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18.間話_それを先に言ってくれ…。

短編終了回。

舞台がまた反転し、王子の部屋。

「ウィリアはどこにいるんだ!見つからないじゃないか!」

王子はそこらの物を見境なく滅茶苦茶に壊しまくる。

目は血走り、表情は狂気じみていた。

「老婆・・・ウィリア様は・・・消えました・・・。牢番がうっかり鍵をかけ忘れたまま

酒を飲みに行ってしまったようです・・・。」

「・・・馬鹿な・・・鍵をかけ忘れる馬鹿がどこにいるのか・・・。

その牢番は今どこにいる?」

アルベルトは若干怯えながら答える。

「牢に繋いであります・・・。」

「・・・拷問して、ウィリアの居場所を吐き出させろ!それから殺してしまえ!」

「・・・無駄です・・・。恐らくもう・・・彼女は・・・。

その牢番は慈悲をかけたのではないですか・・・。」

「ウィリアが死んだら俺も・・・死んでしまおう!

あのウィリアにそっくりな女は誰なんだ?そういえばあの女は何処だ!

あの女を捕らえて殺すのだ!」

ヒィとアルベルトは声を漏らした。

その表情は罪を暴かれるのを恐れる罪人のような目だった。

「知っているのか?アルベルト?知っているんだな!言え!

あの女は誰だ!?」

「・・・あ、あの女はとっくにいないでしょう・・・。

探しても煙のごとくすり抜けていくに違いない・・・。」

アルベルトはガタガタ震えながら歯切れ悪く話しだした。

「あれは・・・魔術師・・・マスィールです・・・。」

「マスィール・・・とは私に偽の予言をした魔術師か?

あの女のせいで私は女から避けられた・・・。

ウィリアは別だった・・・私を怖がらずにいてくれたのに・・・私ときたら・・・。」

ああ、と絶望の呻きをあげ椅子の背にくずおれる王子。

「・・・マスィールは・・・王子様のことを・・・愛していたのです。」

アルベルトはギュッと目をつぶった。

「(・・・ああ、話してしまった。全てが終わる・・・。)」

その呟きを耳にした王子はヒステリックに笑った。

「あ・・・あははは・・・それで?だから私に予言を贈り、ウィリアを呪ったとでも?

なんておぞましい・・・それじゃあ、すべてを突き詰めれば私のせいなのか・・・。

お前はそれをなぜ知った?」

「・・・リュラン。あの子の愛を得るためにあの人に薬を・・・頼みました。

でも・・・私は彼女があんなことするとは思わなかった・・・。」

「・・・何の薬だ?」

「王子様に・・・変身する・・・薬です。」

「ひ・・・卑怯な・・・。お前は私の姿であの妖精を誑かしていたのか?

お前の心根は・・・悪そのものだ・・・。」

心底蔑んだ声で返す王子。

アルベルトはその言を聞くと黙り込んでしまった。

重い重い沈黙だった。

「・・・れ。」

「何と言った?」

「・・・黙れと言ったんだ!」

アルベルトは涙で濡れたその目で王子をキッと真っ直ぐに射抜いた。

「お前に何がわかる!

お前の姿を借りなきゃならない悔しさが分かるか?

自分自身の姿で彼女の前で笑えない惨めさや自分の不甲斐なさに腹立たしさを

感じても一歩も踏み出せない俺は・・・なんて勇気のない男だ!

だけどその自信を奪ったのは誰だ?・・・お前さ!お前は美しい、地位もある!

生まれながらにして天から全てを与えられた!俺は・・・一介の平民で平凡で取り柄もない!努力してもお前には届きようもないさ。愛する女を見つけても初めからその女はお前に惚れていた・・・。彼女を抱けば抱くほど思い知らされる。彼女はお前しか見ていないと!

彼女は俺の本質に気づかない。俺の姿形に騙されて・・・そう仕向けてしまった俺の愚かさ!

