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11.間話_ひねくれた台本

本編に戻る前に間話です…。

アデリーヌが主人公の劇を最初から最後まで皆でみることにしたようです。

間話は読まなくても筋が通るように書きます…。

好きな人だけ読んでね…(^_-)

 「素敵よねぇいつ見てもアデリーヌは。」

感嘆したように言うのはヴェーラだ。

「・・・そうね。」

複雑な面持ちでルイッツァは応えた。

今、彼らは大衆劇場にいる。街一番の大きい劇場で収容人数は300人程だ。

ところでこの劇場は元々下品な風刺劇を行う劇団や大道芸人達と契約していた冴えない感じの劇場で規模もそれ程大きくなかった。しかし数年前、アデリーヌの属する劇団と契約してからその売上は天井知らずといった感じでそのステータスもグンと上がった。

アデリーヌの麗しさを一目みようと客層には貴族も加わり、そのチケットの料金も前と比べれば恐ろしい程高くなった。それを買い占めた業者が更にオークションにかけるのだからアデリーヌ効果おして、知るべし。だが、街の市民の中にはこの劇場がいつの間にか高級なものになってしまったと嘆く者もいる・・・まぁその話は割愛。

煌びやかな舞台の上、高い競争率をかいくぐった熱烈なファンの視線の先にはひとりの少女。ひときわ豪奢な装いとその美しさで彼らの目を焼いている。

妖精のように本当に羽がついているのではないかと思ってしまうほど

その姿は透明で、それでいて艶やかに匂い立っている。

彼女こそがアデリーヌ。ルイッツァの幼馴染だ。

私が彼女と幼馴染だなんて・・・嘘みたい。

ルイッツァは心の中で零す。

片やタダの酒場の娘。片や大スター。

勝てるわけないよ・・・と彼女は心の中で零す。



ところでアデリーヌが今扮しているのはリュランという娘だ。

奔放で無邪気な光の妖精の姫君だ。

ある日気紛れでリュランは光となってとある王宮の庭に降り注ぐ。

そして許嫁と散歩している王子に恋をする。

だが彼はその許嫁を深く愛し、その上忠実だった。

夜になり王子は私室の窓辺から昼間恋人と歩いた庭を眺めていた。

その時、月の光と共に突如リュランが現れ彼に口付ける。

彼女は王子に自分の愛を受け入れるように迫る。

今その場面を『芸術家クラブ』の面々は見ていた。




「ああ・・・美しい人。昼間の君は俯き勝ちに控えめな淑女

・・・ユリの花のように。でも私は夜にこそ君の顔が見たいものだ。

君は夜になったらどんな顔をするのかな?ああ・・・私には見える。

君が蠱惑的に白い肢体を投げ出す姿が!そして私は君の黒い髪に顔を寄せるのだ。

一体どんな香りがするだろう?・・・花の香り?それとも刺激的なムスクの香り?

