけだ!」
「・・・サイテー。ガキな上に凡才なのね!」
「うるせぇ、男女。上手くいってんだからいいだろうが!
つーか俺には才能がある!絶対あるさ!」
マルクスは反駁しようとするがミカエルが床に蹲ってるのを見て言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・スザンナ・・・・・・ボソボソボソ・・・。」
「重症ですね・・・。もう、立ち直ってくださいよ・・・。」
ダフネンがミカエルを抱き抱え近くの椅子に座らせる。
「ああ・・・すまない。俺はいつこのトラウマから抜け出せるやら・・・。
ところで何を話していた・・・?侯爵の性癖についてだったな・・・。いつの間にか変な話になっていた・・・。他に意見は?」
読んでくださってありがとうございます。
彼らの性格は以下です。
ギルバート…少しマゾっ気がある誠実な青年。キレると普段からすると考えられないような行動をする。
ミカエル…基本的に陰気。哲学者のように物事を突き詰めて考える性格。内面はかなり繊細で立ち直りが遅く、引きずるタイプ。友達思い。
ルイッツァ…強気だが、デレる。ツンデレ。ギルバートを度々貶しているが、それは彼女なりの愛情表現なのだ。
ベルナール…思慮深い性格。物静かで皆に信頼されるタイプ。
マルクス…口の悪さは天下一品。ヴェーラをこけにして遊ぶのが大好き。人の感情を逆なでにしてマジ切れ一歩手前で楽しむのが彼の流儀。ボケ担当になりがち。
そして、作者の性格に一番近いのが、こいつwww
ダフネン…癒し担当常にフワフワしている。可愛がられキャラ。