14.間話の間話_ルザネリーケ印『ゴキブリと蜘蛛の館』
こんな夫婦にしびれちゃう、憧れちゃう~(ウソ)
お互いを理解しあえる理想の夫婦だよねwww
ただ、運が悪かっただけだ、うん。
「・・・色々前衛的な劇だったわよ?主人公がゴキブリ愛好家の伯爵でね・・・屋敷に古今東西のゴキブリを集めて、放し飼いしてたんだけど、そのせいで女性は皆彼と結婚してくれないのよ。だけどある時、彼は自分の趣味を理解する奇特な女性と社交界で出会った。ルチアという公爵家の少女で彼女はゴキブリはそんなに好きじゃあないんだけど、彼女もこれまた変わった生き物が好きだった・・・。そのせいで彼女は美しいんだけど、男性陣から気持ち悪がられていたのよね。」
「・・・どんな生き物なのよ?」
ヴェーラは若干引きながら促した。
ヴェーラの横でダフネンは何かを理解したようにうんうんと頷いている。
「・・・蜘蛛よ。彼女は大きい蜘蛛が特に好きで、タランチュラの『ミミ』を飼っていたの。・・・だけど、そのゴキブリ好きの伯爵は自分の趣味を肯定してくれる彼女のことを認めてはいたけど、蜘蛛が嫌いで、嫌いで仕方なかった。それでも彼女を逃せば、彼が一生結婚できそうにないのは明らかで、ルチアも親から結婚できないなら修道院に送る、と脅されていたので・・・二人は結婚してみることにしたの。」
「・・・変わった者同士の結婚ってわけね。」
「・・・そう。周囲は二人の結婚を変人同士の結婚って嘲笑ったわ。ゴシップ記事はこれみよがしに騒ぎ立てて・・・二人の親は頭を抱えたけど、結婚せず後継者が出来ないよりかはましか・・・と胸をなでおろした・・・その矢先、結婚式前夜に・・・ゴキブリ伯爵の愛するゴキブリ『ヘラクレス』が『ミミ』に食べられてしまったのよ・・・。二人は結婚式当日の朝そのことに気付いた。彼らは互いを罵り合って・・・仕舞いには結婚しない!ってなったのよね。」
「・・・そりゃ、蜘蛛はゴキブリの天敵だしなぁ・・・なんで知らねーの?ゴキブリ伯。
つーか、ルチアはゴキブリの館にいたのか?」
ああ、気持ち悪い・・・と呟くマルクスの腕には鳥肌が立っていた。
ベルナールはそんなマルクスの様子を見て一言、
「・・・お前、そういうの嫌いなんだ?」
と言った。
ベルナールの何とも間の抜けた質問に呆れ顔でマルクスは応えた。
「・・・お前・・・ゴキブリ嫌いだよな?」
「ああ・・・まぁな。」
「当たり前のことを聞くなよ。全く。
蜘蛛、蛇、ネズミ、ゴキブリ、コウモリなんかは万民が嫌いだっつーの。」
「好きな奴なんて見たことがないな。」
ミカエルが相槌を打つ。
「・・・俺別に・・・蛇とかネズミ嫌いじゃないぞ・・・。」
ポツリと呟くと、不思議そうに考え込むベルナール。
マルクスとミカエルはギョッとしたように顔を見合わせる。
「・・・お前、変わっているな。蛇は原罪の象徴だし、足が無くて気持ち悪いだろう?
鱗とか目とかも気持ち悪い・・・。まぁ、蛇を讃える奴らもいるからそれは良いとしても・・・。」
「・・・ネズミはねぇだろう?お前、奴らは害獣だぜ?
しかも・・・ペスト運んでくるのに何処に好かれる要素が?」
「・・・よく見ると目が可愛いだろう?」
「・・・そうか?