それとも・・・優しい木々の香りだろうか?」

自分の私室の窓辺に寄りながら昼間共に過ごした恋人の姿を脳裏に描き悩ましげな息をつく王子・・・もといアントニオ。彼は歌う。

「そうだな・・・あの人には優しい匂いが似合う・・・。

でもムスクの大胆な香りも面白いだろう。たまらないな・・・。」

「王子様、もうお休みなさいませ・・・。」

従者のアルベルトは主人の惚気けた風情にうんざり顔だ。

「・・・ああ、寝るとも。すまぬアルベルト。」

「あの窓辺の月・・・私はあれに思いを込める・・・。君は見ているかい?」

「もうお休みになって下さい!私恋人いないのです!拷問です!」

「すまぬ、すまぬ・・・もう寝ることとしよう。」

その時月の光がすぅと窓辺から差し込む。

それは徐々に人型を成して・・・リュラン・・・アデリーヌの登場だ。

どんな仕掛けかはわからないがその登場シーンは良くできたもので

幽霊のように透けているアデリーヌの体が徐々にはっきりしていくのは見事だった。

突然の闖入者に呆然といった態の王子とアルベルトを前に

リュラン役のアデリーヌはしっとりと王子にまとわりつき、歌う。

「私の美しい王子様。聞いてくださいな。私は今、牢獄につながれていますのよ。

恋という名の・・・聞いてくださいませ。私を救えるのは貴方だけですの。

どうかその腕で私を抱いてくださいな・・・。」

王子役のアントニオは一歩下がり遠慮がちに返す。

「・・・聞いてください。お嬢さん。私には心に秘めた女がいるのです。

彼女は私の心そのものなのです。如何に貴方が神秘的でも私はあの女を・・・。」

追いすがるように彼の腕に自分の腕を回すリュラン。

「まぁ、あの女の何処が良いのです?あんなの・・・どこにでもいる普通の人間の女ではありませんこと?私の方が美しいではありませんか?私の方が貴方の欲しい物をあげられますわ。私の方が夢のような快楽を差し上げられますのに。」

「・・・貴方は私の恋人を侮辱なさる・・・。一体どのような物をお持ちで・・・。」

苛立った調子で声を荒げる王子。

「・・・そうですわね・・・この世ならざる富、名誉・・・そして不老不死・・・そうですわ!

ソロモンのように古今東西の知恵を手にしたくはありませんこと?

ほら、この額飾りをご覧遊ばせ・・・これは私の力の全てです。

これを手にすれば・・・貴方様はこの世で最も幸福な方!

巨万の富、神にも並ぶ栄誉、海の如き知恵、そして瞑ることのない眼を以て

国を治める偉大な王になれましてよ・・・。

私は貴方にこの額飾りを差し上げますと・・・ただの人の子の女となりますわ。

そしていずれは朽ち果てる・・・。でもそれでもかまいません。

貴方と添えるのならば・・・。

私を手にすればあらゆる物が手に入りますわ・・・。

お願いです・・・あの平凡で取り柄のない女を捨ててくださいませ。」

「・・・残念ながら私の心を打つものでは無い・・・この薄汚い娼婦め!」

彼女の腕を王子は乱暴に振り払う。

「・・・な、何故そのようなことをおっしゃるの?

どうして私をそのような目で見られるのです?」

勢い余って床に倒れこんだ彼女は蹲り悲しげに声を震わせる。

「君なんて、唯の娼婦ではないか?そうだ、そうだとも。夜に勝手に人の部屋に

入り込むとはまるで娼婦のようだ。お前には全く惹かれない!

それに比べ・・・私の恋人には高貴さがある。内面からにじみ出る・・・。

なんの権限があって我が恋人を貶める・・・。お前はなんと傲慢なのだ。

お前など・・・お前の本性は人の恋人を横取ろうとする薄汚いメス豚ではないか!」

王子・・・アントニオは怒気もそのままに引き止めるリュランを振り切って部屋から出ていってしまう。チラリと彼女に目をやり、後ろ髪引かれるように従者アルベルトも退出する。

泣き崩れたリュラン・・・アデリーヌは狂乱し歌いながら舞い踊る。

「ああ・・・あの人は出て行ってしまったわ・・・。どうして行ってしまったの?

・・・悪気は無かったのよ・・・怒らせる気も・・・事実を言っただけなのに・・・。

私のほうがいいわよ・・・絶対・・・。ほら・・・この身体の優美なこと・・・。この髪の鮮やかなこと・・・瞳は貴方を求めて落ち着かない・・・。

・・・あ、涙が・・・。どうして?私泣いたことないのに・・・。

どうしてあの人は怒って去ってしまったの?