俺はな・・・お前のそばにあって俺自身の存在意義を見失ってしまったんだ・・・この俺にどうしろというのだ!」

憎しみ怒り恨み・・・そして嫉妬が奇妙に入り混じった叫びだった。

「・・・無礼者・・・。お前死ぬ覚悟は出来ているんだろうな・・・。

お前にどんな傷があろうと・・・ウィリアをその女と結託して苦しめたんだろう!

私にはお前の苦しみなどどうでもいい・・・死んでしまえ。」

「・・・貴方だって・・・リュランを騙した。貴方だってウィリア様に恋焦がれた・・・。

私の気持ちが分かる筈なのになんて酷い言葉だ・・・。」

「私にはお前のことなどどうでも良いのだ・・・。

お前だって私のことはどうでも良かっただろうに・・・。

かつてお前は信頼の置ける従者で・・・私の友のような・・・近しい者だった。

でもお前は私のことをそうは思ってはいなかった。

お前にとっての私は・・・利用できるただの馬鹿。

そして・・・リュランが我々の関係を決定的に壊したのだ!

ああ・・・呪われた妖精よ。何故お前は私に愛を告げたのだ?」

我に返ったのかアルベルトは軽く頭をふると袖で乱暴に涙を拭った。

「・・・暴言を吐いて申し訳ありません・・・。

・・・王子様は真っ直ぐで天真爛漫な方です。

私はそれを愛し・・・憎みもしました。私に無いものを兼ね備えた方。

私はいつもあなたを羨んでいた・・・。」

「・・・私はお前を許せない。もう遅いのだ・・・我々の絆は切れてしまった。」

「・・・もう、遅い・・・そのようです。どうぞ憎んでください・・・。

明日になったら私は・・・王子様の言う通り死に向かいます・・・。

ですがそれまでは今までの縁にかけてお願いです・・・私を月の塔へ行かせてください・・・。」

「彼女に会いにいくのか?」

「そうです。・・・私は己の罪を明かしに行きます。」

「それがいい・・・全てを終わりにしよう・・・。」

王子は疲れたように笑った。

「会いに行け。そして・・・戻ってくるのだ。

俺はあの庭で待っている・・・。それからリュレンネルを彼女に返しておいてくれ。」

王子は懐から額飾りを取り出した。


月の塔の階段を登る孤独な足音。

その音を聞いて今日も彼の訪れを知るリュラン。

「まぁ・・・あの方がまたいらっしゃった。

とうとう結婚してくださるのだわ・・・。」

彼女はにっこりと鏡の前で微笑んでみる。

「私・・・美しいかしら?あの人は私を愛している筈・・・。」

__トントントン・・・。

ドアノッカーが鳴らされる。

踊る心を抑え胸に手を当てたリュランは扉を開ける。

そこにはいつもと変わらない王子の姿があった。

しかし彼は俯いて彼女の顔を直視しようとしない。

「・・・王子様?どうなさったの?」

リュランは彼に笑いかける。

いつもだったらすぐに抱き寄せて項に優しくキスをする彼なのに。

「・・・リュラン、すまない・・・俺を許してくれ・・・。」

憔悴しきった彼の姿に何事か異変を感じたリュランである。

「王子様・・・何があったんですの?話してくださいな・・・。」

光を弾く真っ白な手が彼の手をとり、

部屋の中央の円卓に据え付けてある椅子に導く。

椅子は一脚しかなかった。

「君が座れ。」

「いいえ、私は立っております。」

「君が座るのだ・・・。」

そう言うと王子・・・アルベルトはリュランの肩を掴んで強制的に座らせる。

「君に・・・謝らねばならないことがある。」

「まぁ、そんなにひどいお話ですの?」

「ああ・・・ひどいよ・・・君は俺を憎むんだろうな。」

アルベルトは呟くように言うと一息つく。

そして、言ったのだ。


「・・・すまない。俺は・・・

君の愛する王子じゃないんだ・・・。」


数泊の間、場に静寂が満ちる。

リュランは彼の言を冗談だと思ったのでコロコロ笑った。

「・・・うふふふ・・・。

いきなり何をおっしゃいますの?貴方様は確かに王子様ではありませんか?」

「・・・違う!俺は王子じゃない!俺は従者のアルベルトだ!」

王子・・・アルベルトは怒鳴るように言う。

「・・・何をおっしゃいます・・・信じられませんわ!貴方の姿は・・・。」

「そう。この姿は確かに王子様のものだ・・・。

俺は・・・君に近づくため魔法を使ってこの姿に・・・。」

その言葉を聞くとリュランは座り込んでしまった。

「い・・・いえ、嘘よ・・・。私を抱いたのは貴方でしょ?