私には妙にガリガリして見える輪郭に離れた目がくっついている印象しかないな。」
「・・・俺、あの長い尻尾がもう無理。毛が生えてないツルツルの
無駄にでかい灰色ネズミとかもう死んでくれって感じじゃねぇか・・・。」
ネズミの姿を思い浮かべたのか二人の口元は歪んでいた。
「可愛いのに・・・。」
「「可愛くない!」」
「・・・三人ともちょっと黙って。んで、ルイッツァ続けてよ。」
ヴェーラは手で三人を手で制しつつ促した。
「・・・え、ああ・・・。じゃあ続けるわね。どこまで話したっけ?・・・そうだ、結婚をドタキャンしたところからね・・・当然そのことを知った二人の親戚達は怒り狂ったの。結婚式当日に何やってるんだ、ってね。焦った親戚達は彼らを強制的に教会に連行して神父まで買収して無理やり契約書に判を押させると彼らを伯爵の屋敷に押し込め、外に見張りをつけた。閉じ込めておけば嫌でも二人とも仲良くやるだろうと期待してね。結婚したら婚姻って解消できないでしょう?結局、ゴキブリ伯爵はルチアと『ミミ』と過ごすことを余儀なくされるのよ。『ミミ』は『ヘラクレス』に味を占めて伯爵の目を盗んでは、どんどん伯爵の愛するゴキブリ達を食べていくのよね。そしてよく肥えた『ミミ』は産卵しどこからかやって来た番と共にその子孫を増やしていく。数ヵ月でゴキブリ伯爵の屋敷はすっかり蜘蛛屋敷に・・・。ゴキブリは一匹もいなくなってしまい発狂寸前の伯爵はルチアと度々喧嘩して・・・とうとう刺し殺しちゃうのよ。」
「・・・・・・その前に見張りはどうしてなんとかしなかったのよ?」
「なんでも・・・ゴキブリ屋敷には一歩も入りたくないとかでね。
メイドも嫌がって来ないから元々伯爵は一人暮らしだったの。
だから・・・見張りが毎朝二人分の食料を届けてたんだけど
ドアの前に置くだけで、彼らは一歩も中に入ろうとしなかったの。」
「・・・あ、そう・・・。そりゃ入りたくないわ。」
ヴェーラは何とも言えない微妙な表情をするとブルっと身を震わせた。
「・・・ゴキブリに蜘蛛!気持ち悪い!」
「それで・・・彼女を殺したことを見張りにも言えない伯爵は彼女の死体と過ごしているうちに蜘蛛が自分につきまとってワルツを踊っているという幻覚を見るようになるのよ。
それで最後には自分の体にたかって肉を喰らうって幻想をね。とにかく気持ち悪いシーンが延々と続くのよ。それで、彼が蜘蛛から逃げようとすると血まみれのルチアが恨めしげに彼を睨んでるの。彼はとうとう発狂して・・・自分で屋敷に火を点けて焼け死ぬのよ。」
「・・・やめて・・・。気持ち悪すぎる・・・。
・・・変わり者同士の恋愛だと思ったわよ。」
ヴェーラは微妙な顔をすると落ち着かなげにモゾモゾと体を動かした。
「・・・ゴキブリなんか大嫌いよ。蜘蛛も嫌い。
そんな劇ちっともロマンチックじゃないじゃない!
夢を売るというよりトラウマ植え付けてるわよ、その劇。」
「男女・・・久しぶりに意見が合ったな・・・俺もちょっと寒気がするわ。」
ゴキブリ・・・蜘蛛・・・ネズミ・・・とうわ言のように繰り返すマルクス。
「・・・大丈夫?マルクス?