あの女よりも私が劣ってなんて・・・一体何処が

・・・私の何処が気に入らなかったの?美しい方!」

彼女は自分の傲慢さに気づかなかった。妖精の姫として人間のことをいずれ死ぬ哀れな動物として知らず知らず下に見ていたから。一通り踊り終わると彼女は蹲って慟哭する。




しばらく水を打ったような静けさが場内に満ちた。

アデリーヌの迫力に観客は気圧され、金縛りにあっていたのだ。

だがやがて・・・ウワァッと観客の大歓声の渦に包まれる。

このシーンはアデリーヌの独壇場、リュラン役の最大の見せ場でもあるのだ。

歌いながら踊らなくてはならず、更には妖精の姫の心情まで表現せねばならない・・・。

並の役者ではこの役をやるのは難しい。アデリーヌだからこそ出来る複雑な演技だ。

『芸術家クラブ』の面々は何かに憑かれたようにピクリともしなかった。

「うわぁ・・・、アデリーヌのお姫様キラー来たわね。」

最初にヴェーラが関心したように言う。

「・・・確かにアデリーヌには天然、儚げな正に『お姫様』な役が本当に似合うな。」

ミカエルもヴェーラと同感だった。

「しかし・・・今回のアデリーヌの役って結構ナルシストだよなー。」

マルクスはケケケと笑う。

「そうよね・・・普段の彼女がああだったら・・・嫌いになる自信はあるわね。」

「・・・あら、ルイッツァ・・・どうして?」

「だって、あんな美人で『この身体の優美なこと・・・。』とか言われたら・・・。」

身体をなぞるリュランの動きを真似するルイッツァ。

「あー。分かる。王道的嫌な女って感じ?

でもその動作はやり過ぎてて・・・むしろ滑稽かも。」

アハハとヴェーラとルイッツァは笑った。

「でも・・・王子みたいな男って珍しいですね・・・。

普通さ・・・部屋に現れた妖精リュランと恋に落ちて

それまでの恋人がフラれる・・・ってのが常道じゃないですか・・・?

こんなひねくれた台本誰が書いたやら・・・。うーん、もしかして・・・?」

ダフネンには心当たりが有るのか無いのか・・・首をかしげている。

ベルナールが相槌を打つ。

「確かにな・・・こんなにヒロインを罵倒するヒーローも珍しい。

娼婦とか薄汚いメス豚とか・・・。台本書いたやつは相当イラついてたんだな・・・きっと。

それかアデリーヌを罵倒してみたかったのか・・・間接的に?まぁそういう趣味のやつもいるけど・・・。だとしたら随分サディスティックなことだな・・・。

でもさ・・・はっきり言ってアントニオが心配だな。後で彼女の熱狂的なファンにケチョンケチョンにされなきゃいいよな・・・。周りの奴がさ・・・。」

さっきから「アデリーヌちゃん。泣かないでー。」とか「くそっアントニオの奴!」

「くそ・・・羨ましい。アデリーヌちゃんを苛めてみてぇ・・・いや苛められてみたい?」とか「アントニオ、そこは俺の場所だぁぁ!」だの「俺がいるぞぉ!アデリーヌちゃんの王子様になってやるよぉ!」という声が聞こえてくる。逆に女性は黄色い声を上げて「きゃー。アントニオ様ったら。私も苛められてみたいわぁ。」とか「薄汚いメス豚でもこの際良いから夜這いしたいわ!」とか「アデリーヌになりたいわ!羨ましすぎ・・・。」とか「罵って殴ってくださいまし。アントニオ様!」だの「アントニオ様専属の娼婦になりたい・・・。」だの好き勝手なことを言っている。

「・・・近頃の女性は猟奇的だな・・・。」

ミカエルが冷や汗をかく。

「苛められたいとかマゾにも程があるだろ・・・。実際に虐められてみろやコラ。」

呆れたようにフンッと鼻を鳴らしマルクスが呟く。その目線はヴェーラを射抜いている。

「何よ、その目。お前ら男だって『アデリーヌちゃんを苛めてみてぇ・・・。いや苛められてみたい?』とか言ってんじゃねーかよ。」

「俺が言ってんじゃねーよ。俺にはそんな性癖はない!

俺は・・・ひたすらお前の暴力が止むことを望む!」

「うるさい。お前の減らず口を縫い付けて監禁して餓死させてやろうか?」

「うるさいぞ、お前ら・・・劇が再開するぞ。セットが変わった。」

「すまん。ミカエル。コイツがうるさくてな・・・。」

「あら、ごめんなさいミカエル?

なんせこのならず者もどきの粗野なお子ちゃまがうるさいったら・・・。」

「俺より酷でぇ!」

「あー、はいはい・・・お二人さん落ち着いてね?

マルクスも喧嘩売らないで・・・ヴェーラももっと上品に女性らしく・・・。」

ベルナールは疲れたような声音で宥めた。




結構ダラダラ間話が続きます…。

童話を作るような感じで作ったのですが、話の筋が重いな…と自分でも思います。

…読んでくれてありがとうございます。

アドバイス出来たらお願いします。

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