貴方は王子様でなくてはならないわ・・・。貴方は王子様でしょ?そうだと言ってよ!」

「・・・すまない。」

「じゃあ、貴方は・・・」

驚愕を張り付かせた瞳は大きく見開かれている。

罪悪感でアルベルトは身悶えした。

「(そうにかなってしまいそうだ!)俺は・・・従者のアルベルトだ・・・。」

「・・・誰?」

この彼女の言葉に立ちすくんでしまうアルベルト。

彼はクシャッと顔を歪めた。

「(・・・あの時、君のことを俺は見ていたのに

君は俺の姿など眼中になかったんだね・・・。)

君が空から舞い降りて王子様に求婚した時、俺はその傍にいた。」

「・・・覚えてないわ。何故貴方はそのようなことをしたの?

私をからかいたかったの?」

「君は人の心の機微に相変わらず疎いんだね・・・。

私は君を愛していたのさ・・・。心の底から惚れたんだ。」

「・・・そんな戯言聞きたくないわ!私は光の妖精の姫!

人間ごとき・・・しかも従者ですって?冗談じゃないわよ!

王子様ならいざ知らず・・・そんな姿でいないで!

どうしてその顔で私に愛を囁いたの!?」

「・・・俺に自信が無かったからさ。君は綺麗で王子は神々しい程秀麗で・・・。

俺は君に愛される自信なんかない。・・・俺は君の前では今でも姿を解けずにいる。」

アルベルトは悲しげだが全てを打ち明けて少しホッとした顔をした。

「本物の王子様は何処なのよ?」

「彼なら・・・婚約者を失って失意のどん底だ。」

「・・・婚約者って?彼は捨てたはずじゃない!」

リュランは激しくアルベルトの肩を揺さぶった。

「彼はね・・・婚約者殿のことを心の底から愛している。

君に向ける心なんて無い・・・君に近づいたのは

ただ君の額飾りリュレンネルが欲しかったからだ。

そんな王子の欲望を利用して王子に君を口説かせて

君を人間にしてしまったのは俺だ・・・。

君がリュレンネルを王子に渡し、ただの無力な人間となれば

君は王子に捨てられる・・・その後俺が口説けば、君は衣食足りない故に

俺について行くしかないとそう考えた。

・・・浅ましい考えだろう?」

「・・・・・・。」

「・・・俺は王子が君を捨てた時点で君を貰い受けようと思った。

だけど王子は君に自分の罪を告白するのを躊躇ったんだ。

彼は最初君に会った時、婚約者を侮辱されたと思っていた。

だから騙すことに躊躇が無かった・・・でも改めて会った時、

君が王子の妻になることを存外喜んでいるのを見て・・・きっと良心が疼いたんだろう。

彼は心を痛めてずっと部屋に引きこもった・・・そうすることで現実から逃れた。

俺なんかより王子はずっと繊細で純粋な心の持ち主だったのだ。

王子は君に真実を明かせない・・・そうなると俺は君にどう近づくか・・・。

俺は王子に頼み込んだ。俺に任せてくれって・・・。卑怯な考えだ。

王子の心の弱みにつけ込んで俺は自分の思うとおりにことを運んだ。

王子は俺がこの塔に立ち入りするのを許した。君がこの俺に心移すのを期待して。

そして俺は君にいざ会おうとすると急に自信が無くなった。

君が愛しているのは王子であって俺ではないという事実に気づいたんだ。

君がもし王子に捨てられていれば俺は君の生活を保証出来るから力で縛れるけど、

君の自由意思で俺を選んでくれる保証なんてどこにも無かった。

だから・・・俺はこの姿を借りることにした。この姿でなら君の愛を受けれるからね。

いつか君が俺の中身の部分・・・本質を愛してくれるようになったら君に打ち明けようと

そう自分に言い訳して・・・愚かな考えだった。俺は正々堂々と君と向かって自分の運命を受け入れるべきだったのだ・・・自分は変えられないのだから。俺は結局のところ俺自身を受け入れられない愚か者でもある。」