ヴェーラ・・・私も美しい恋愛期待していたら裏切られたのよ。
猟奇的すぎて・・・見た後も鳥肌がゾワゾワっと続くのよね。
ちょっと精神的にきたわ・・・。」
「・・・その劇って『ゴキブリと蜘蛛の館』だよね。」
ダフネンは感慨深げな様子でルイッツァに問う。
「そうだけど?」
「・・・実はラストシーンだけ僕が台本を書いたんですよ・・・。
だから取り敢えず僕も製作者の一人なんだよね。」
「え?ダフネンが?あの伯爵が火をつける場面を?」
ルイッツァはびっくりしたように聞く。
ダフネンはハァと溜息をついた。
「・・・そうなんですよ。ルザネリーケの奴が書いたラストシーンのプロットが気持ち悪すぎて・・・監督が修正しろって言ったんです。そしたらルザネリーケの奴、修正するなら台本を降りるって言うんですよね・・・。結局僕にお鉢が回ってきましてね。最後の部分だけこれでも僕が修正したんです。でも奴の設定が強烈過ぎて僕には気持ち悪さを和らげることがあまり出来ませんでした・・・。」
思い出したのか彼の口元が若干ひくついている。
「・・・奴のファンはいいんですけど、他の人達はさぞかしドン引きでしょう。
まぁ・・・ちょっとはグロさを減らしました。『ゴキブリと蜘蛛の館』の売りはグロテスクですが・・・彼は少しやりすぎたんですよ。」
「・・・どんなラストだったの?本当は。」
「ルイッツァさん・・・本当エグいですよ?今世紀最大の胸糞悪さですよ。」
「・・・いいから早く。」
ゴクリと唾を飲み込むルイッツァとヴェーラ。
聞きたくなさそうに青い顔をしているマルクスとミカエル。
平然としているベルナール。
話していいのかなぁ・・・と思いつつダフネンは口火を切った。
「・・・うーん、言っても大丈夫かなぁ・・・。まぁいいか・・・。それでですね・・・
口論の果て、怒り狂った伯爵はルチアを殺した後にその首を切断し、蜘蛛の群れの中に放り込んだ。蜘蛛たちは主人の首を躊躇いもなく喰らうんですよ。そして食べかけからは・・・う、蛆虫が・・・発生して・・・腐って形の崩れた暗い眼窩からも這い出てくるんですよ・・・。
ああもう言いたくないです。・・・それで伯爵は笑うんですよ。『そら、見たことか。君が可愛がった蜘蛛が君を食べている!いい気分だろう?ルチア?』って・・・。それから伯爵は狂ったように笑いながら蜘蛛たちを撲殺していくんですが・・・プロットにその体液が伯爵の服にベットリつくって走り書きがあって僕は想像しただけでげんなりしました。それで・・・」
その時、マルクスがカクリと首を垂れた。
その目は白く反転している。
「・・・お、おい・・・マルクス・・・?気絶しちゃったのか?」
ベルナールがその体を支えた。
「こいつ・・・見かけは粗暴だけど結構内面ナイーブなのよね。全く。」
ヴェーラは呆れたように笑った。
「・・・よっわい男!」
「・・・まぁ、可愛いじゃないか。ベルナール、そのまま支えていられるか?」
ミカエルも内面は結構繊細なので実際倒れたいくらいには憔悴していたが、『よっわい男』だとは思われたくないのか気丈に振舞おうとシャキッと背筋を伸ばした。
そんな友の様子を見て笑いがこみ上げてくるベルナールだった。
「ああ、大丈夫だ。ミカエルも倒れたくなったら俺が支えてやろうか?」
「・・・結構だ!俺は大丈夫だ!」
「・・・無理するなよ・・・なぁダフネン続きを聞かせてくれないか?」
ベルナールは意地悪く促してみる。ミカエルはその言葉に一層顔を青くする。
「・・・もういい。勘弁してくれ・・・。」
「・・・ちょっと、これ以上は私も・・・あ・・・、そろそろ幕が上がるわよ!」
ルイッツァが舞台を指差した。
…気分を害した人ごめんなさい。
こういうグロい話見てみたい…映画なんかで臨場感たっぷりに。
読んでくれてありがとうございます。