15.間話_私の理想は妖艶な美女!何か悪い?
信じられないラスボスが試験勉強中の私に降臨する。
なんとその名は…キリスト教音楽!
いやいや違うだろう?ふつうメインの教科ってあるじゃない?
サブゼミですらない教養科目のあなた様が何故ラスボスの地位に居座っているのですか…立ち退け、サタンよ。イエス様…お恨み申し上げるぜ…。悲しいことにまだレポートはメインディッシュに到達しとりません。さっさとデザートをば。
「・・・なぁ、マスィール殿。頼む。高くつくのは分かってはいるが・・・。」
アルベルトはテーブルを挟んで向かい側にいる人物に頭を下げる。
彼は今名うての女魔術師の館にいて、願い事を彼女にしている最中だった。
「・・・いいわよ。別に。確かに手間のかかる薬ではあるけれど、
安く出してあげる。その代わり、あんた必ずリュランとかいうおめでたい妖精を
落としなさいよね。あの王子は私のものなんだから・・・。」
マスィールと名乗る女性はギリリと歯ぎしりした。
その様子に若干引いたのはアルベルトの方だ。
「・・・マスィール殿・・・もしかして貴方は王子が好きなので?」
フンッ、と彼女は鼻を鳴らした。
「あのねぇ、私は王子が生まれた時からあの子に唾つけてんのよ!
・・・あの王子が生まれた時、その容姿の秀麗さが大層評判になったことがあってだ・・・。
私は初めて噂を聞いた時は、赤ん坊なんかどいつもこいつもゴリラじゃないって
馬鹿にしていたのよ。まぁその時、暇だったし王城内の王子でも見てやろうかって気になって王城に出かけていったのよね。んで、王子について予言をしてやるから中に入れろって王宮の奴にゴリ押ししてみたら難なく入れちゃって・・・まぁご尊顔を拝したわけよ。
そしたらすんごく愛らしい赤ちゃんがそこにいたわけ。そこで私は決心したの。
・・・この子が成長したら絶対喰ってやるって・・・勿論食用の意味ではないわよ。」
「・・・。」
アルベルトは目の前の若く美しい女魔術師を凝視した。
「・・・この前鷹になって空を飛んだ時、王子の庭まで飛んでいったら
まぁあの子大した美丈夫になったじゃない?・・・もうすぐ喰い頃だと思うのよね。
それなのに鳶が二匹・・・目障りなのよ。私が何の為にあの時予言という風評被害を残していったと思ってんのよ。油揚げは必ず回収するわよ、私は!」
「・・・貴方一体幾つなんですか・・・そして王子に想いを寄せて近づく女は死ぬって予言は本当なんですか・・・。」
「・・・いいえ?嘘よ?もし本当だったら、私が死んじゃうじゃない!
私は王子を喰ってみて良かったらそのまま王子の妻に収まろうかと思ってるんだから・・・。」
「勝手な言い分ですね・・・。」
「いいじゃない。恋は勝手なものよ。・・・だから、あの予言は嘘っぱち。
力ある者_魔術師なら私同様未来を覗けるから、これが嘘の予言であることはとっくにバレてるんじゃない?でも王子に近寄る数多の女を退けることは出来たって自負はあるわよ?いくら王子が予言を否定しても普通の女なら怖がるでしょう?というわけで今まで私の美味しいスイートベイビーちゃんを攫おうとする不届き者はいなかったのに・・・あの糞泥棒猫ども・・・。」
「ひっ。」
思わず声を漏らすアルベルト。彼の目の前の女魔術師は歪んだ表情でアルベルトを睨んでいた。
「お前!」
「はい!」
「考えれば考える程ムカつくわ!