「・・・最低よ。貴方達は最低だわ・・・。」

そう言ってさめざめと泣くリュラン。

「・・・すまない。」

すまない、すまないと繰り返すアルベルトはリュランを見ようとせず、

ただ項垂れているのみだった。

「リュレンネルは…返す。」

アルベルトはそう言って額飾りを彼女に差し出した、が、

「要らないわ!…そんなものは今更私には使いこなせない。」

彼女は力なく額飾りを押し返し、慟哭した。

「・・・貴方の本当の顔は・・・。」

リュランは悲しげに眉を寄せながら問う。

「・・・君に俺の本当の姿なんて見せられない。

俺は・・・君の前では王子なんだ・・・永遠に。

それが俺の罰・・・そして君への贖罪だ。」

そう言ってアルベルトは笑った。

「君がもし、俺の本当の顔を見たいと思ってくれるなら

明け方に君が王子様と会った庭に来てくれ。

君がどう突っ返そうとも…リュレンネルもそこで待っている…。」

彼女の顔を一度名残惜しそうに振り返り、アルベルトは扉から出て行った。


場面は変わり庭園にて。

アルベルトはしっかりとした足取りで自らの死に場所に向かう。

先に来ていた王子は腰掛け愛しげに四阿の景色を見ていた。

「俺とウィリアが見た景色・・・。」

空には月がかかっていた。

背の高い糸杉がその月に口づけをするように体を傾がせていた。

「・・・まるで何時か別れねばならない恋人のように

気高い糸杉は美しい月に寄り添う・・・。」

一人ごちると王子は目を閉じた。

足音と共にアルベルトが近づいてきた。

彼は王子の外見をしている。

「・・・本当に私そのものなのだな…彼女はどうだった?」

「・・・詰られました。そして涙を流していました。」

「リュレンネルは返せたのか?」

「…いいえ。受け取ってもらえませんでした。」

「そうか・・・。本当に彼女には悪いことをしてしまった。お前は最期までその姿で彼女に会ったのか?本当の姿を見せてくれば良いものを。」

「…明け方にここにやってくれば…私の本来の姿を見ることが出来ると伝えました。その頃には私の薬も解けている筈です。見るかどうかは彼女の意志次第です。」

「お前は・・・最期まで逃げるのか…。」

呆れるというよりは悲しそうな顔で王子は問う。

「ええ…これは彼女への私の贖罪なのですよ。」

「お前は…お前は…俺に勝てないと言った。

最期に俺と試合をしよう。…果たして本当にそうなのか?死ぬ気でかかって来い!」

王子は泣き笑いのような表情で剣を抜いた。

「昔のように…な。」

「王子様…ありがとうございます。」

アルベルトは涙を流して笑った。

「…私はあなたを尊敬していました…。」

「私も…お前のことが結構…好きだったぞ…。」

二人がお互いに剣をぶつけ合うところで舞台は暗転する…。



「…あの人は明け方に王子様と私が会った庭に来い、と言ったわ。」

リュランは悲しげに歌った。歩き方もふらついている。

「私を騙したあの人が憎い。」

「でも…あの人の腕は温かい…あの人が王子様だったら良かったのに…。」

立ち止まりリュランは座り込んだ。

「…怖い…あの人の本当の顔を見るのが…。」

「私は全てを失ったのに…全てを。」

「でも…行かなくては。あの人の本当の顔を見ないと…見なければ…。」

何とか彼女は四阿に辿りつく…そして確認するのだ。

二人が死んでいる様を。

妖精は衝撃のあまりへたり込む。

一人は彼女が良く知る愛しい男、王子だ。

もう一人は…知らない男だ。

「これが…これが…貴方…。」

「確かに…確かに王子様とは比べ物にならない凡庸な容姿ですわね…。でも…私は貴方と直接話がしたかった…。」

涙を流しながら妖精は死んだ男二人に口づけた。

