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3.おー、今度は何やっているんだ?バカップル?

陰気系キャラのミカエル。内面は繊細でかなりのロマンチスト。

こう見えてボケ担当だったり。

その時、キイィとひしゃげた音がする。

扉の向こうから何者かが入ってきた。

その人物の黒髪はボサボサで、服もなんとなく煤けている。その目は疲れたように暗い色を湛え、その周りは若いくせに少し落ち窪んでいる。

不幸にとり憑かれた様な・・・と表現するに相応しい人物だった。

「おー、今度は何やってるんだ?バカップル?」

ルイッツァとギルバートは飛び上がった。

「ノックくらいしなさいよっ。この馬鹿!」

彼女の頬はボオッと火を噴いたように赤くなる。

闖入者は彼らをバカップルと呼び揶揄する人物・・・ミカエルだった。

ミカエルは作曲家志望の気鋭の若手でギルバートとは芸術家を目指す

青年達のクラブで彼と知り合ってから意気投合し、先ほど述べたように

一緒に部屋をシェアする関係にまで至っている。彼は生計を立てる為ルイッツァの家の酒場でピアノを弾いているのだ。

高尚なる音楽を酒場の酔っ払いに聴かせるなんてと良く愚痴をこぼす彼はプライドが高く、根っからの芸術家だが、悲しいかなそんなことを言ってられないのが世の中というものだ。