リュランと必ず結婚しろ!もしくは殺してしまえ!」
マスィールは激昂した。
「はい。絶対結婚します!貴方に言われるまでもないことだ・・・。」
ビビった様子で落ち着かなげに視線を彷徨わせるアルベルト。
「あんたはリュランと結婚する・・・私はあのメス猫のウィリアを始末しようっと・・・。」
「え、ウィリア様を・・・始末するんですか・・・?殺すってこと?」
「・・・いけない?薬だしてやらないわよ?」
ジロリと睨みつける。
「・・・ああ、すみません・・・。」
「はい、決まり。えーと、薬はっと・・・。」
彼女は席を立つと戸棚の薬瓶をゴソゴソとより分け始めた。
彼女は目的の物を見つけるとアルベルトに差し出す。
それは小瓶で中に緑の液体が一杯に入っていた。
「・・・はい、これが『姿変え』の薬。なりたい相手の一部を入れて飲みなさい。」
「一部って?なんかのネタですか?」
「そう・・・ネタね。なんなら垢でもいいけど?」
「・・・。」
「・・・ほら、何か質問ある?」
「ありませんよ・・・。もう私は行きますからね・・・。」
そう言うと急いでアルベルトは急いで館を後にした。
「随分色っぽい魔女…悪女にぴったりだわ…。」
ルイッツァが感心したように言った。
「それを言うならアルベルト役の人も中々演技が上手よな。」
ベルナールが相槌を打つ。
ダフネンが少し笑いながら言った。
「…二人ともアデリーヌとアントニオと同じ劇団の人で、新人ですよ。
レベッカ・スワニスさんとカル・ロッジオさんです。準主役って感じだったんですけど、今回は彼らの主役級デビューと言ったところでしょうか…。舞台裏挨拶出来たらしたいですね…なんせ見たことあるだけですから。」
「…なんか先が楽しみね。」
ヴェーラが目を輝かしている。
ほおお、と頬を染めて。
「私、ああゆう妖艶で大人な女性が好きなのよ。」
「…理想高すぎ。一億光年先だ。」
「なんか聞こえたけど…幻聴かしら?私の理想は妖艶な美女!なんか悪い?」
「おい、ヴェーラ舞台を見ろ、舞台を。」
ミカエルが焦ったように促す。
「まあ、王子様ではありませんか・・・。あれから随分お待ちしていました。」
「リュラン殿・・・相変わらずお美しい。・・・いかなる光、月すらも霞んでしまうでしょう。」
アルベルトは早速王子に扮し、リュランが閉じ込められている月の塔の一室にいた。
「・・・まあ、お上手ですこと。私がそんなに恋しかったのですか?
でもその割には・・・姿を見せては下さいませんでしたね。」
「・・・・・・あ、ああ。少し忙しかったのだ。」
「いいのです。会いに来て下さって嬉しいわ。あの呪われた予言はどうなったのです?」
アルベルトは少し面食らったようだ。王子がついた嘘を忘れていたのだ。
「・・・あ、あれは・・・その・・・予言者を呼んでもう一度私の未来を読ませた
ところ・・・とんでもないでまかせだったらしいのだ。だから結婚しても大丈夫・・・らしい。
全く・・・どんなエセ予言者が占ったやら・・・。
(マスィール殿、すまん。でも本当のことだろう?)」
「ならば私達に立ちふさがる障壁は無いのですね
・・・ああ、嬉しい。いつ結婚してくださるの?」
「・・・すぐにでも。」
「本当に?」
リュランはアルベルト扮する王子に抱きつく。
「(俺は・・・騙している。すまない、リュラン。でも騙していても君を愛していることに偽りはない!)」
「ねぇ・・・抱いて・・・。」
熱っぽくリュランがアルベルトの耳に囁く。その空色の瞳に弾ける希望の光。
アルベルトは呻いた。
「(・・・この瞳に映るのは俺ではない・・・あの男、王子だ!
俺は卑劣なやり方で彼女を手に入れる!だからこれは神の罰かもしれない・・・。)」
「・・・どうなさったの?」
「いや・・・なんでもないよ・・・。
(俺のものだ・・・心は離れていても、俺のものだ。愛しているんだよ、リュラン・・・。)」
アルベルトは苦しげな表情で彼女をかき抱いた。
その顔は限りなく青ざめて見える。
「・・・君を愛している。」
そう言うとアルベルトは静かに彼女をベットに横たえた・・・。
やばい、テスト、やばい
深夜だから特に孤独感がやばい。
…小心者だ…自分。
そして追い打ちの宗教学と民俗学と哲学。
あかん…死ぬ。世の中大変なことがいっぱいあるけど、
皆こんなデスロードを潜り抜けてきた勇者なんですよね…ウルウル。
生きてるだけで勇者じゃないかwww!
…今回も読んでくれてありがとうございました。
試験早く終わらないかなー。
ちなみに姿変えといえばポ●ジュース薬ですよね。
ネタです…一応。