アルベルトの手にはリュレンネルと血塗れの剣が握られていて、

王子の手は整然と組まれていた。

「さようなら…愛おしい人。」

リュランはリュレンネルをアルベルトの額にかけると静かにその場を立ち去る…。

舞台は暗転して幕が下りた。



さめざめと皆が泣いていた。

「まぁ…この前見たゴキブリ伯よりは遥かにマシだったわ…。」

ルイッツァが嗚咽を漏らした。

「…相変わらず全く明るくなくて、暗いけど。」

「恋愛主体ではなくて罪がテーマですからね…。タイトルとの落差は半端ないけれども。」

ダフネンが目頭を押さえている。

「あのルザネリーケがまともに人を感動させる話を書くとは思いませんでした。」

マルクスがフムフム、と同意した。

「でも、俺が一番見てて良いと思ったのはあの王子の暴力シーンだね。あれは容赦なかった!凄い演技力というか…見てて面白い。」

「…あんた、ちょっと人様と感覚ずれているわね。さすが低能。

…あ、見てカーテンコールよ!」

幕が上がりゾロゾロと出演者が出てきてお辞儀をする。

その中でも一際輝いているのはやはりアデリーヌとアントニオだった。

しかし今回は二人のツーショットは見られず、アデリーヌはアルベルト役の俳優と、

アントニオはウィリア役の女優と手を繋いでいる。

「今回は二人とも影が薄かったな…。」

ボソリ、とベルナールが言う。ミカエルが応える。

「新人売り出し中だからだろう。それより皆、舞台裏に行くぞ。

カーテンコール中に先手を打たねば。」

「そうね。待たされるのは嫌だし。」

ルイッツァも慌てた風に立ち上がった。

彼等はいそいそと出口に向かう。

彼等はカーテンコールに客が釘づけになっている今が穏便に

舞台裏に入れるチャンスだと思ったのだった。

なんせ、上演後はファンが舞台裏に殺到する。

それに続く他の面々。

「…もう、先手ではないかもしれませんよ?」

笑いながらダフネンが呟いた。

「ダフネン…こんな早くに張り付いている奴らがいるのか?」

マルクスが呆れたように訪ねた。

「…俄かファンは舞台裏で洗礼を受けます。というか中には劇を見ないで最初から舞台裏に張り付いている奴もいます。」

「それって本末転倒じゃねーか…。」



ミカエルとルイッツァは呆気に取られている。

舞台関係者以外立ち入り禁止という文字を無視し、

控室に続く扉は蹴破られんばかりの有様だ。

名だたる貴族様が大勢で牽制し合っている。

やれ、俺は伯爵だ、やれ、俺は公爵だ…と、

互いのステータスを言いあって退け退け言い合っているのだ。

彼等の目的は舞台裏の数分レベルの挨拶であった。

その数分のために命を懸けているのだ。

そしてこの数分が彼等の明日の生きる糧になる。

目当ての俳優を近くで見るだけでコミュニティーの英雄になれるという者も。

それを遠目に見ながらミカエルは一言。

「…なんという混みようだ。」

「普段舞台裏とか行かないで帰っちゃうからこんな風になっているだなんて思わなかったわよ…誰か来てくれないのかしら。」

ハァァとルイッツァが溜息をついた。

「これが舞台裏の洗礼ですか…ダフネン先生。」

ベルナールも引いている。

「あ、皆さん…僕、舞台関係者の人呼んできますよ。」

ダフネンが言った。

全員の視線を受け、ダフネンが照れながらも、少し自慢げに笑った。

「えへへ…知り合いがいますので。」

「それを先に言ってくれ…。」

疲れたようにミカエルが宣った。


不幸な時も善悪を考えて動かなければ自分が後で苦しむのかもしれませんね。

コンプレックスは人を小さくするけど、負けてはいけないと思う日々です。


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