金が無い・・・それはすべてにおいて致命的だ。

彼は皮肉げに笑った。水を差してやろうと言わんばかりの表情だ。

彼はヒタとその目を倒れているギルバートの髪に留めた。

「・・・青い絵の具がついてる。かなり間抜けな感じだ。

その他色んなところに色んな色がついている。」

彼は自分の髪を指差し示した。

「・・・ありがとよ。・・・間抜けは余計だ。」

ギルバートは渋い顔をして起き上がると、倒れた椅子を元に戻し座りなおす。

そして水差しの傍に置いてあったタオルをとると絵の具を拭った。

「・・・それ、筆拭くやつでしょ?汚いわねぇ。」

ルイッツァは顔を顰めた。それもその筈・・・そのタオルには薄く様々な色が付着していた。

絵の具の色を変える時筆を水差しで洗い、それで拭くのだ。

水で落としきれなかった絵の具がそのタオルには滲んでいた。

恋人のずぼらさに呆れつつルイッツァは仕方ないわねぇ、といった感じで小さく笑った。

「・・・私、下からタオルを取ってくるわ。」

「ありがとう。ルイッツァ。」

感謝しなさい、この馬鹿。と軽口を叩いてルイッツァは扉の向こうに消えた。

恋人が醸し出す甘い空気に顔を顰めていたミカエルの顔から剣が消え、柔らかい表情になる。ミカエルはふぅ、と嘆息すると、

「ああ、すっきりした。やっぱり、女はいない方がいい。」

と宣った。

「振られたからってそのイライラをぶつけてくれるな。ミカエル。」

ギルバートは幼稚な友人の言動に笑いをこぼした。

「・・・女なんて不幸の元だぜ。恋なんて幻想。愛なんか霞のようなものだ。夢から醒めたら苦痛、悔恨、苦悩・・・。

ああ、なんで世の男女はお互いを

求め合うのか。そして、何故結婚をし、子供を得、世に埋もれ、死んでいくのか・・・。

感覚的な肉体の世界に真の美しさや幸せはあるのか・・・?」

懊悩するミカエルの醸し出すオーラはどんより黒い。

彼がいるだけで部屋の一角が暗くなった様に感じる。

ギルバートは溜息をついた。

「・・・司祭様か哲学を論じる学者にでも聞いてくれ給え。・・・でも恐らく答えは得られまいが・・・。

誰にも分からないさ。それにしても・・・どんだけ落ち込んでんだよ。」

「・・・ああ、スザンナ・・・君は何故去った・・・。」

苦悩に顔を歪め、ミカエルは頭を覆った。

「・・・去られる要素はたくさんあるけど、まずはお前の陰気臭さかな。」

「っ・・・。」

「・・・その他にも・・・これは僕にも当てはまるけど・・・女は金が好きだからな。」

自虐的にお互い笑い合う。

「ミカエル、俺らと金ってのは最も似合わない言葉だ!」

「ああ、全くだ。」

「いい女が欲しけりゃ、稼げっ!ってこった。」

「無理だな。」

「無理・・・だな。」

いい女・・・ルイッツァがいるが、ここは流れに合わせてギルバートは肯定しておく。

もし、ここに彼女がいたら「何よ?私はいい女じゃないってわけ?」と反駁されそうだと思いながら。

しかし、彼の返答に機嫌を良くしたミカエルは段々声が大きくなっていく。

「おお、無理だとも。ん?でもお前にはルイッツァがいる。

・・・変わった奴だな。ルイッツァは。貧乏人のお前が好きだなんて。

ルイッツァは少々気は強いけど・・・いい女じゃないか、お前にはもったいない。」

「ああ、彼女はいい女だよ。」

「ちぇ、一人だけいい蜜吸いやがって。まぁいい。兎に角、我らが金持ちになる可能性

は皆無だよ。その代わり、我らには夢がある。俺は音楽家に、君は当代きっての

画家になるのが夢なんだろう?私はモーツァルトにでもなるか・・・。」

その言葉で二人共爆笑した。

「恐れ多いわ、馬鹿。」

「フフフ、そうだな。だが夢はでっかく、だ。どうせ短い人生だ。

夢と金の両立は無い!」

おどけて笑うミカエルの調子に乗せられてギルバートも段々テンションが上がってきた。

「そうだとも、友よ。たとえ貧乏でも明日の糧と愛さえあれば俺らは幸せだ!」

「後は、女がいればな。」

「あれ?女なんか不幸の元凶とか言ってたのはどこのどなた?」

「・・・撤回だ。」

「ん、じゃあお前が恋人見つけるの手伝ってやるから機嫌を直せ。」

ミカエルは思い直したようにフム、と頷いた。

「・・・まぁ、そういうことなら後でクラブに行こう。

・・・でも今の俺にはスザンナ以外目に入らんから所詮無駄な努力になりそうだがな。

ああ・・・でもその前に、お前に聴かせたい名曲があった・・・。

なぁ、ギル。聞いてくれ給え。『絶望のアリア』が完成した・・・ついさっき

天からインスピレーションが降りてきた。」

ギルバートは表情を凍りつかせた。

「スザンナに振られてからというもの、お前ってば、インスピレーションが降りてきたとかいっていつも暗い曲ばっかりじゃないか。前作は『狂気のソナタ』前々作は『苦しみとと悲しみそして懺悔の三重奏』・・・。もう・・・神はお前を欝にして殺す気か?」

「だろうな。多分神は俺に悩め、と命じているのだ。」

「・・・後で聞く。なんかテンション下がりそうだから。」

「・・・俺の自信作なのに。」

少し肩を落としたミカエルはそういえば、とギルバートに訪ねた。

「お前ら俺が来る前何やってたんだ?修羅場っぽくなってなかったか?」

ああ・・・俺が彼女に襲われていたシーンのことを言っているのだ、と彼は思いを巡らす。

そして会話を遡って目下の大問題に行き着いた。

「・・・そういえば、大変なことが起きたんだ・・・。聞いてくれよ・・・ルイッツァがあの素行の悪い侯爵様に目をつけられてしまった・・・。」

「・・・え?あの女たらしで有名な?あの人?」

ギルバートは眉根を寄せ、目を細めた。滅多に顔を顰めない彼がこんな表情をする時は内心憤懣遣る方無いのをミカエルは知っていた。

「・・・あの侯爵はルイッツァを・・・愛人にする気だ。

俺とおそらくルイッツァが恋仲だということを知ってるんじゃないか?」

「・・・まさか。」

「・・・侯爵は人の女が大好きなのだそうだ。街中の奥方を漁ってはその背徳感に酔っている。

・・・時々懇意にしてる商人の家に納品に行くとそんな噂が囁かれていてね。街中の男は自分の女を侯爵に寝取られて泣き寝入りしているよ。そんな恨みを買ってまで手に入れた女をその…した…後は捨てる・・・無関心になるらしくてさ。寝ること自体を目的に女に近づくのだから嫌な奴だ。人の恋人を穢して楽しいのかね?後ろからいつかバッサリ斬られるんじゃないか?本当の意味で。もしかしたらスザンナは侯爵に寝取られたんじゃ?」

ミカエルは真っ青になった。

「それはない。スザンナはそういう女じゃない・・・筈だ。俺が嫌になったから去ったんじゃないのか?それに大丈夫さ・・・多分・・・お前が魅力的ならルイッツァは見向きもしない。

大体、侯爵は歳でお前に勝てないじゃないか。」

侯爵は壮年の所謂オヤジと言われる人種だ。

いやいや、とギルバートは友人に対して反駁した。

「いや・・・彼ね・・・ルックスはいいんだよ・・・ルックスは。彼の肖像画見たことない?

女達の中では結構出回っているんだよ・・・ファンが多いもんで。冷酷そうなところがいいんだと。変わってるよなぁ…。そして聞いたところによると、彼は加齢臭がまったくしないどころか・・・爽やかでさえあるらしい。それに加えて侯爵という高い身分。もう忌々しい限りだな。」

話していくほどに顔が暗く歪んでいくギルバートである。

「・・・お前の爽やかさは今半減したがな。」

それを見ている友人は顔を引きつらせた。


エロ談義許してください…どぎつい時もあるけど…あっけらかんと書きたい!

読んでくれてありがとうございます。

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